本当に日本株を押し下げた民主党政権
日本経済研究センター主任研究員 前田昌孝
尖閣諸島をめぐる日中対立はますます中国側が態度を硬化させ、日本経済への悪影響も避けられなくなってきた。閣議で国有化を決めた9月11日以降、ニューヨーク・ダウ工業株30種平均の騰落が9勝6敗なのに、日経平均株価が6勝8敗にとどまる点にも、日本の置かれた状況が映し出される。ただ、中期的に見ると、日本株が突出して下がり始めたのは2009年9月からだ。鳩山由紀夫内閣発足の月でもあり、やはり民主党政権は内外の投資家に評価されなかったように見える。
(中略)
TOPIXのS&P500種に対する倍率は1990年にバブル崩壊が始まってから97年11月まではほぼ一貫して縮小したが、それから09年8月までは下限0.86倍、上限1.33倍の範囲でつかず離れず推移した。資産バブルの反動で日本株が8年近くも売られ続けた後は、割高感も消え、「恒常状態」に入ったと考えることもできる。ところが、09年9月以降は米国株が買われ、日本株が売られる局面に再び入ってしまった。
(出所)日本経済新聞、2012年10月3日より引用確かに上で言う通りなのだが、そもそも日本の株式市場は1990年末から20年以上も<長期低落傾向>にあり、アジア危機、ロシア危機などいくつか波乱がもあったものの、概括的には繁栄を続けた90年代の欧米、そんな上昇トレンドと日本は無縁であった。また2000年代以降の欧米株価に見られる長期横ばい傾向も、日本には当てはまっておらず、景気拡大と景気後退の1サイクルを経るごとに、右肩下がりの低落傾向から抜け出られない。この間、IT革新は日本でもそれなりに浸透し、今では日本のブロードバンド普及率、通信速度は世界のトップクラスであるし、電子書籍市場は出遅れているものの、ネット販売市場は順調に拡大している。それでも株価が下げている。もちろん円高要因を調整すれば、円表示で感じるほどには下がっていない。しかし、それでも日本に投資するべきではなかったのがこの20年である。これはハッキリしている。それは世界から日本にマネーが流入しなくなっているからであり、投資に値する企業は少なく、値しない企業が増えたという単純な理屈である。日本株式会社の衰退現象は、2009年の政権交代以降に進んだわけではない。政治ではない。経済に原因がある話しだ。民主党に責任を求めていい話ではない。政治に責任がないわけではないが、責任なら自民党にだってある。
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「国内株は暗い」という印象をつくっているのは、一つには原発事故であろう。福島第一原発で水素爆発が起こり東電株が暴落してから、安定株の象徴であった電力株全体が、(東電株暴落は当たり前だが)すべて2000円水準から800円水準に低下しており、電力株保有者の資産は半分以下になってしまった計算だ。これは世間の(特に高齢者世帯の)心理を暗くしているようにも思う。言うまでもなく、民主党政権のエネルギー政策が迷走しているからに他ならず、電力株が落ちても、新たなエネルギー産業が立ち上がるアグレッシブな動きがあれば、別の銘柄が上がってくる。しかし、それもなく、それどころか2030年時点に原発をゼロにするかどうかで政治家が不毛の論争をしているという有り様だ。
こういうことは引き合いに出したくはないのだが、小生の昔の同僚がまだ政府の中で働いている。欲目にみても優秀である。少し以前に再会して話しをしたが、相変わらずである。いま日本が解決しなければならない問題 ― 特に経済政策の課題 ― は、熟知しているはずだし、戦略も手順も考え出せるはずだ。手足になるマンパワーは組織内にいくらでもいる。専門家が足りなければ、全国からいくらでも客員で雇用できるのだ。しかし、霞が関から何も出てはこない・・・。
こういうことは考えたくはないが、官僚を指示するべき「国会議員」という集団の低能化が、政府部門全体を機能不全にしている。要するに、教習不十分による操作ミス、運転ミスだな。実際に起こっているのは、こういうことではないかと考えれば、あまりのパフォーマンスの悪さも辻褄があう。
とすれば、日本の株式市場の沈滞の責任まで民主党に負わせるのは理不尽だと思うが、、民主党のいわゆる<政治主導体制>は、現与党議員の人材レベルを全く無視した<許されざる暴挙>であったのかもしれない。小生は、2009年当時、友人と政権交代についてメール交換をしており、その時は「民主党のように中がバラバラの政党がなにか大きな政策などできるはずはない、どうせ2、3年もしたらスイマセンと言いながら退場するだろう」とからかった記憶がある。まあ、その通りになったのは、悲しいことであるが、もっと心配するべき点はそもそも何の資格審査も実績審査もない、ただその日集めた票の数で当落が決まる国政選挙で当選し、当選したから機械的に国会議事堂の玄関をくぐる議員集団、その低レベルが修正される可能性がなにも見当たらないことではあるまいか?これこそ日本の統治構造の危機だとすれば、これは<根の深い危機>である。幕末と同じく現代日本は、上から駄目になりつつある。最上部から上部、上部からその直下層、そんな風に上から下に空洞化が進行しつつある。そんな<日本型支配構造枯死現象>が進行中だとすれば、桜田門外の変から明治憲法発布まで30年、30年1サイクルの変動期に今はあるのかもしれない。そう思ったりしている。