戦前期・日本の帝国海軍は1920年代の世界的な海軍軍縮の流れに組織内部の意識がついていけなかった。執行部(=海軍省などの軍政派)は、新しい外交思想をよく理解していたが、現場は対外的協調姿勢を単なる弱腰としか見なかった。
強力な海軍が混迷し、太平洋戦争に至ってもなお内部がゴタゴタしていたのは、それ以前に生じた亀裂が原因である。
陸軍も同じである。
宇垣一成による軍縮断行は世界的な潮流に従うものであったが、組織内部に生まれた反発が若手将校をまとめ、それが最終的には皇道派・統制派の派閥対立を生み、対外戦略よりも部内の人事バランスにエネルギーを使うという状況になってしまった。
巨大組織は、外部勢力との戦いには強いが、内部に生じる派閥対立には脆いものだ。
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自公両党による軽減税率協議も首相官邸の少々強引な介入により一応の結論は見えてきた。そんな報道である。
しかし、消費税の軽減税率には経済学者、財政学者を含めほぼ大半の専門家が反対していると伝えられている。この反対は理論的にも筋が通っているのだ。
衆議院において自民党は292議席、公明党は35議席でしかない。なぜ自民党が自らの基本方針を曲げてでも公明党の言い分を尊重しなければならないのか。連立政権は欧州にも多いが、ドイツにおいて与党の一角を占めていた自由民主党(FDP)が巨大なキリスト教民主・社会同盟(CDU・CSU)を振り回していたなど聞いたことがない。
おかしい、と。そんな観点は当然あるわけだな。
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一部の食品について消費税率を8%の軽減税率にする。10%か、8%か。そんな細かい点でもめることに何か実質的な意味があるのか?
10%一律のほうがシンプルで混乱がない。なるほど理論的にも正当である。
大体、税率10%など欧州の20%、25%に比べると微々たるものだ。そのくらいの税金を納めずして、社会保障がどうとかこうとか、求めることばかりをいう資格はない……。
こんな言い分もあるのであって、財務省もこれに近いと思われる。
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ただ、欧州で実施されている付加価値税率を見てみると、食品に10%の税率を課している国は(あることはあるが)多くはない。
たとえばドイツ、フランス、イギリスの例をみると、それぞれ標準税率が19%、20%、20%(いずれも2015年1月1日現在)だが、食品には7%、5.5%、(何と)0%の軽減税率を課している(出所)。
消費税で徴収した歳入増加を社会保障の充実に充当するのであれば、たとえ消費税率を30%に引き上げても、その分社会保障が充実され、医療や年金、介護サービスの水準が上がるわけであるから、(ロジックでいえば)国民は何も痛税感を感じないはずだ。実際、デンマークでは本年1月1日現在で付加価値税率が25%でありながら、軽減税率は一切設けていない、食品も医療も書籍も25%の税率。これはこれで大変だろうと思う。しかし、国民は高福祉・高負担の原理原則を理解しているのだろう、ついてきているわけである。
デンマークは大したものだが、同じ北欧のスウェーデンは標準税率25%に対して、食品は12%と税率を低くしている。フィンランドもそうだ。
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社会保障に充当するのだから、消費税率は必要な分だけ税率をあげ、そしてシステムはシンプルなものとして、理解しやすいものにしよう。これは正論である。
しかし、世界の現実をみると、どうやら正論(であるはずの政策)が機能しないようだ。正しいはずの理論を基準にして、多くの国が間違っているのだと理解するよりは、そうする方が何らかの意味で合理的なのだと考える方が理にかなっている。
ここから分かることは、
本来、正しい理論というものはない。現実がとるべき方策を教えている。こんな発想なのだろう。
とるべき方策を決めたあと、それを正当化する理論モデルを造るのが学者の仕事だ。ま、こうなるのだろう。
著名な統計学者であるボックス(George E. P. Box)がある本の中で書いている言葉だが
... all models are wrong, but some are usefulこんな認識がある。帰納的な経験主義に基づけば、こんな考え方になる。
だとすれば、政治的嗅覚から、来年の参院選を考えると、いまは食品全体を軽課するべきだと。こんな没理論的な選択をする政権幹部(?)がいるとしても、これはこれで正論である。
専門家は政治家に従うべきである。先の敗戦から日本が学んだとすれば、この一点だろう。
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ま、いずれにしても現政権は高支持率を維持し、反対勢力も弱体で長期政権必至の情勢だが、唯一つ挫折するとすれば、内部の足並みが乱れる、内部の意識が執行部についていけない。
そんな時であろう。
【加筆】
夕方になってから『酒類を除き外食を含む食品全体を軽減税率対象とする』ことで自公幹事長が合意したとの報道あり。これによる歳入減少は1兆3千億円に達するという。これで予定されていた社会保障充実、浮上していた低所得層への一律給付などもボツになるであろう。自民党内部でのイメージ悪化があり、また支持基盤への実質的利益の規模等々を考えると、本当にプラスの成果があるのかという点も疑わしい。
今回の公明党は、戦闘では勝利したが、戦略的には失敗であったかもしれない。
【加筆第2弾】
本日(12月12日)になって自公両党がやっと合意したということだ。先刻、谷垣自民・井上公明党幹事長が公式に語っていた。外食をはずし食品全体を軽減税率対象に含めるという結論に落ち着いた由。「不足する財源はこれから探します」ということだ。人事院勧告に基づく給与引き上げが先日閣議で決定されたが、あれは大丈夫か?刑事裁判には一事不再理の原則があるが、閣議ってヤツはどうなんでしょう。「公務員諸君、すまぬ、あれはなかったことにさせてくれ」と。これが可能なら問題は一挙に解決されるのではござんせんかねえ。公明党のほうが「それはちょっと止めてくれませんか」というと思うが。
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