2017年9月4日月曜日

多国間の現状固定・相互不可侵の裏付け

北朝鮮は既に核保有国である。そう認識しなければ何も進まないだろう。

覇権闘争はゲーム論の枠組みを当てはめればタカ・ハトゲームである。通常、タカ・ハトゲームでは、一方がタカ(=リーダー)になり、他方がハト(=フォロワー)になる状態がナッシュ均衡である。タカ対タカ、つまり全面戦争を覚悟した強硬路線を双方がとると、双方とも利益がゼロないしマイナスになる。なので戦争は常に限定的であり、どちらがリーダーになりうるかを知るための(必ずしも必要でない)プロセスとなる。双方が融和的なハト・ハト状況は、ナッシュ均衡ではない。というのは、片方がタカ戦略(=アグレッシブな外交方針)をとって利益を拡大しようという誘因があるからだ。ナッシュ均衡ではないにも関わらず、合計利益が最大となるハト・ハト状態を実現するには、国際的共同体など何らかのメカニズム、利益配分システム、違反者に対する懲罰システムが必要である。

これが標準的な授業内容だ。

が、一方が核保有国となり、他方が非核保有国である場合、双方が激突するタカ・タカ状態は、片方のみにとってマイナス利益となる。なので、タカ・タカ状況はありうるが、非核保有国は核保有国に従属する方が利益にかなうと最初から明らかであるので、戦わない。つまり非核保有国は核保有国の恫喝に屈する。であるので、核保有国と非核保有国の間に限定戦争が生じることはない。非核保有国が必ずフォロワーに、核保有国がリーダーになる。これが安定的なゲームの解となる。これまた教科書的なゲーム論のロジックから得られる結論である。

故に、朝鮮戦争がいまだ休戦状態で、かつ敵対する北朝鮮、韓国(更にアメリカも含め)の双方とも朝鮮半島全体の領有権を主張している状態を前提とすれば、北朝鮮が核保有国となった以上、韓国も必ず核保有国を目指すはずである。アメリカが支援国として核再配備をしなければ、自国で核開発を志向する。

もし韓国が核武装を進めれば、日本も必ず核武装を志向する。これが日本の利益にかなうロジックになる。なので、今後、(高い可能性として)核武装ドミノが進展すると予想しておくべきである。

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もし韓国が自力で核開発するのではなく、アメリカが韓国で核再配備を行うとすれば・・・、韓国への攻撃をアメリカへの攻撃だとアメリカ本土のアメリカ人が考えるかどうか。この度合いによる。つまりアメリカがどんなコミットメントをするかによる。核配備は即ち「張子の虎」かもしれないのだ。実際に攻撃を受けた場合、報復を控えることがアメリカの利益にかなう可能性もあるのだ。その不確実性がある分だけ、配備されているとはいえ自衛力は割り引かれて評価される。まあ、いずれにせよ、日本、韓国の意志がそこで別々に働く限り、日本にも核が配備されるはずである。日本だけには核が配備されない状態は(日米韓の軍事資源が統一的・一体的に運用されでもしない限り)日本にとってヴァルネラブル(vulnerable)である。

ここまでは簡単なロジックで予想可能である。しかし、アメリカが日韓両国に核配備を進めパワーバランスを維持するというこの状態も決して安定的ではない。というのは、中国、ロシアはアメリカの影響下にある日本、韓国が核武装する事態を歓迎するはずがないからだ。相手に従属することの損失が受け入れ不能なほど大きい場合、タカ・ハトゲームにおいては常にタカを志向する。なので、アメリカが核配備をしてパワーバランスを維持しようとすれば、戦略的劣位に立つことを怖れる中国、ロシアは新たな対応をするはずである。また北朝鮮も更に核技術を磨いてより優位に立とうとするだけである。

この無限ループは、本来は不安定なハト・ハト状態(=平和共存戦略)から得られる利益について理解が共有されない限り、必然的に継続される。

タカ・ハトゲームにおいては、いずれかが服従するまでは強硬なコミットメントを相互に繰り出すが、これは理論的に予想される事態だ。経済制裁とは限定戦争の一手段なのである。制裁強化は、限定戦争の強化であり、管理に失敗すれば全面戦争へと至るリスクがある。これが現在最も懸念されている可能性だ。

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戦略的ゲーム構造を変えない限り、関係国の選択を変えることはできない。

タカ・ハトゲームにおけるハト・ハト状態、つまり平和共存による利益配分がタカ戦略を単独で選ぶよりもはるかに大きいという確証を示す必要がある。

ゲームの構造をタカ・ハトゲームから同調ゲームへと転換することが望ましい。そうすれば、協調的核削減も将来いずれかの時点で可能になろう。

その方向に向けて、ありうる状態それぞれに関する利得を関係国が共有し、ゲームの完備性を確保することが大事だ。そうすれば、各国の理性的検討を通じて、合理的な解に到達する道筋が見えてくる。

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こう考えると、北朝鮮が既に核保有国となったいま、東北アジア内の核バランスをめぐって複雑な進展が予想される。これだけは確実になった。

標題の「多国間の現状固定・相互不可侵の裏付け」は、核バランスという主旨なのだが、一定の均衡状態に至るまでの道筋はかなりリスクに満ちたものになるに違いない。変化する情勢の中で自らがフォロワーの役回りを選択し、後手に回るのは愚かであり、得られる利益も薄い。かといって「自存自衛」などと叫んで暴走すれば味方が誰もいなくなる可能性が高い。これは元来た道である。

外務省である、な。今後の要所は。

それから憲法改正も非常に重要になってきた。憲法は統治の原則を示すものだ。感性が異なる外国人もロジックを語れば理解する。いくら現状が厳しいからといって、憲法どころではないなどと平気で言う人間集団がいるとすれば、信頼はされんわネ。あの国は怖いヨネと思われるわな。これまた誰でも分かる理屈だ。

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