2023年7月10日月曜日

ホンノ一言: アメリカのインフレをどう見るか?単純には結論が出せない

 夏を迎えて世界の景気は、アメリカを初めとして、予想以上に根強いという強気の見方が広まりつつあるようだ。実際、OECDが公表している景気先行指数(Leading Economic Indicator)でG7諸国全体の動向を観てみると、下のグラフのようになっていて、足元では景気の《底打ち感》が明瞭にみてとれる。

URL:  https://shigeru-nishiyama.shinyapps.io/get_draw_oecd_lei/

景気の根強さが強調される目線は、インフレがそれだけ根強く、「粘着的(Sticky)」である点を強調する目線につながってくる。


アメリカで公表される色々な経済指標が、良ければ金利先高観を刺激して株価は下がる、景気指標が悪ければ金利頭打ち感が台頭して株価は上がる、FRBと投資家とのこんな奇妙で逆説的な相互関係がもう1年程も続いている ― これもコロナ禍後のインフレを一過性であるとミスジャッジし、そうではないと認識するや慌てふためくように攻撃的金利引き上げを続けてきたFRBがもたらした情況である。

そのアメリカのインフレ動向だが、先ずは消費者物価指数が注目される指標である。ところが、何度も投稿しているように、消費者物価指数と言う統計データのどこを参照するかで、インフレ動向判断は分かれるのである。

政策当局は、コアインフレ率やコア・コアインフレ率などその場、その場で使い分けているが、小生は「物価」というからには全商品を含めた「総合」で見るのが当たり前だと考えている。
全体としては物価上昇は落ち着きつつありますが、これ、これの商品がまだ上がっていますから、インフレは落ち着いていないと言うべきでしょう。
という発想を煎じ詰めると、思い切って単品だけとって「BigMac」の価格だけ調べてインフレかどうかを判断すればイイんじゃない?そんな過激派のデータ観もありうるわけだ。実際、物価の高低についてBigMac指数が国際比較でよく利用されている。

食品やエネルギーなどノイジーな要素が混在するからコア・インフレ率をみるのだと説明されているが、ノイジーな成分は統計的に処理すればよいだけの話しである。


実際、消費者物価総合のデータ系列をSTLで成分分解してトレンドだけを抽出すると、直近の5月時点において前月比上昇率の年率換算は2パーセントを割り込んでいるということを最近何度か投稿してきたわけだ。



つまり、足元の物価上昇ペースが今後1年間続くと、いずれ消費者物価指数の総合値は前年比で2パーセントを下回ることになり、引き締めすぎになる。そんな状況に今はあることをデータは示している。

ところが、同じ年率系列を6月以降の12か月についてARIMAモデルによって将来予測すると、下図のようになる ― 最適モデルはAICcで選択した。


同じデータに基づきながら、この先1年間の将来予測を行うと
あと1年経っても前月比の年率換算値はターゲットである2パーセントに収束しない確率が高い。前年比2パーセントに戻るのは前途遼遠だ。
こんな結論になる。これをもって、現在のインフレは非常に粘着性がある。そのStickinessの証拠が上の予測計算である、と。極めて標準的な予測技法であるこの結果も当局部内の検討の場には配布されている可能性が高い。

つまり、同じデータを用いるとしても、統計的手法によって現時点のインフレをどう予測するべきか、どう評価するべきかで、判断が分かれてくる。

雇用は予想よりは弱めだが、失業率は強めに出ている、等々。強めに出る経済指標と弱めに出る経済指標とでバラツキが拡大していて、全体判断が難しい。これが現在の経済状況で、明の部分と暗の部分が混じりあっているというのが、リアリティに沿った認識なのだろう。

こうした場合には、様々のリスクがある中で、最悪の事態を避けるというミニマックス戦略がとられるのだろうが、このステージになると何を最重要視するかで米政策当局の内部で合意などはないと観ているし、合意などはないという事情は日本も同じだろうと思う。

だから政治の最高責任者の個人的才能は極めて重要である、という結論になる。






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