既に9月。この先、株価が年度末にかけて上昇軌道をたどるだろうと予想している専門家はどの位いるだろうか?復興需要は、三次補正予算の規模が明らかになり、成立の見通しが立つまでは計算には入らないだろう。いま計算に入っているのは、アメリカの財政緊縮への動き、欧州金融機関の不良債権問題とソブリン危機再燃の懸念、中国、インドなど新興国のインフレ防止、それから何といっても円高。マイナス要因はこれから確実に効いてきて、プラス要因は予定よりも大幅に遅れるだろう。春の予想はもはや実現困難ではないかと思われる。
振り返れば、欧米のソブリン危機(=財政危機)がここまで紛糾しようとは、まだ桜の花が咲いている時点では想像できなかった。円レートがこれほど急速に上昇しようとは想像できなかった。日本の国内政治がここまで混迷するとは想像できなかった。予測屋と統計屋は、とても想像できませんでしたという不規則要因を<ショック>と呼んでいる。分野によっては、<ノイズ>とも言う。不規則であるからには、その時点の情報に基づいて、ショックの大きさを予測することは(理屈からして)不可能だ。これから先も、やはり(現時点では)予想されていない事象が発生し、それが世界経済を更に不安定化するかもしれず、あるいは幸いにして安定化への道をたどるきっかけとなるか、現在はまだ分からない。つまり、予測というのは、その時々にどんなストーリーで明日のことを考えているか、その程度の営みである。だからこそ、リスクを常に計算に入れておかないといけないわけだ。
文字通り「神はサイコロをふり給う」のが、人間社会の現実である。
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少し前の週刊エコノミスト、具体的には本年4月5日号を図書館でパラパラめくっていた。すると、某商社系シンクタンクのエコノミストが商品価格の予想を述べている。
商品価格が再び上昇している。(中略)これを投機マネーによるマネーゲームと見る向きも多いが、そもそも「価格」は、あらゆる情報を集約したものだ。その「価格」が循環的な変化を逸脱する形で強い上昇基調を示し出したことは、背後にある経済構造が変化したことを意味する。今となっては、リーマン危機からの回復のなごり、<夢のなごり>である。しかし、これこそロゴフ・ラインハート両氏による"This Time is Different"(邦題:国家は破綻する)。両氏がまさにメイン・タイトルにもしている認識パターンなのであります。価格変動には実体経済の裏付けがあるのだ。この認識は経済科学に立脚した物言いでもあるので、中々、反論しがたいのだ。しかし、これまでのバブル発生の根因として、現在までの価格上昇は投機マネーによる一過性のものではなく実態的原因があるという認識によって、その価格上昇の正当性が確認されていたことを、見逃すべきではない。<今はバブルにあらず>という認識が広く共有 ― より正しく言うと、無視できないほど多くの専門家によって主張 ― されていたという事実がなければ、過去のバブルはバブルにはなっていない。
世界経済のパワーシフト・・・(中略)中国、インドなど人口30億人弱の新興国へと変わり、新たな資源需要が累積的に増加するようになったのだ。(中略)商品価格は現物の需給関係だけでは決まらず、将来の需給を織り込む形で決まるようになった。<新興国=エマージング・カントリーズ>という言葉を、かつて広く使用された<ニュービジネス>という言葉に置き換えれば、新しい認識に見えるが、実は古い定石を当てはめているということが分かる。
株価、為替レートをはじめ、一般に現物・先物売買がいつでも可能な(marketabilityのある)商品の価格は、確定的に分かっている変化はすべて前もって価格に織り込まれるから、価格変動は予測できなかったショックによって引き起こされる。不規則になる。結果として、価格変動はランダムになる。それ故に、価格の上昇局面と下落局面が(事後的には)交替しているとしても、同じパターンの変化は二度と繰り返されない。相場に限っては<デジャブ>は、ロジックとしてあり得ないのだ。一見したところ、実体経済の景気・不景気を商品市況が先行的になぞっているように見えるのは、好況期には一日、一日、Good Newsが多く発生するから、結果としてそうなるだけであり、その時点ごとにみれば、良いニュースは大体即時に消化されてしまうものである。
商品市況の世界では<歴史は繰り返す>ことはない。全ての上昇局面と下落局面は、一回きりの歴史の中で、それしかない個性をもっている。それが一つの<時代>である。図に描けば似ているようでも、必ず違った動きをするのである。
とまあ、さんざんエコノミストの記事をけなしてしまったが、最後に適切なことが書かれていた。
地球温暖化が急速に進んでいる状況では、省エネ、省資源、環境対策に力を入れて、そのスピードを緩和させるしかない。これらの課題に取り組むには、資源価格が、さらに高いレベルに移ることも必要だ。(中略)これは企業にとって大きなイノベーションの機会到来でもある。エネルギー価格上昇は<必要>だ。価格上昇なき「節約」では真の省エネにはならない。何故なら、使いたいのを我慢しているだけだからである。あらゆる商品、サービスの中で、エネルギーが割高になって、初めて他の商品、サービスが割安になる。価格体系が変わって、はじめてライフスタイルは変わるし、(そうするのが得だという意味で)その新しい生活に納得できるのではないか。エネルギーに窮した時こそ、今までのやり方が過去のものになる。相次ぐ<創造的破壊>が現実となる。やはり基本的認識は、さすがに商社系シンクタンクだ。
この変化のプロセスの中で東電がどうなるのか?というより、どうするのか?それは別個に決めないといけない。
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さて、話題は変わるが、経済産業省から7月の生産指数(速報)が公表された。
(出所)経済産業省「生産・出荷・在庫指数速報」(平成23年7月分)
リーマン危機による激動、東日本大震災による激動があり、季節変動を識別するのが難しくなっている。とはいえ、今の生産活動は大震災直前というより、リーマン危機の落ち込みから漸く回復した段階と同じだ。夏場で生産の回復ペースが鈍化しているのは<電力不足>が主因だろう。
在庫が増えているのは、積極的に在庫を積み増しているのか、予想ほど出荷が伸びていないために売れ残っているのか明確ではない。小生は、自動車産業など強気な産業が一部あるものの、全体としては震災による生産能力の毀損、円高による海外移転、復興計画の遅れ、電力事情などから、低調なまま進んでいくリスクが相当あると思う。場合によっては、グラフの折れ線グラフは再び下へ向くのではないかと心配しているところだ。この見方は、4月時点に比べれば、明らかに情勢が悪化している。
だとすれば、年末に向かって一番憂慮するべき点は<企業倒産の増加>だろう。これが世界経済、大震災・原発事故の影響を含めた現状だろうと見ている。
秋口以降、民間シンクタンクが今年度の経済見通しの修正を発表するはずだが、多くは下方修正になると見ている。
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