2024年9月27日金曜日

断想: 世界と人生をみるモームの目線はイイねえ……

自民党新総裁に石破茂氏が選出された。

第1回目の投票をみると極右の高市早苗氏が「日本最初の女性首相」になりそうな勢いで、日経平均株価も急騰したが、日本経済はこの先どうなるのであろうかと真面目に心配したものだ。が、決選投票では、2位以下の候補者支持層が連合したようで、マアマア、穏健というか、今回はこれしかないだろうという結果に落ち着いたのは幸いであった。

いずれにしても「政治」が相手とするのは「現実」で、理念や言葉はプロ野球の監督やコーチが選手とやりとりする時の理念や言葉とさして違わない。理念や言葉だけでシーズンを勝ち抜ける理屈はないわけだ。その人の行動が真の言葉で、口から出る言葉には必ず嘘が混じる。伝聞ならウソの成分が増え、メディアを通すと、半分以上はウソであろう。

先日もサマセット・モームをとりあげたが、昔読んだ"Of Human Bondage"(=『人間の絆』)で傍線を引いた箇所を見つけると、こんな下りがあった。第81節の末尾である。

But on the whole the impression was neither of tragedy nor of comedy. There was no describing it. 

It was manifold and various; there were tears and laughter, happiness and woe; it was tedious and interesting and indifferent; it was as you saw it: it was tumultuous and passionate; it was grave; it was sad and comic; it was trivial; it was simple and complex; joy was there and despair; the love of mothers for their children, and of men for women; lust trailed itself through the rooms with leaden feet, punishing the guilty and the innocent, helpless wives and wretched children; drink seized men and women and cost its inevitable price; death sighed in these rooms; and the beginning of life, filling some poor girl with terror and shame, was diagnosed there. 

There was neither good nor bad there. There were just facts. It was life.

主人公フィリップが勤める病院外来診察室の風景である。上の引用箇所の最初と最後をつないでも意味はハッキリ伝わる。日本語でまとめよう:

だが、(外来付き助手の毎日は)全体としていえば、悲劇でもなく、喜劇でもなかった。それは表現しようのないものだった。……

ここには善もなく、悪もない。ただ事実がある。それは人生というものだった。

ウクライナやガザに関する報道では、どちらが正義であるかが毎回力説されている。しかし、毎日の現実として戦争を経験しつつある当事者にとっては、善もなく、悪もなく、ただ「事実」だけがあるのではないだろうか?


戦争こそ、全ての理屈をはぎとった根源的な人間の生を露わにするのかもしれない。

してみると、「善」や「悪」、「倫理」や「価値観」を語る人は、つまるところその場に生きる当事者ではなく、生活の本拠を安全な外国におく「他人」であるからこそ、事実を観察して理念の話しをしているわけである。

「善」や「悪」は確かに大事な話題だ。しかし、現実にあるのは善や悪のどちらでもない。そもそも「人生」はそういうものだろうという認識には、小生、共感しているのだ。

善や悪は、社会を意識する時に、輝き始める。しかし、社会から議論を始める人を小生は好まない。「君も社会から生かされているだろう」と平気で口にする人物はもっと嫌いである。この種の人物が平気で人権を侵害するのである。


「真相」とか「真理」というものは何なのかと問われれば、モームのこの認識に一票を投じたい。

オーディエンスの水準に応じて、プレイヤーのパフォーマンスの出来不出来が決まるのは、一国の政治もそうだろうし、プロスポーツや音楽のコンサートも同じであるに違いない。医者が患者の命を救うためには、病人が嫌がる手術もするし、飲みたがらない薬の服用を迫りもするのである。 内視鏡検査を受けるように強く奨めることもあえてする。社会へのサービスが職務なのだから政治家も同じだろう。喜ばせることが政治家の職務ではない。それが人間の社会というモノだろう。

【加筆修正:2024-09-29】




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