2023年10月10日火曜日

覚え書き: アメリカ経済、日本経済。分からないことが増えてきたようで

アメリカのインフレは事実においては終息しつつあるが、「十分終息したとは言えない」という判断もまた共有されつつあるようだ。

それで、FRBによる高金利据え置きが現実的になってきて、となると景気後退はやはり避けがたいのではないか、と。

少し前は、中国経済の先行きで議論が盛んであったが、今はアメリカ経済の景気だよね、という風に世間(というかマスメディア)の関心は実に移ろいやすい。

まずアメリカのインフレ率だが、7月時点で本ブログに投稿したときは

全品目を含むCPIの前月比上昇率の年率換算値でインフレ率を測ると、基調としては既に2パーセントを割り込んでいる

少なくとも成分分解した後のトレンド値としては「インフレは十分終息した」と指摘していた。

ところが、8月実績値までを含めて計算し直すと、以下のような図が得られる。



インフレ率はトレンドでみてもターゲットである2パーセント・ラインを上回っている。

どうやら事後的な結果としては、その時に同時にアップしたARIMAモデルによる将来予測の方が的をついていたようである。その将来予測を8月までの実績値を追加して計算し直すと、



今秋から来秋までの1年間を通して、インフレ率の対前月比は《インフレ率年率 ≦ 2%》という目標を充たしそうになく、必然的に前年比でみても2%ラインに戻ることはないという見通しになる。

これではKrugmanが"Are High Interest Rates the New Normal?"というタイトルで寄稿するのも尤もなことである。

What’s causing this interest rate spike? You might be tempted to see rising rates as a sign that investors are worried about inflation. But that’s not the story. We can infer market expectations of inflation from breakeven rates, the spread between interest rates on ordinary bonds and on bonds indexed for changes in consumer prices; these rates show that the market believes that inflation is under control ...

What we’re seeing instead is a sharp rise in real interest rates — interest rates minus expected inflation ...

 

現在高止まりしている長期金利は、期待インフレ率の高まりではなく、実質金利が高いからだ、と。これは文字通りビックリ仰天な話だ。

ところが、実質金利がなぜ上がるのか、いや上がりうるのか、というのはクルーグマンにもよく分からないと上のコラム記事で正直に述べている。

実質金利が足元で本当に上がっていて、資本収益率が従来と同じであれば、景気後退は理の当然としてやってくる。それでも「景気後退は本当にやってくるのか?」という議論を余裕ありげに繰り広げている。それだけ現在の経済状況の腰は強い ― グロース株の株価は金利上昇で自動的に急落しても仕方がないが。上のコラム記事でクルーグマンも言及しているが、本当にアメリカの自然利子率はコロナ禍前より上がっているのか?そうとしか思えない。だとすると、

アメリカ経済、すごいですネエ・・・

と言いたくもなるわけだ。

分からないことが多すぎる。

まったく、コロナやインフルエンザに感染したときに診療をまかせる医者が、この程度の診察力しか有していないことを望みたい。

さて、日本経済だが、以前に年間収入クラス別のエンゲル係数の動向を投稿したことがあった。

これをアップデートすると、



やはり2014年4月、2019年10月の二度に渡る消費税率引き上げの影響がエンゲル係数という<やりくりの指標>にも反映している、と観るべきだろうような形の図になっている。

2019年10月の税率引き上げ後は、そのすぐ後のコロナ禍3年、その後の諸物価上昇も跛行性があるのでエンゲル係数の解釈は難しい。エンゲル係数はまず上昇したあと、次にレベル調整するように低下し、足元で再び上昇して今に至っている。

2014年4月の税率引き上げの影響はやはり顕著だったのだナア 。これだけ価格が一斉に上昇すれば当たり前か……

と思われる。税率引き上げ前後の駆け込み、買い控えは一時的ノイズであるからトレンドには残らない。

それから

2019年10月の税率引き上げの後、エンゲル係数が上がるのは分かるが、なぜこんな動きをしているのか?

これがどうもよく分からない。

日本の消費者物価上昇を帰属家賃を除くCPI総合の対前月比年率換算値でみると、下図のようになっている:



日本のインフレはトレンド値がまだ4パーセント程度に高止まりしている点が心配なところだ。

が、実は2014年4月時点の物価上昇と比べて、2019年10月の税率引き上げ時の物価上昇はそれほどでもない。

2019年10月の税率引き上げ時には、食品などで軽減税率が適用され税率8%のままであったり、幼児教育無償化が実施されるなど、インフレ抑制策も並行実施されていたのである。だから総合でみて、2019年10月引き上げ時の物価上昇は大したものではなかった。

それでも2019年10月の税率引き上げの後、全ての年間収入階層でエンゲル係数が顕著に上昇している。その動きは2014年4月の税率引き上げ時とそれほど変わらない。

ひょっとすると、軽減税率適用となった食品の価格とその他商品価格の相対価格が変化したことの影響かもしれない。ちょうど税率引き上げと前後して景気がピークアウトしたため実質所得の低下が無視できない要因として働いた。家計のやりくりがきつくなり、食費の割合が上がったということかもしれない。理屈としてはそうなる。しかし、これほど大きく動くのだろうか?

よく分からない。


ただ

足元で家計のやりくりは極めてきつくなっている

これだけは事実として言えそうである。

アメリカでは企業の資金繰りがきつく、日本では家計のやりくりがきつくなりつつある。そう達観していいのかもしれない。


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