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確かに男女の性別で入試得点を一律的に減点するなどは耳にしたことがない。というか、入試採点業務を経験した者からみると、そもそも『いま採点している答案は男子受験生のものであるか、女子受験生のものであるか、はたまた受験番号順に並んでいるものであるか…』、これらの点は完全に確認不能状態になっているはずだ。
可能なことは、採点業務終了後にエクセルでも使っているのだろう・・・受験生全体を「性別」という名のコラムでソートし、入試課が「性別=F」に該当する受験生の得点を一律10点、もしくは1割、あるいは$Y = 10 + 0.8 X$などという計算式で得点調整する、そんな作業を行っていたのだろう。
まあ、「得点調整」という作業自体は一般に試験という現場では時に必要になることではある。入試センター試験の理科の試験において、選択科目の間であまりに得点差がつけば、受験生の公平を確保するため統計的手法を活用して得点調整を行うことがある。また、通常の定期試験であっても、出題した問題の難易度が年によってブレるために、たとえば平均点が50点を下回ってしまうと、適当な計算式を設けて素点を評点に変換することがある。
しかし、性別で層別化してから異なった評価をするとはねえ・・・確かに、独特な発想だ。よほど東京医科大学は男女の違いが重要であると認識していたのに違いない。
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北海道には札医大や旭川医大で「地域枠」というのがある。要するに、地元の受験生を優遇する制度であって、最初から募集人数〇〇人と入試要項に記載している。いわば、住所と地元への就職宣誓をもって推薦を得るという意味と同じであり、選抜方式としては<学力試験+地元推薦>というハイブリッド入試方式であると考えられる。
全国の国公立大学、私立大学において、同窓会による推薦、創立者親族枠、家計収入基準による授業料免除(優遇入学の一例)、協定高等学校からの推薦枠、AO入試、一芸入試などなど、一般の学力試験とは別の入学枠、処遇枠は既に広く実施されている。
学力試験一本に画一化すると、画一的な若者ばかりが入学を許可される現象が認められるので、選抜方式を多様化しておくことに小生は基本的には賛成している。過度な学力試験偏重は、高額な進学塾に子弟を通わせることができる大都市圏の中上流以上の家庭を実質的に優遇することと同じになるという指摘もしておかないといけない。
とまあ、大学の入学者選抜を考察し始めると、優に一冊の本になるのが現実である。
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世間の井戸端会議は東京医科大学の「やり口」は「感じワル~~」という雰囲気だ。
なぜ、それほど入学者の男女の別を重要視したのだろう? ここを、小生、聞いてみたいと思っている。
女性は結婚を機に離職する確率が高いという点は、分野を問わず、以前から指摘されている。しかし、だからと言って、多くの大学で男女構成を問題視しているわけではない。不思議だ。あるいは、まだ話題にはなっていないが、女子卒業生は同窓会への加入率が低く、母校への寄付金額も平均的に低いという事も、聞いたことがある。私立大学であれば、こちらのほうが重要であったかもしれない。
上の点は「聞いたことがある」といった程度のものだ。本当に東京医大では男子学生と女子学生とで、有意な行動パターンの違いが確認されているのだろうか?確認された統計的事実に基づく、合理的な行動がとられていたのだろうか? これらの点を議論してほしい。
もし与えられた環境の下で、私立大学として合理的な行動をとっているなら、ただただモラルを振りかざしてみても有意義なサジェスチョンにはならないだろう。どこでも人は、賢く合理的に行動しようと考えるものだから。要は、データはどうなっていたのか、である。
議論はこんな風に進んでほしいと思っているのだが、一つだけ言えることがある。なぜ東京医大は、男女の違いが何らかの現実的な理由から非常に重要だと考えるなら、最初から
入学定員:男子〇〇名、女子△△名このように記載しておかないのか? 「学力試験」とうたいながら、「学力」とは別の「男女」の別で異なった採点をする。これは明らかにアンフェアである。世間が憤慨するはずである。
その現実的な理由が医療の実態を踏まえた筋道の通った内容のものであれば、個別のケースとして容認されたはずだ。また、均等な機会を性別と関係なく提供するという観点から、医療現場の改善に向けた問題提起ともなっていただろう。
いまどき男子のみを入学許可している大学はないと思うが、女子大学はまだある。このこと自体をモラル的な是非善悪の観点から議論しても、時間の無駄というものだ。色々な形態の大学が選択可能である方が社会的には豊かであるに決まっているからだ。
モラルに基づいて議論するべき問題は多々ある。しかし、すべての問題がモラルの問題ではない。利益の対立構造が背景にあるときは、モラルを棚上げして、まず経済学の観点から論点を整理するほうがよい。灯油の価格、電気料金をモラルから論じても意味がない、どころか社会的には時に有害なのだ。資源配分、市場組織、利益と費用、所得分配などの次元で不均衡がある状態でモラルを強調しても社会の問題は決して解決できない。医科大学の入学者選抜方式は、そのまま職業選択に結び付く話であり、医療サービス市場の現状分析から問題にアプローチしなければならない。
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