2004年以降であったか(?)、本来ならば従業員500人以上事業所については全数調査であるところを東京都内ではサンプル調査に変更していた、しかも抽出率調整を行っていなかったというので、この分野においては珍しく、一大騒動になっている。労災保険や失業保険金の算定にも使用されているデータであるから、この「手抜き」によって生じた国民の損失も巨額である。
ニュートンが古典力学体系を完成できたのも、前代にケプラーが基本3法則を発見してくれていたからであり、そのケプラーの法則は彼の師匠であるティコ・ブラーエが精密な観測データを長期にわたって蓄積してくれていなければ発見されることはなかった。分野を問わず正確なデータを蓄積しておくことは、「すぐに役立つ」という次元を超えて、近代国家の大前提であると言っても過言ではない・・・というのは誰でも分かっていたはずなのだが、それでも行政基盤の弱体化を目の当たりにして愕然としているわけだ。
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手続きを踏むことなく統計調査方法を勝手気ままに変更していたというのは、明らかに統計法違反であるから、「手抜き」を超えて「不正」という名称が使われるようになったのは仕方がない。
本日の朝刊には本件に関する特別監査委員会による中間報告が報道されていた。それによると、「組織的隠蔽」はなかったものの統計業務執行の在り方としては「言語道断」。そんな姿勢であるようだ。
それに対して、一部の専門家(何の専門家は不明だが)は「トカゲのしっぽ切りは許さない、監査委員会でできないなら国会でやるべきだ」という発言もしているようだ。
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トカゲのしっぽ切りねえ・・・。ま、確かに厚生労働省事務次官以下の官僚が処分され、それで何の対応も行わないというのでは、とても片がついたとは言えない。そんなことは分かりきっていることだ。だから、中間報告なのだろう。
個人的な予想だが、厚労省の「統計情報部」という組織は、イヤイヤ、今は「統計情報部」ではなくて政策統括官が多数並列している「ナントカ統計室」を所管しているのであったな、・・・その組織全体が丸ごと改編されるのではないか?そう観ている。
今回の不正の発端は、どうやら担当係長と東京都とのやりとりであったようなのだが、詳細は報道からは不明である。おそらく監査委員会は当該係長から話は聴いているのだとは思われる。が、もう10年以上も昔のことだ、記憶にも濃淡があって、正確な復元は無理だろう。
率直にいえば、小生も似たような環境で同様の仕事を担当していたこともあるので、雰囲気としては容易に想像できる。
まず何かの問題がある。下から「こうするしかない」と方向が固まってきて、次第に確定しかかってきた段階で課長補佐に上がり、課長にあがる。課長に上がる頃には「先方もこれで行けると態勢を組んでしまったんですよね」という、「こちらからちゃぶ台返しをするとなると相応の基本方針を示す必要があると思うんですよね」と係長は言う、それに対して行政改革の暴風雨のさ中にあれば課長はびびり、局長にあげると局長も「仕方がないだろう」という。まあ、そんな所だろうとは思う。
統計業務は極度にボトムアップ的であって、末端の仕事の結果が「一気通貫」というかトップにまで上がって行ってしまう仕組みである。
だから直接実行したのは担当係であり担当課であり担当局である。真っ先に担当官僚が処分されるのは当たり前である。
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こんな言葉がある。確かずっと昔、雑誌『舵』で連載されていた「キャビン夜話」の中の一節であったかと思う。
一般にレストランに客が入らないのはホール担当者の責任ではない。客が入らないのは主として経営者の責任である。小生はずっとビジネススクールでデータ分析を担当してきたのだが、データ分析の授業が悪いので履修者が少ないという言い方にはどうしても反発を感じてしまうのだな(^^;;)。データ分析の授業を履修する学生が少ないのは、小生が勤務するビジネススクールの経営戦略、アドミッションポリシー、カリキュラム戦略によるところの方が圧倒的に重要であると考えている。
官僚が業務を推進する現場で「手抜き」や「不正」が行われ、それが修正されることなく継続されてきたのは、個人的責任を無視することはできないにしても、中央官庁を設計する内閣、及び内閣の方針を了承してきた国会により大きな責任がある。
遡れば小泉改革、というより橋本行政改革にまで遡及して、なぜ統計情報整備という必須の行政インフラが弱体化したのか、その背景と根本的原因を整理して考究する必要があるだろう。
とはいえ、「だから橋本行革は失敗だった」とか、「小泉改革は間違っていた」と結論付けるなら、それもまた愚かな思考である。そんな雑な思考力で企業を経営すれば倒産するのは必至だ。
どんな改革も100パーセント完全に正しい選択をすることはない。普段の見直しと問題発見、そして問題解決と改善が欠かせない。むしろ民間の会社で普通の職務を担当している普通の人たちがこの辺の事情をよく理解している。本質をみる力に欠けているのは普通の仕事をしていないため頭が固くなった議員や自称専門家の面々である。
今回の統計不正で救われる点は、統計委員会と言う政府機関が内部の問題を調査し、欠陥の存在を確認し、改善へのモメンタムになった点であろう。
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