8日に開催された関係閣僚による「エネルギー・環境会議」で新しいエネルギー・環境政策に向けた中間報告がまとめられた。これによれば2030年時点の原発依存率は、0%、15%、20〜25%の三案が採用された。経済産業省の総合エネルギー調査会の議論では、上の三案の他に「35%」と「市場の選択にゆだねる」も参考として明示されていたが、「エネルギー・環境会議」では、この二つを外すことにしたという。
どうやら政府部内では「15%」が有力な候補らしい。脱原子力路線はハッキリしてきたようだ。ま、脱原発自体は、ドイツも既に宣言しているので、驚くことでもないが。
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やれやれ。まあ、決めたいなら決めてもよろしいが、市場に選択をゆだねる案も削除したのは「やっぱり、確実な結論にしたいのですねえ」と改めて感じ入る次第だ。もし、再生エネルギー電力の立ち上がりが政府の財源不足で想定外に遅れ、一方で化石燃料価格が想定外に上昇したときは、日本経済に想定外のショックがはしり、労働市場は予想を超える激震に見舞われるだろう。リストラを苦にした自殺も当然増えよう。ギリシアのように焼身自殺すらTV画面に登場するかもしれぬ。そのとき、総発電量に対する原発比率を各年度▲▲%ずつ引き下げるなどと政府が決めていれば、それこそ自縄自縛となって、「○○原発を臨時緊急の措置として再稼働させる」と。またまた日本の行政は混乱し、経済産業大臣が責任をとって辞任するなどという事態になるかもしれぬ。こうなる確率は相当程度あるのではないか?そしてまた、こうした騒動は望ましくなく、不必要で、かつ避けうる混乱であると、今という時点でハッキリと言えるのだ。
当面の結論だけをハッキリさせたいが故に、近い将来でハッキリとしない点が増えるのだ。どうなるか分からない<仮定上の議論>を今やっても無意味ではないか?こういう意見は、要するに、そういうことなのだ。
こういう非科学的な発想が日本の公の場ではどれほど多いことか。こういう<仮定上の議論>を嫌がるスピリットこそ、東京電力が大津波襲来を甘く見た主因であり、リスク管理を怠り、十分な安全投資が手遅れになった根本原因なのである。「仮に想定通りにいかない場合にはどうするか?」という議論は、想定通りに行かないと考えていることとは違うが、日本国では「想定通りに行かないと考えているからこそ、そんな議論を仕掛けるのだろう」となる。「隠していることがあればオープンにするべきだ」という意見があふれるのだ。備えあれば憂いなしというが、日本国ではいつまでたっても憂いがなくならない所以であろう。
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<安全保障>なのだろうなあ、脱原発をはっきりといま言えと求めている理由は。それは分かるが、怖いから飛行機に乗らない。怖いから自動車の運転をしない。怖いから料理で包丁は持たない。怖いから冬の雪かきで屋根に登らない。怖いから原子力は使わない、・・・。別に悪い訳じゃないが、福島第一は人災なのではないですか?そう言う人が多いでしょう。不必要な技術不信、科学不信から結論を出すと、不必要な貧乏を招くよ、と。日本国全体の収入が減るよ、と。工場が流出するよ、と。チェルノブイリ事故に見舞われたウクライナの二の舞だよ、と。ウクライナは原発を再稼働したが、ずっと後のことだ。日本も、ずっと後、子供たちが原発を再稼働するのは許すってこと?その時は、もう我々は死んでいるかもしれないしね。「そんな風に考えているのか!」と言われても仕方がないのじゃないか。
何一つ、確実なことなんてないのである。政府がどんなに賢くとも、どんな決定を下すにしても、その決定が裏目に出るというリスクはあるのである。リスクがないかのような体裁にするのは不誠実である。失敗の可能性は日本人が共同で負担するしかないのだ。環境をきれいにし、環境に優しい産業しか持たないと決めるなら、これから産業構造の変化が進むだろう。経済的に苦しくなる家計も増えるだろう。社会が決めた以上、社会が支援するのは当たり前だ。教育コストも支援するべきだ。となると、年金はどうする。介護はどうする。賄えないじゃないか。政府の支出が増えるなら税金も増やさないといかん。しかし、こうなると決まった訳じゃないよね・・・
そう。もちろん<仮定上の話し>である。しかし、仮定上の話を嫌がる傾向が、(本当に)日本人のウィークポイントとしてあるなら、必ず再び、想定外の混乱に陥るだろう。次ぎにくる混乱は、地震ではない(それらは数百年、千年に一度くらいの頻度だ)、津波でもない(数十年に一度くらいだ)。もっと別の混乱であろう。これは、結局、行うべき議論を逃げたコストを、事後的に支払うということなのだ。
だから、今回の「原発依存率=▲▲%決定」のための議論は、「不確実は嫌い」という我々みんなが有している国民的・社会的・心理的なバイアスがもたらした議論だと思えるのだ、な。
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