2018年3月14日水曜日

これまでの超長期・将来予測を棚卸しすると

小生の専門分野は統計的な将来予測である。

若いころには大鑑巨砲主義さながらの大規模マクロ計量経済モデルによるシミュレーションが花盛りを迎えていたが、次第にARIMAモデルを基礎に置く統計的な時系列解析がシェアを拡大する中で、ダイナミックな構造が主たる関心事項となり、マクロモデルを構成する方程式の本数は減少した。極端なことをいえば、GDPを予測したいならGDP一変量のARIMAモデルをボックス・ジェンキンズ法を使って推定・診断・採用すればよい。それで十分理論的な筋道は通る。そんな考え方に変わってきたのが、予測分野の30年史であった・・・。

予測精度の向上が大事であって、なぜその予測モデルの精度は高いのか? そんな疑問もあるにはあるのだが、それは二の次になっている。

そんなわけで、本ブログでもその時点、時点の将来予測を書いてきている。それも量的ではなく質的な予測であって、推測に近いものもある。

安倍総理の総裁三選は(自信をもって)ない、と。昨年はそんな予測を記していたが、数値データから予測された結論ではもちろんない。が、ボラティリティの拡大と変動パターンが株価バブル崩壊前を連想させるようになってきたという点では、普段の仕事とまったく無関係な考察でもない。

◇ ◇ ◇

最初に書いた予測は東日本大震災直後に書いた予測である。こんな投稿だった。関係個所を引用しておくと:

今日現在で整理しておきたい。

  1. 大震災復興総合計画ができるのではないか: これは既に始まっている。復興庁なるものが出来るかどうかは(ほぼ実現するだろうが)不確定だが。
  2. 日本のエネルギー計画は根本的な曲がり角を迎える: これも管首相が昨日サルコジ大統領を迎えて記者会見でも表明した。原発のゼロベース見直しは避けられない。
  3. 国土利用計画も並行して根本的な曲がり角を迎える: まだ俎上には上がっていないが、エネルギー計画を見直す以上、首都圏、近畿圏など各地域のエネルギー需給バランスの前提が崩れる。見直し不可避。方向としては1980年代末のバブル景気以前まで主流だった考え方<定住圏構想>が復活すると予想している。
  4. 経済産業省から原発管理行政を分離する: これも菅首相が既に表明している。銀行経営破綻で大蔵省から金融庁が分離したのと同じ論理だ。ただしエネルギー計画見直しをどこが主務官庁として取り組むことになるか、これはまだ分からない。復興庁ではない。
  5. 東京電力国有化: 債務超過になると予想する。国有化という手段に限定はされず、先日のアドバルーン後に早くも迷走し始めている模様だが、どちらにしても現行の株式会社組織は資金的に滅亡したと判断するべきだ。近日うちに政府は基本方針を公表する状況に追い込まれると予想しておく。
  6. 原子力発電の全国統合化、(多分)公的企業とする: リスクに対応するために必要な保険料コストを計上すると(発電規模にもよるが)原発事業は民間企業になじまない可能性が高い。新エネルギー計画で検討されることは必至。まだ議論は表面化していない。
  7. 原発事業にともなう保証債務発生リスクと保険制度の見直し: これは国内に既にあるが拡充が不可避。ただ原発事業統合の行方とも関係する。
  8. 原発保険制度を金融パニックを回避する国際通貨基金制度と類似の制度としてセットアップ: 必要になる。その場合、原子力利用の知識集積状況からフランス、US、ロシア、保険ビジネス技術からUK、USの人材が集められ、日本はお呼びではないだろう。最多の原発新設候補国(ならびに最大リスク国?)として中国が入れば、現国連安全保障理事会常任理事国と同じ構成になる。

東京電力は既に実質国有化されている。さらに、原子力発電の統合はまだであるにしても、例えば「原子力発電公社」のような公的企業の設立は今でも方向性としては合っていると思う ― 実際、最近になって公社設立を提案する人も増えているようだ。原発保険制度の国際的拡充はまだまだ、意識すらもなく、前途遼遠である。上の投稿は2011年4月1日。7年がたっている。

経済現象の進展、その予測作業において、最も重要なのは時間軸に沿った感覚である。内科医であれば当然のように持っている人体の生理学的メカニズムへの洞察の背後には、人体の機能に当てはまっている時間尺度を感じる感覚が含まれていなければならない。風邪やインフルエンザならまずは数日、骨折をすればまずは2、3か月。こんな感覚は社会をマクロ的にみる場合にも必要である。まず時間感覚が大事である。そう考えると、7年という時間スパンは原子力発電について何がしかの状態変化の兆しが顕在化し始めてもよい時機である。いま、そうも思っているところだ。

◇ ◇ ◇

憲法改正についても大きな予測を書いたことがある。こんな投稿だった。


  1. 反対デモが報道されたが、通常、デモは反対のためにするもので、賛成デモはあまりしないものだ。放映された反対デモの背後には、相当数の賛成派、というより「理解」派、「同感」派、「いいんじゃない」派等々の国民が多数いると推察される。大体、全国の主要大学のどこで学生集会が開かれ、どこの大学で「安保法案反対全学スト」が議決されたのか。小生の大学では、立て看板はおろか、ビラもポスターも全く、一枚も目にしない。食堂で学生達が安保関係の話しで議論している様子もない。マスメディアもまたコア層がどこにあるかに気がつき、報道の姿勢を変えていくだろう。それも「急速に」である。
  2. 政権批判は来春あたりまで続くと思うが、それと同時に戦後の憲法学界の潮流について様々な企画がなされ、憲法学界だけではなく各分野から色々な意見・指摘が掲載される。そんな中で、誰か、いずれかの憲法学者が自己批判的な文章を発表するのではないかと思われる。それをきっかけにして、憲法学界の中の旧世代と新世代の間で論争が始まる。そして新世代の中から台頭する「新立憲主義」が世間の喝采をあびる。概ね4、5年位の間には新しい潮の流れが目に見えてくる。
  3. そんな新しい立憲主義の展開、浸透から第9条だけではなく、複数の条文を対象に憲法改正案が(名誉回復、というかリベンジの意味からも)学界から提案され、次に与野党が合意する臨時憲法調査会が設置され、その答申を元にして改憲が発議される。今から8年ないし10年くらいはかかるのではないか。残念ながら安倍現総理が憲法改正にまで至るのは無理だろう。無理をすれば必ず制度的欠陥が混じる。
  4. この改憲発議までの8年乃至10年の間には、必ず今回の安保法制について違憲訴訟があり、最高裁はいずれかの時点で違憲判決を出す。それによる混乱と新立憲主義の浸透から憲法改正への動きが多くの国民から支持される。
大体、こんな風な予測をたてているところだ。


投稿は2015年9月15日。集団的自衛権を容認する安保法制成立後の投稿だ。

反対デモがその後全国に拡大することもなく、概ね半年程度で終息したのは、その時に予想していたとおりだった。

ただ、投稿から2年半が経過し、国際法、その他法学分野から憲法学会主流に対する異論が出され始めているとはいうものの、主流派憲法学者から特に憲法9条解釈について自己批判的な論説が公表される。そんな事態にはまだ立ち至っていない。まして若い世代から「新立憲主義」なる新しい潮流が目に見える勢いで現前してくるような状況ではない。安保法制運用をめぐって違憲訴訟があり、最高裁判所が安保法制違憲判決を出すこともまだなく、憲法をめぐって日本社会が混乱に陥っているわけでもない  ―  優に過半の国民は改憲には慎重である。

ただ、上の投稿から8年ないし10年の間には違憲訴訟があると述べているので、2025年までにはあるということ。それまでは予測ミスとは言えまい。

実際に憲法改正に至るのは、さらにその後ではないかと予想したのが上の投稿だ。東アジア情勢など国際関係の圧力で時間が短縮化されるかもしれないが、まだまだ時間が必要だという予測を書いている。

そんなわけで、安倍現総理が自らの宿願である改憲を自らの手で実現できるとは思われない。時間が足りない、と。そうも付け足している。

いまでもまあ、まずまずの予測を立てていると思う。

◇ ◇ ◇

個人的には日本のエネルギー基本計画がどうなるかに興味がある。

大体、東京電力管内の電力需給は(本当は)それほど余裕があるわけでもない。そんな状態で、電気自動車(EV)の浸透とか、プラグイン・ハイブリッド(PHV)がその前に普及するとか、小生、可笑しくてならない。電気はどうするのか。太陽光・風力で自動車を走らせるつもりなのだろうか? まったく非現実的である。

EVを走らせるための電気は化石燃料を燃やす火力発電で何とかする。こんなことを言えば、実に見事なブラックユーモアだ。ガソリンをそのまま使えばいいだけだ。こんな方向は選択可能でもないし、世界から笑われるだけである。

チェルノブイリ事故で脱原発を誓ったウクライナも既に原子力発電重視路線に復帰した。

チェルノブイリの処理を進める一方で、ウクライナはエネルギーに占める原発の比率を上げる方向を選んでいる。
事故直前、ウクライナには15基の原発が稼働していた。現石棺の整備後には、事故にあわなかったチェルノブイリ1号機〜3号機も再稼働。新シェルターの建設資金提供と引き換えに閉鎖されたが、当時建設中だった他の4つの原発も含め、現在15基が稼働。さらに2基が建設中となっている。
(出所)HUFFPOST、2014年4月26日

そろそろ現時点の原子力発電の技術水準、安全管理水準の進歩を冷静に見て真面目に評価するべきだろう。理念や精神力でエネルギーはどうにもならない。技術の問題を解決できるのは科学だけである。

0 件のコメント: