2011年12月12日月曜日

英国の撤退戦略は理にかなっているか?

欧州の財政統合に向けた新条約策定に対してキャメロン英首相はノーをつきつけた。この行動をドイツ紙は:
Fachleute in Großbritannien bezweifeln, dass Cameron mit seinem Veto in Brüssel dem heimischen Finanzsektor gedient hat. „Dieses Nein war definitiv nicht im Interesse der Londoner City", sagt der CER-Experte Tilford. Die angestrebten Änderungen im EU-Vertrag hätten die Interessen Großbritanniens und seiner Finanzbranche nicht tangiert. „Aber Cameron hat mit seinem Verhalten die anderen vor den Kopf gestoßen. Das wird unseren Einfluss schwächen, wenn über die Reform der Finanzmarktregulierung in der EU entschieden wird“, erwartet Tilford.(Source: 9, 12, 2011, Frankfurter Allgemeine Zeitung)
 このように他の欧州諸国を「ぶん殴った」と相当のレベルで難詰している。英国の専門家は(シティの金融筋も含め)首相のこの行動によって、欧州内金融改革が議論されるときに、英国の影響力が失われるのではないかと懸念しているようである。そんなことは分かり切ったことであるのに、英国だけが孤立の道を選んだのは、理にかなった戦略になっているのだろうか?

キャメロン首相の行動自体は英国内の世論に沿っているという。上の独紙でも
Camerons „Nein" dürfte in erster Linie innenpolitisch motiviert sein. Auf der Insel wächst angesichts der kontinentalen Finanzwirren die Europa-Skepsis. Umfragen zufolge fordern 70 Prozent der Briten ein Referendum über die Mitgliedschaft des Landes in der EU. Im Oktober musste der Regierungschef in der Parlamentsfraktion seiner konservativen Partei eine euroskeptische Rebellion niederkämpfen. „So wie deutsche Politiker etwa beim Thema Eurobonds auf heimische Vorbehalte hören müssen, wird auch Camerons Handlungsspielraum vom seinem euroskeptischen Parteiflügel eingeschränkt", sagt Iain Begg, der Europa-Experte von der LSE.
 このように、英国民の70%がEU加盟に関して国民投票を望んでいる(加盟を再考したい)という世論調査結果を伝えており、またこの10月には保守党内の反EU派を説得するのに、キャメロン首相が随分骨を折っている、キャメロン首相に与えられた裁量の余地はあまりなかったとも憶測されている。当然、他国も英国の国内事情はわかっているわけであり、まさか断るとは思わなかったかもしれないが、トップともなればある程度今回のことは予想していたことではあろう。ちょうどドイツが欧州救済のための資金負担でどの程度まで応諾するかは、ドイツ国内の有権者の考えに束縛されているのと同じ理屈である。それも独紙はわかって書いている。金融取引税構想が英金融界への強襲になると心配したのであろう。そんな見方もしているようだ。

さて当の英国だが、ロイター日本語版によれば
[ロンドン 10日 ロイター] オズボーン英財務相は10日、ユーロ加盟国が財政統合強化に向けた新たな条約策定で合意したことはユーロを支援したものの、ユーロの安定にはまだやるべきことが多くあるとの見解を示した。
また、英国の国益に沿わないため、新たな条約には参加しないと表明したキャメロン首相の見解を繰り返した。
(中略)
オズボーン財務相はBBCラジオで、ユーロは48時間前と比べて安全かと質問され、「おそらく必要な方法で財政政策の協調を図ろうとしていることから、状況はこれまでよりも改善しているとみられる。だが、これはユーロがより効果的に機能するために必要ではあるが、十分ではない条件だろう」と指摘した。 
さらに「彼らは現在の問題を解決する必要があり、ユーロを支援するための財源を見つけなければならない。次に重要なのは欧州全体の競争力を強化し、英国を含む大陸全体が世界経済から締め出されないようにする必要がある」と語った。
中々強腰だが、シティですら今回の行動を心配する向きのある点には触れていない。ただ、ドイツと同じく、英国も現在のEUには強い不満を持っていることが露わになっている。そこで英国は新条約には賛同しないとなったわけであるが、こうした撤退戦略はビジネス界ではよく”Fat Cat Strategy”の好例として解説される。というのは、撤退すること自体は相手の利益にかなうソフトコミットメントであり、それによって相手の資源は自らが撤退する分野にシフトされ、そのこと自体が自らこれから勝負する市場にはプラスの効果をもたらす、これこそ撤退の真の狙いであるからだ。

英国の今回の選択はこれとは違う。協調するべき時に個別利益を優先させたわけである。個別利益を優先させれば、集団合理性はもたらされず、「囚人のジレンマ」に陥るのが必至である。それは他国にも分かっているので、英国はそれ以外の欧州諸国から協調する仲間とは最早みなされないだろう。しかし、期待されたEU共同債は実現せず、ECBによる国債買取りも実現されなかった。欧州危機の根本は、財政統合に向けた新条約を策定することではなく、失われた銀行資本をどうやって公的に保証し、信頼性を取り戻すかである。これなくして欧州の経済再建は絶対にありえず、経済再建なくして欧州が全体として発展する道はない。しかし、それにはドイツの協力が必要である。そのドイツでは国民が南欧諸国救済には反対している。

こうしてみると、英国はとりあえずライフジャケットを身につける選択をしたことが明らかだ。英国が自らにとってプラスとなるように南欧諸国の意志決定に影響を与えることを意図しているのであれば、これは一つの戦略である。相手に譲歩を迫るという意味では、目に見える外観からは分からないが、先にガツンと一発くらわせる”Top Dog Strategy”に該当する。一発くらわせるというなら、ドイツも英国と共同歩調をたどりたいと思いそうなものだ。しかし、それはない。今回、EU共同債とECBによる一層の量的緩和に対してドイツは”Ja”と言わなかった。今回は財政統合への道筋をつけた。これはドイツの収穫である。ドイツの収穫に英国の”No”が寄与しなかったとは断言できないのだ。もちろんドイツは信用できない英国と行動を共にはしないだろう。

フランス、南欧諸国は規制を緩和して、経済構造改革を進め、低生産性が成長への障害になっている既得権益層にメスを入れなければならない。それまで、ドイツは交渉のテーブルにつきながら、相手の望む札を出さない形で、相手に対してタフに行動するだろう。英国は、財政統合への協調を拒絶した。他国は英国を批判するが、このコミットメントはドイツに対する脅しにもなるだろう。ドイツは欧州社会のメンバーであることを望んでおり、その時、英国もメンバーであり続けることがドイツにとってプラスだからである。ドイツがドイツの利益を今後どのように押し通すか極めて興味深くなってきた。

かくして英国は、EU脱退でもなく、EU加盟でもなく、第三の道をとろうという行動を選んだ。ま、今日はこの辺にして、今後の展開を見ていくことにしよう。

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