ホリエモンこと堀江貴文氏が「いまは不況とは言えないでしょう」とネットで発信したところ、「不況だろうが」といった感覚の反論が寄せられたのに対して、「あなただけなんじゃないの?」と切り返したそうで、それで巷では結構な論議になっている由。
《いまは不況か、不況でないのか?》というのは、主観・客観が入り混じる領域でずっと以前から論争・迷走が絶えない分野である。
堀江氏が「いまは不況とは言えんでしょう」というのは、客観的にはその通りであって、そもそも今はインフレである。「失われた30年の間」、日本が悩んできたのは需要不足であり、それに由来するデフレであった。いまはその反対のインフレだ。かつ「空前の人出不足」だ。インフレと人出不足の時代、どこが不況なのかというのは、客観的判断として完全に正しい。
実際、仕事に就けない人の割合、つまり完全失業率はいま歴史的低水準にある。
直近ではリーマン危機の翌年、日本の失業率は5.5%のピークを形成した。それが今では2.5%で低位安定している。
公的統計のポータルサイト"e-Stat"から失業率がピークであった2009年7月前後の図をコピーしておこう。
不況は雇用状況に現れるから、
少なくとも今は不況ではない。
これがまず第一のポイント。
とはいえ、現在、米トランプ政権と関税交渉を続けている真っ最中である。折しも、今日になって日本との交渉は打ち切りとの見通しが報道され始めている。日本には30%の関税を課すとト大統領は発信しているそうだ。もしこのまま実行されれば、日本の自動車産業は大打撃を受けるのは必至で、関連産業を含めれば、500万人から600万人の雇用者が影響を受けるだろう(就業者数については例えばこれを参照)。
この懸念があるのかないのか、足元の景気動向指数は特に先行系列が低下を続けている。緑の折れ線が先行系列で、一致系列の動きと比較している。
故に、
今は不況ではないが、この先半年、1年、2年となれば、極めて心配である。
不安を高めている人は多いはずだ。物価は高止まりしているのに、不況が来たらどうしよう、というわけだ。
交渉失敗の主因は、日本が農業部門、さらには鉱物資源、軍事産業も含まれるかもしれないが、思い切った譲歩をしていないという点にあるのは、政府説明でもメディア報道でも何も明らかになってはいないが、背景としては分かり切っている。
確かに、相手の非を主張するばかりで、取引(=deal)をする姿勢を見せないなら、ト大統領も怒るだろう。相手の方が強いのだから、怒らせてしまえば当方の失敗だ。
与党は農家票の離反を怖れて、農業部門でのいかなる譲歩も拒んでいるはずである。
農家を守って、自動車産業を生贄にするか。
日本の農業人口は100万人程度に過ぎない(例えばこれを参照)。
ところが、「日本農業新聞」によれば、
訪問系の関係人口のうち、水路周辺の草刈りや援農などに取り組む「直接寄与型」は約437万人、通いで農業を行うなどの「就労型」は約105万人。この二つの型は、特に地域と結び付きが強く、合わせて約542万人に上った。
どうやら農業関係人口も500万人から600万人程度と見込まれる。自動車関連産業とドッコイ、ドッコイだ。更に、直接間接に農村と関係する総人口は、2000万人を超えて日本の総人口の約2割を占めるという……、本当カナとは思うのだが、確かにこれでは農業関係者の「総スカン」を食らうというのは自民党にとっての悪夢であろう — 野党にとっては好機(?)かもしれないが(それとも厄介者?)。しかし、これを言うなら、金属、一般機械など直接・間接に自動車産業と取引のある産業は、製造業だけにとどまらず、日本経済のほぼ全域を占めると言っても過言ではない。
外交戦略、経済戦略の観点に立つときは
問題の本質は、非能率で高コスト体質にある農業にある以上、農業の国際競争力を高める方向こそ国益にかなう。(日本経済の)スター選手は今もなお製造業であり、現在の農業は高齢化でヨボヨボになった引退直前のベテラン選手である。
何をすれば善いかは明らかではないか……、こう考えるのがロジカルだが、
経済のロジック、経済の合理性は「選挙」のある政治のロジックとは違う。
これまた認めなくてはならない現実だ。
うまくやっていってほしいネエ・・・
日本人は機会主義的であるという投稿が足元では読まれているようだが、機会主義者が前に進むには「戦略」ではなく「好機」がいる。チャンスが欲しい。つまり猫にとっての魚である。七輪の前で魚の番をしている人、油断してるかナ・・・。こんなノリだ。その好機が逃げて行った。『嗚呼、天は我らを見放したか!』、機会主義者には戦略的敗北はない、そもそも戦略を持っていないからだ。敗北ではなく不運がある。正に"Curiosity killed the cat"である。邪悪な戦略家でなく、単なる機会主義者であっても、悲劇の主人公になることは(往々にして)あるのだ。
何をすればイイのか、思案にあまる。これまでの日本の歴史にこんな状況が何度訪れたことだろう?今回はどうなるだろうか?確かにこれも不安要素だ。
不安イコール不況
案外、いまの大衆心理はこんなところかもしれない。魚が逃げていけば、猫は落胆し、落胆するが故に、不況感を感じる・・・経済学ではないが、社会心理学的な「不況」も研究テーマとしては面白いかもしれない。
【加筆修正:2025ー07ー03】


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