2015年7月16日木曜日

覚え書: 安保法案可決に思う

安保法案が特別委員会で可決された。与党のみによる強行採決である。政府はこんな状況を回避しようと色々と(特に維新の会と)手は打ってきたようだが、ついに見切りをつけたと見える。今日か、明日の内には本会議で衆議院を通過するだろう。

参議院の審議は停滞する可能性がある。だから、あらかじめ60日ルールを活用して、衆議院で再可決する道を残す。そのためにはタイムリミットがある。だから、というわけだ。

国会周辺では、新聞によってマチマチだが、数百人が反対のデモを繰り広げたらしい ― 主催者発表では1万人だったか、2万人だったか・・・。ともかく、何万人という大群衆が国会を包囲してという画像はない。そんな状況ではなかったのだろう。

新聞の論調とは違って、今朝のTVのワイドショーでも、安保はスルーという扱いに近い。そんなものかねえ・・・。

現政権の強気の背景は三点ある。

  • 大半の国民は、日本は危うくなっている、安全保障の強化が必要だ。そんな潜在意識をもっている。
  • 支持率が低下し、選挙に追い込まれても、いまの野党には負けない。
  • 野党と真っ向から対立しているわけではない --- 野党のうち、維新の会は目指す方向ベクトルとして重なっている部分がある。民主党も左翼は違憲だといっているが、野田、前原など右翼は特段何も語っていない。本音では、自分がやりたかったと思っているような節さえある。

こんな現状認識があるのだろう。


あてにならない世論調査とは別にある、全国民の潜在意識について与党なりにイメージをつかもうと努力していることは確かだと思う。

先日、TVでインタビューされていたのだが、『心配なことは心配ですけど、外国からなめられるのはもっと心配ですね』と。そんな若者がいた。ハッキリいえば、『中国からなめられるわけにはいかんだろう』。詰まる所は、ここに行きつくのではないか。巨大中国への警戒は、それこそ聖徳太子の時代から日本人の意識にはある。この意識は国際政治哲学の言葉ではどうにもならない。

日本の側のこの潜在意識とアメリカの財政状況、世界戦略上の必要性が互いにマッチした。そういうことだろう。


これで今国会において安保法案は確実に成立する見通しになった。

もし仮に、数万人の人数が本当に国会議事堂前にくりだして、国会周辺はおろか、桜田門から霞が関官庁街、虎の門辺りまでの街路を埋め尽くしてしまえばどうなるか?その大群衆が発する声は大音響となって首相官邸からも聞こえるであろう。

その場合には機動隊が投入され、散水、放水、催涙弾が飛び交い、群衆は投石、火炎瓶で応じる。そんな情景が撮影され、TV画面にもYouTubeにも流れるだろう。怪我人も出るに違いない。

こんな状況に立ち至って、なおも衆議院再可決で押し通すかといえば、(おそらく岸元首相なら覚悟はできていただろうし、党内から噴出する異論を押さえる力も持っていただろうが)、生死の関頭を乗り越えた祖父の世代とは違い、現政権にはそんな捨て身の勇気などはないに違いない。来年は参院選があり、参院選大敗は政権交代の序章にもなる。与党は分裂するであろう。

が、こうはならないだろう。

反政府デモはいま一つ勢いがない。それにそもそも、若くて、時間のある大学生であるが、安保法案に抗議するための学生集会は一体開かれているのか、いないのか。小生の勤務する大学では横断幕はおろか、抗議ポスターすら目にすることはない。まして全学ストで校舎を封鎖するなど、そんな雰囲気は皆無である。


そもそも「戦争法案」などという批判はあたらないのだな。

だってそうでしょ。たかがTPP交渉で、ごくごく少数の既得権益層が実損をこうむるというだけでも、「岩盤規制」などと言いつつ、圧力に屈して二の足を踏んできたのだ。

本当に「戦争」になれば、どんなことが起きるか?野党があおっている「徴兵」は実効のない愚策であって考えられないが、それでも下手をすれば契約の自由、財産権は制限される、移動、居住など基本的な自由が制限される。このくらいの可能性はある。更には、資金調達のため資本課税強化、その果てには国債の段階的紙幣化(=償還取消+利払い停止)もありうるのである。

そんなことまでありうると考える政府なら、ハラも座っているわけだから、とっくの昔に<TPP>で合意をしてみせてアメリカを喜ばせていたはずである。TPPが発効すれば、日本国内の食品の値下がりによって、大多数の国民には減税と同じ効果がある。いま各地で発行されている<プレミアム商品券>と同程度の恩恵を提供できる。どう少なく見積もっても、だ。だったら強行できるでしょう。

故に、今度の法案が、戦争法案であるはずはないし、そんなことは全く考えてもいない。それは明らかなのだ。


今後懸念されるのは以下の二点だろう。

  • 成立後、違憲判断が最高裁から出る可能性がある。
  • (国連ではなく)アメリカから軍事協力要請があったときに、憲法9条を根拠に断ることが難しくなる。

1941年に真珠湾を奇襲した理由もアメリカによる石油禁輸であった。日本はこれによって音をあげて、中国から全面撤退する道を選ぶだろうと、日本も陸軍サイドの本音は日中和平にあったのだから、アメリカはそう予想していたはずだが、日本は<自存自衛>のために南方を攻めることにした。そのとき、心配される米海軍を先に攻撃することにした。故に対米戦を選んだのである。

戦争は常に自国防衛を目的に、他に選択肢がないことを理由に、選ばれてきたのである。

しかしながら、こうはならない。なぜなら、現憲法では「交戦」を認めていない。ハッキリ『交戦権はこれを認めない』と明言している。だから、国際紛争時に戦争以外の選択肢を政府に強制している点は変わらないのである。この与件の下で集団的自衛権自体が違憲であると論証するとなると、憲法と国連憲章が論理的に矛盾することになり、『それでよく国連に加盟したね』と。そんなロジックは裁判所はとらないだろうとも思われる。では、何が契機となって違憲判断が出てくるか・・・、予想がつかないねえ。

いずれにせよ、現行憲法9条には安易な外交を避ける、不戦に向けた最大限の努力を政府に強制するというプラス効果がある。やはり憲法で不戦を定めておくことは国民の宝ではないか。そう思ったりもする。

どう書くか?そろそろありうべき条文を考えてもよいのではないだろうか。


懸念にもかかわらず、国際政治、国際ビジネス分野で仕事をしている人は概して日本の安全保障強化は必要だと語る傾向がある。

他方、法学者、ジャーナリスト、評論家など国内マーケットで仕事をしている人は今回の安保法案は違憲だという傾向がみられる。

戦前期に陸軍は主戦的で、海軍は非戦的であった。それは陸軍は外国事情を知らず、海軍は世界を知っていたからだと亡くなった父がよく語っていた。現在の状況と必ずしも対応をとりにくいのだが、国際経験の大小で反応がクッキリと分かれる、こういうことはどこかで共通した要因によるものかもしれない。

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