2014年4月1日火曜日

政策にも「生産性」基準があるのではないか

政策には”コストパフォーマンス”、つまり効率性とか生産性という基準はない。「やったほうが良い」ことはどんな犠牲を払ってもやるべし。そんな暴論が通るのはそのためだ。

しかしながら、国民の暮らしは政府があるから存在しているわけではなく、生きている以上は民間経済が必ずある理屈だ。政府は民間経済の上に乗っているだけである。その民間経済では、100の成果を出すために200の犠牲を甘受するなどという行動はバカとされる。政府が行う政策にもこの常識を適用するべきだ。

どうやら中国の習近平・国家主席の訪欧は成功したようである。
習指導部は「韜光養晦」を捨て、国際的な影響力を行使する方向への転換を探っている。米国とは世界の二大国が互いに協力する「新しいタイプの大国関係」を主張。中国は米国をけん制する意味からも欧州との重層的な関係強化を狙う。31日の習氏のEU本部の訪問は、その一歩という位置付けだ。中国外交筋は「国家主席のEU本部訪問は初めてで、訪欧を締めくくる極めて意義深い会談だ」と語る。
(出所)日本経済新聞、2014年4月1日

確かに「覇権」を得ることの利得は大きいものだ。とはいえ、その利得は何らかの意味で覇権国の豊かさにつながるものでなければ意味がないわけであり、具体的には「より強い交渉力」、「競争優位の確立」、ひいては国際通貨発行権に由来する「シニョレッジ」までが含まれる。巨大な利益が約束されるからこそ、足元の経済的利益よりは、軍事的優位による覇権追求を目指す、そんな選択も出てくるわけだが、この二つの選択肢のどちらをとるかは、19世紀帝国主義から20世紀前半の中国を舞台とした覇権闘争においても様々な路線があったと見られている。

概して言えば、欧米は距離的な遠隔もあって軍事力による東アジア制圧よりも経済取引を通じた利益追求に力点が置かれていた。排他的権益への警戒感や門戸開放がしばしば唱えられたのはそのためだ。日本は、必ずしも領土や独占的利権を最初から求めたわけではないと思われるが、日露戦争で多大な血の犠牲を払って遼東・満州利権を得たあとは、いかにしてそれを守るか、中国に返還しない方法はあるのか等々、こんな方向を中心に政策を探ったと言っても間違いではないだろう。「守る」のは過去に得た資産である。利益はいま「得る」ものである。守らないより、守る方が良いのに決まっているという論法には、中々抵抗できないものだが、守るための決定的ツールは軍事力である。しかし軍事力をもって利権を守るのは野暮な外交の極みなのである。守るための犠牲があまりに大きいなら、利益は得られない。そんな思想が主流となった時代において、結果として日本が愚かなやり方を選んだのは、相互利益の機会を見いだすのではなく、得たものを守ろうとしたからだ。

政策にも「生産性」基準があるというのは、こんな意味である。尖閣諸島をめぐる政策にも「生産性」の違いが観察される。
オバマ政権でアジア・太平洋安全保障担当の国防次官補を務めたウォレス・グレグソン元海兵隊中将は、「われわれはストーリーを変え始める必要がある。個人的な見方では、現在、われわれは(尖閣諸島をめぐる議論の)主導権を握っていない。中国に握られてしまっている」と述べた。 
グレグソン氏は退役海軍少将で米海軍分析センター上級研究員を務めるマイケル・マクデビット氏と共に、25日に都内で開かれた東シナ海の緊張をめぐるシンポジウムで講演した。 
両氏は、日本は戦後長く平和主義を貫いてきたにもかかわらず、中国は日本を軍国主義に駆り立てられた攻撃者として描くことに成功していると指摘。その結果、日本に徐々に圧力をかける中国政府の戦略が効果を上げているとの認識を示した。 
マクデビット氏は「中国の目的は、徐々にではあるが確実に日本政府を追い詰めることだと私は確信している」とした上で、「中国政府は日本政府が『降参』と言うのを期待している」と述べた。
(出所)Wall Street Journal, 2014-3-27

中国は軍事力を強化しているが、軍事力は使えば失敗ともいえる政治ツールである。明治維新期の長州人・大村益次郎は「軍はタテに育成して、ヨコに使うものだ」と言ったそうだ。日本に対する中国の軍事的圧迫は、日本の資源を経済から政治・軍事に誘導することが一つの目的であり、よりソフトな国際的広報戦略の効果を強化するものである。その裏面で、というか同時に、中国政府にとっては痛い過去の履歴や人権への国内政治姿勢から、日本による中国侵略の記憶へと世界の目を転じさせるマスキング効果を引き出している。つまり中国は戦わずして日本を隘路に導こうとしているのだ、な。

安倍内閣が追求している政策は、好意的に観察すればアメリカの政策を代理執行するものだと言えるが、日本という観点に立てば中国の戦略が想定するとおりに日本は行動しつつある。そんな風にも見えるのだな。歴史問題は乗り越えがたいという論法は、アメリカから日中韓を観たときの眼差しであって、現実にはそんなことはないというのが基本的な理屈だ。

日本は日本で目的を「利益」にしぼる方が良い。将来の中国ならいざしらず、現在の中国と衝突する可能性があるのは日本ではなくアメリカである。アメリカの国益はアメリカ人が心配するべきことであろう。 こんな意見もあってしかるべきだ、そう思うようになった。ひょっとすると、この発想もまた韓流なのか……

P.S.
消費税率引き上げに対応した流通業界の準備に遅れが生じているため、税率引上げの実施日を1日延期し明日2日とする決定が財務省より発表された。買い物に外出したときにこんな話しをカミさんにしたら、意外や「ホント?」と聞いてきた。エイプリル・フールの題材は幾らでもあるのにと残念至極だった。

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