エコノミストの中には、『当たり前でしょ』という人もいるようなのだが、小生は<当たり前の経済理論>しか知らないので、緩和の中の金利上昇は不思議で仕方がない。
実際、最近の株価と長期金利(=10年もの国債流通利回り)を図にすると以下のようだ。
(出所)時事ドットコム
同じ長期金利の代表例である住宅ローン金利も引き上げられる方向だと言う。日刊ゲンダイは次のように書いている。モラトリアム停止についてだ。
マイホームを強制的に取り上げられる人が急増しそうだ。3月末で「モラトリアム法」(中小企業金融円滑化法)が期限切れになり、年内だけでもローン破産する家庭が約10万世帯に達する可能性があるのだ。
09年12月から始まったモラトリアム法で、リストラや会社の倒産などで住宅ローンの支払いが滞っていた庶民も、返済猶予などの恩恵が得られた。
だが、この法案が失効した直後の4月、「配当要求終期公告」で自宅を裁判所に差し押さえられた人は、東京23区だけでも約200件。前年同月比で1割ほどの増加だ。
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「ローン金利も上がる可能性があり、変動でローンを組んでいる家庭は苦しい。銀行が早く、より確実に債権の回収に走ることも考えられます」(森信愼二郎氏)
法案の期限切れと金利上昇のダブルショックで、夢のマイホームを手放す危機が出てきた。
(出所)日刊ゲンダイ、2013/5/12 07:00
金融緩和で金利が上がる。「これいかに?」というわけだ。「金融緩和をすると、普通は金利は下がるんじゃないの?」という疑問に日銀やエコノミストは、分かりやすく解説する職業上の責任をおっていると小生は思っている。「異次元金融緩和をすりゃあ、そりゃあ金利は下がる、ちゃう!上がるんでござんすね、上がるのは当たり前だ、そこが異次元ってえわけでございましてな」と開き直る場面じゃない、そう思うのである。
金利が上がる理由としては、そういくつもあるわけではない。
- 資金需要の増加によるディマンドプル型の金利上昇
- 資金供給の抑制によるマネーサプライ側の理由による金利上昇
この二つだ。本当に異次元の金融緩和を進めるなら後者であるはずはないのだな。マネーサプライ制約はないとする。それなら需要側の理由をさがせばよい。
資金需要側の理由から日本の長期金利が上がる理由も、いくつもあるわけではない。
- 財政拡大
- 実質金利のマクロ的な上昇 = 民間投資の増加
- 予想インフレ率上昇による実質金利の低下
政府はいま消費税率を引き上げることを意図しており、財政赤字を更に一層拡大していく政策意図はない。また一時的に拡大するとしても、金融緩和でそれをアコモデイトしていくという姿勢がとられている。だから財政拡大によるクラウディングアウトで金利が上がっているとも思えない。実質金利が上方修正されたのか?それは実体経済から決まるものであり、金融で実質金利を操作することはできない。20年も停滞してきて、いきなり日本企業の実質収益率があがるのは奇妙だ。となると、予想インフレ率が上方修正された。それで短期金利先高感が出てきて長期金利に波及した。そう見るしかないのじゃないか。デフレマインドからインフレマインドに変えることに一先ず成功した・・・?これもどうも、ウ〜ンと感じるところである。
実際には、債券から株への資金シフトで国債価格が下落した(=長期金利上昇)わけだ。とすると、これはマネーサプライ制約によるものだ。もしゼロ金利で資金が調達できるなら、何も国債を処分して(=機会費用を負担して)株式投資の投資資金を得る必要はないからだ。だとすると、ベースマネー拡大スピードとそれに応じた市中金融機関の信用増加スピードが株価上昇スピードについていけなかった。ズバリ言うと、金融システムの効率性の限界。まあ、こういうことかもしれないわな。
しかし、こういう状況は文字通り日銀主導の<バブル期待>そのものではありませぬか。小生にはそう思われるのだ。今後も–おそらく歳末までは–続くであろう株価上昇トレンドの途中で発生した<ちょっとした事故>。今回の株価調整はそんな解釈に落ち着くのだろうか。