以下のように正論が堂々と出てくるのは喜ばしい限りだ。ただ書いている筆者が外国人であるため、外国人は気楽なものよと根拠もない忌避感に出会わなければよいがと思う。
「海外移転=空洞化」と考えるのは誤りだ(リチャード・カッツ、東洋経済オンライン)
特に以下の下りは、政策当局の人たちにも、是非、しっかりと考慮の中に入れて欲しいと思う。
生産の一部を海外生産に移行している製造業者を見た場合、海外生産比率は、1990年の17%から97年には31%へと上昇している。その後は30~33%あたりで推移してきたが、今後この比率は大幅に上昇するだろう。
海外への投資は国内にも好影響
しかし、米国の例を見ればわかるように、生産の海外移転は必ずしも空洞化を招くわけではない。逆に、前向きなグローバル化が国内の経済成長を後押しする可能性もある。企業の海外での成長と国内での成長との間にプラスの相乗作用を生み出すこともできるのだ。日本企業が多様性を実現できないでいるのは、社内・関係先の保守的集団が余りにも強い発言力をキープしているからだ。技術革新は創造的破壊という位だから、必ず反対する人たちがいる。イノベーションは日本語では「新結合」と訳している。結合されるのはモノとヒト、両面を含む。全てのテクノロジーは新結合を経て、世の中に登場した。国籍をとわずヒトを採用して、製造元を問わずモノを調達して、新結合を試そうとする努力を「企業活力」と呼んでいる。受け身から攻勢へ。これは日本で業務を続けようが、外国に打って出るかを問わず、これからの時代の流れだろう。 ― でも反論はあるだろうなあ。創業の理念、本店だけになっても守りたい発祥の地、コーポレイト・アイデンティティをどう継承していくのか、等々。最後は、現場の頑張りと判断で決まることだ。
(中略)
ただし、今日の海外直接投資の増加は、単なる「空洞化」以上の効果をもたらす可能性を示している。これまで国内市場に依存してきた企業の売り上げが拡大する傾向が見えてきたのだ。
資生堂を見てみると、海外での売り上げが占める比率は、10年前の10%から現在は40%へと急上昇しており、13年の目標を50%に設定している。マッキンゼーが発行した『Re-imagining Japan』(邦訳『日本の未来について話そう』)の中で、資生堂の前田新造会長は、日本企業は多様性に乏しく、現在の思考パターンを変える努力は、会社のトップから始めるべきだと訴えている。事実、資生堂は、経験豊富な外国人、カーステン・フィッシャー氏を国際事業担当の役員として迎えた。
実はこういう趣旨の議論は、日本人エコノミストであれば、たとえば野口悠紀雄氏も同じ見方をしてきた。同じ今週の東洋経済オンラインで同氏は<日本製造業の農業化>を論じている。戦後早々の昭和20年代、日本政府は弱体であった。政府も企業も家計も財産を失っていた。しかるにホンダ、ソニーはこの時代に誕生して成長した。トヨタが自力成長路線をたどったのも戦後だ。ダイエーも東レもそうだ。
ところが、いま海外に打って出るべき時代であるのに、日本政府に要請というと耳あたりはいいが、法人税を下げてくれとか、電力料金を上げないでくれとか、つまりは財政収入は他人の財布から集めてくれ、と。いまお上の保護を声高に求めるのは、農業だけではなく製造業もそうなってしまった。それを野口氏は鋭い論理で指摘している。
国と企業の強さは関係するのか?(野口悠紀雄、東洋経済オンライン)
世界経済情勢も7月から9月にかけて急速に悪化している。
How to Prevent a Depression (Nouriel Roubini, Project Syndicate)
Roubini氏の見解で面白いと思ったのは、最初と5番目の意見。
First, we must accept that austerity measures, necessary to avoid a fiscal train wreck, have recessionary effects on output. So, if countries in the eurozone’s periphery are forced to undertake fiscal austerity, countries able to provide short-term stimulus should do so and postpone their own austerity efforts. These countries include the United States, the United Kingdom, Germany, the core of the eurozone, and Japan. Infrastructure banks that finance needed public infrastructure should be created as well.
Fifth, debt burdens that cannot be eased by growth, savings, or inflation must be rendered sustainable through orderly debt restructuring, debt reduction, and conversion of debt into equity. This needs to be carried out for insolvent governments, households, and financial institutions alike.先日、朝日新聞に寄稿した榊原英資元財務官の見解と上のRoubini氏の意見は、景気対策との関連で判断する限り、概ね同じであると見た。
興味を引くのは、5番目だ。確かに返済しきれない債務は出資(≒所有権)への振替で弁済義務からは免れる。しかし、これって暮らしてもいいが、今日からはこの土地、建物とも▲▲様のものだからな、そう心得ておけ、と言われて心細そうに身を寄せる住人たち、そんな時代劇のシーンを思い起こさせる。そんな場面が国境を超えて、白い騎士を演じる▲▲国とギリシアの間で見られたりするのだろうか?ま、どちらにしても国家も破産する時代である。
The Great Debt Scare (Robert Shiller, Project Syndicate)
こちらは消費者態度指数などの心理調査が急速に悪化したことを論評している。たとえば最後の下り。
The timing and substance of these consumer-survey results suggest that our fundamental outlook about the economy, at the level of the average person, is closely bound up with stories of excessive borrowing, loss of governmental and personal responsibility, and a sense that matters are beyond control. That kind of loss of confidence may well last for years.借金棒引きは制御不能な無責任社会を(一時的にもせよ)作り出す。債務のリスケジュールは金融恐慌のあとでは必ず必要になる政策ツールなのだが、社会全体に及ぶ副作用もまた甚だしいものがある。小生は上の下りを読んで、アメリカ社会はいよいよ<日本病>の症状を呈してきたと思った。
That said, the economic outlook can never be fully analyzed with conventional statistical models, for it may hinge on something that such models do not include: our finding some way to replace one narrative – currently a tale of out-of-control debt – with a more inspiring story.
Project Syndicateを見ていると、次の記事を見つけた。「幸福の経済学」。本ブログに昨日投稿した文章の趣旨にも関連するので、つい読んでしまった。ま、当たり前のことが書かれている。GDPと幸福とは全く別でしょう。 ブータンが国是としているGross National Happiness (GNH) が主たる話題になっている。
The Economics of Happiness (JeffreyD. Sachs, Project Syndicate)
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