仕事を始めたばかりの頃、職場で使われていたのは富士通のFACOM 230-75というマシンだった。その大きさたるや、現在のiPhoneやアンドロイド・タブレットからは想像もできないだろう。その巨体は、役所が入っていたビルの3階の一角を占める情報管理室なるセクションの奥の間に安座していて、運転中は大型の空調を常時回して冷却する必要があった。それでも室内には何となく暖気を含んだ微妙な気流が感じられたものだ。その計算機室は面積でいえば30メートル四方はあったろうか。余りに大容量の電気を食うので、365日連続運転のような稼働は難しく、毎日深夜にその日の利用が終わると一定の手順をへてシャットダウンを繰り返していた。サーバーではなく、あくまで計算機だったのだな。シャットダウン作業を始めてから、外部記憶装置から順に回転が止まり、最後に中央制御装置のランプが自ら消灯するまでに優に15分はかかったろうか・・・。いやまあ、遠い幻影のような風景となった。
細かいことは大分昔のことなので忘れてしまった。当時使われていた大型汎用電子計算機なるものは、コンピューター博物館というサイトに他の機種とともに解説されている。これをみると、演算速度は乗算で11メガフロップス(MFLOPS)、加算で22MFLOPSと書いている。メモリーは主記憶で1メガワード×36ビットと記している。現在は32ビット機も旧式になりつつあり64ビットの時代に入っているが、今流にいえばメモリーは4メガバイト(Mb)相当の水準だろう。
最近になって登場したCPUの動作速度を挙げると、一昔前のWintel機に使われていたペンティアム(Pentium)が300MFLOPSだった。FACOM 230-75の約30倍である。現在、広く使われているCore i7になると、もはやメガではなくてギガとなり、384GFLOPSである。つまり現在の東芝製ダイナブックは博物館で紹介されているかつての大型電子計算機に比べて、概ね3万5千倍の速さで動いている。そしてサイズはというと、30メートル×30メートルの専有面積から20センチ×20センチ程度にまで縮小したのだから、2万2千5百分の1になったと言えるのだな。
ザックリ言えば、サイズが2万分の1になりながら、能力は4万倍の高さに進化したわけだ。これが小生が仕事をしている間に起こったIT分野の技術進歩である。
☆ ☆ ☆
同じスピードの技術進歩がドローンなどの飛行物体製造技術で起こったらどうなるだろうか。現在のドローンは大体1メートル前後の大きさだ。それが2万分の1になれば、1ミリの20分の1、何と0.05ミリという微小物体となる。そして解像力は4万倍だ。飛行可能時間、飛行可能距離も想像を絶するに違いない。
小生は想像するのだが、30年程度の未来には、蜂や蚊よりも小さな人工飛行物体が群れをなして重要な建物の周囲を巡回して飛ぶようになるだろう。そして、不審な侵入者を発見すれば数体の飛行物体が人間の聴覚未満の微音を発しながら侵入者を追尾し、そのあらゆる挙動を警備本部に送信するだろう。話声も内部録音せずにただ転送するだけならデータを記憶する必要はなく設計がシンプルになる。
その情報を解釈し、必要な行動指示を発するのはもはや人間ではないかもしれない。現在急速に発展しつつある機械学習技術に支えられたエキスパートシステムが瞬時に状況を識別し指示を出すものと思われる。時間がもっとも大事だからだ。
商品を自動運送するのにドローンが使われ始めているが、あくまで1台のドローンが荷物を運んでいる。それがいいのか、微小飛行物体の集団が入れ替わりで支えながら運搬するのがいいのか、全く想像もできないが、いつかの時点で選択することになるのだろう。
商品を自動運送するのにドローンが使われ始めているが、あくまで1台のドローンが荷物を運んでいる。それがいいのか、微小飛行物体の集団が入れ替わりで支えながら運搬するのがいいのか、全く想像もできないが、いつかの時点で選択することになるのだろう。
★ ★ ★
アーサー・クラークの『白鹿亭綺譚』は小生の好きなSF短編集だが、そこに出てくるイメージは決して空想の世界とは言えなくなった。というか、マイケル・クライトンの「プレイ−獲物」により近い未来予想図かもしれない。
SF小説といえば、亡師の奥様が訳されたアシモフの『はだかの太陽』はロボット文明が世界に普及した時代を舞台にしている。イライジャ・ベイリとハリ・セルダンは若い頃に耽読した未来世界の二大ヒーローであったが、またこの齢になってから読みたくなるのは不思議なことだ。ま、こちらの世界はまだまだ遠い先には違いないだろうが。
0 件のコメント:
コメントを投稿