拙宅も通常のBSアナログは観ているので放送受信料は払っている。NHKのホームページでも説明されているが、放送受信料は月額1345円。衛星契約をしてBSデジタル放送も含めるとプラス945円が加算され月額2290円になる。マンションの屋上にBSデジタルアンテナ新設を確認して、それではとばかりにマンションの個別訪問をして、衛星契約に移行するように説得するという気持ちは分からないでもない。しかし、そもそも衛星放送はB-CASカードを挿入して視聴するものだ。アンテナだけあるから、なぜ観ていることになるのか。NHKの電波だけを外す設定はできないものの、衛星放送を見ているかどうかの取引内容確認がいるのではないか。取引内容の確認ステップを設けないまま、アンテナがあるからと言って ― それもマンション管理組合が共同の意志として設置した設備であり個別の世帯が意志決定したわけではない ― 個別世帯に衛星契約移行を説得するというのは、いかなる所存か?交渉上の地位の濫用に当たらないか?小生、決して好感をもてないのです、な。
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そういえば、ずいぶん昔、経済統計を勉強したとき、日本国内の米軍基地はNHK放送受信料を払う義務があるかないか、そんな問題があった。確か、放送法の現行規定が整っていないその時は、支払う必要はないという結論だったと記憶している(反対だったかもしれない)。その理由の要点は、NHK放送は公的に提供される公共サービスであるか、対価を払って取得する私的サービスであるかということに帰着する。公共サービスであれば、それは税によってまかなうのが筋となる — 一部には、例えば住民票の交付など受益者が特定できるサービスがあり、その場合には手数料になる。公共サービスに伴うコストは<公租・公課>と呼ばれる。米軍基地内では公租・公課を免じられる税目がある。固定資産税は免税だったはずだ。テレビ受信機があったとしても(確か)公租・公課ということであれば負担する必要はない。だからNHK受信料は払わない。他方、サービス取引の対価だとすれば、それは売買なのだから、米軍と言えども売買対価は100%支払う必要がある。そんな議論ではなかったかと記憶している。
NHKの放送受信料は税か、対価か?
当のNHKの設置理念、経営理念とも関連するようなのだが、NHKは放送の自由を確保したいと考えている。公権力がNHKの放送内容に関与しているわけではない。その意味では、NHKは国家機関の一部をなすものではない。故に、NHKの放送は公的サービスではなく、NHKの放送受信料も公租・公課ではない。だとすれば、何らかのサービス取引に伴う対価として支払われるものである。
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だとすれば、放送サービス取引には当事者の任意性がなければなるまい。任意性があるというのは選択の自由があるということと裏腹である。ところが、そのNHKの受信契約が大変奇妙な契約であって、受信設備を設置した全ての者はNHKと受信契約を結ばなければならないと法で規定している。現在では、放送法でNHK放送受信料支払いの義務を明文化している。
【放送法第64条(受信契約及び受信料) 】<受信設備>とはアンテナのことか、それとも受像機のことか?ここを規定しないと、混乱を招く。が、使用している用語は放送法の他の条文で明らかに定義されているのであろう。そう推測しよう。
第1項 協会の放送を受信することのできる受信設備を設置した者は、協会とその放送の受信についての契約をしなければならない。ただし、放送の受信を目的としない受信設備又はラジオ放送(音声その他の音響を送る放送であつて、テレビジョン放送及び多重放送に該当しないものをいう。第126条第1項において同じ。)若しくは多重放送に限り受信することのできる受信設備のみを設置した者については、この限りでない。
この規定から、アンテナを設置した者は全てNHKと受信契約を結び、BSデジタルアンテナを設置した者は、やはり衛星受信契約を結ぶ義務を負うわけである。いや待てよ。法には衛星受信契約にともなう受信料増額は規定していない・・・。まあ、いいか。法律談義が主目的ではない。最初の話に戻る。
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租税ではないが、関係機器を購入すれば、支払い義務が発生するたとえば自動車購入者が必ず支払う自賠責保険料がある。放送受信料の性格と酷似している。自動車を自動車として使用するには必ず自賠責保険料を払うことが義務付けられている。これは当事者の自由な意思決定にゆだねていると、不確実性や情報の非対称性などにより、交通事故に伴う損害保険サービスの供給が過小になったり、成り立たないためである。だから自賠責保険の義務付けは社会にとってプラスになっているのだ。ロジックとしては。
ただ、自賠責保険を結ぶ保険会社は、当事者の意思で選択可能である。これまた当然の論理である。保険引受先が一社しかなく選択の余地がないならば、独占的な保険料で契約せざるを得ず、そのマイナスが大きい。もちろん、数社の保険会社に競争をさせても、強制保険であるから必ず保険会社は結託して共同利益を最大にする。あるいは、保険料を安く規制すればすればで、商品開発が自由である以上、保険会社は自賠責保険の充実には努力しない。公的な視点から本当に必要なサービスは、公的年金と同じく、政府が関与しなければ適正にはならない。それでも、選択の自由があるので、個々の消費者は大きな不利益を避けうることが保証されている。
一方、NHK放送受信料はNHKという単独の組織が徴収している。消費者にはNHKから別の放送企業に受信料支払先を変更する機会が与えられていない。市町村民税ですら転居によって節税の機会を持てる。しかし日本国内でTV受像機を持つ者は必ずNHKという単独の組織に受信料を支払う。選択の余地がない。
日本国内で受信機を使用するものは、必ずNHKという単独の組織に受信料を納めるよう強制するロジックは何か?
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一つには<良質の番組=公共財>という見方がある。電波は ― 少なくとも昔は — 都市公園のような<等量消費性>をもっていて、かつただ乗り利用者を排除できない<排除不可能性>をもっていた。電波にただ乗りすることが可能だった。民間事業者に番組編成をゆだねていると、最大多数の視聴者が望むものを制作し、コストの負担者であるスポンサーも放送局のそんな行動を是とする。それでは<良質の番組>が過小にしか提供されない。良質な番組を希望者から料金をとって放送をしても必ず受信料を支払わずにタダで見るフリーライダーが現れる。それ故に例外なく全員から徴収する。つまり良質な番組を十分に提供するためのツールとして受信料という制度が生まれた。こう考えるべきだろう。全員から受信料を徴収していれば、特定の関係者との利害関係を取り結ぶ必要もなく、中立的な経営が可能になるという論拠もあるのだろう。
しかしこう考えると、NHK受信料は放送内容を最適なものにするための公租公課であるという結論になる。実際、NHKは、世間では<国営放送>と呼ばれている。大多数の人はそう考えているのではないか。NHKの公的性格が明らかになれば、「このマンションにはBSデジタル共同アンテナがありますから、お宅にも衛星契約に移行してほしいのですよ」と、<義務の履行をお願いして回る>という異な現象を見ることもなくなるはずだ。
そうであれば、何が公共放送であるのか、過剰に提供されていないか、過小に提供されていないか等々、公的な事業を運営する会社として経営全般について会計検査を受け、その活動は公的なモニターの下に置かれるべきだ。給与水準についても公務員給与に準じたものであるべきだろう。
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もう一つ。良い放送サービスが公共財的な側面を持つからと言っても、単独の公的企業を一社だけ設置する方法が最善であるという理屈にはならない。良質な番組を編成するための<受信料>を業界団体である<放送連盟>がプールして、それを各社が制作する公共放送の企画に配分する方式でも目的は十分に達成できるはずだ。既得権益が構造化しやすい特別会社を設けるより、そのほうが遥かに効率的であるばかりではなく、資金の使徒をモニタリングすることによって受信料の支払い側と受け取り側との相互信頼が守られるはずだ。真に緊急性のある報道、真に中立的かつ正確な解説番組など、公共的視点から提供が望まれる番組編成については、NHKであるかないかとは別に、また視聴率とは別の基準で、多数の事業者が受信料を活用できる体制にしておく方が国民の便益にかなうのではないか。
「政府から独立した民間団体である」とNHKがいうなら、なおさらのこと、強制力のある受信料ではなく、真に良質の番組を中心に、サービス販売拡大戦略を中心にするべきだ。そうすれば真に公共的な視点から必要な受信料は現在よりもずっと低額で済むはずである。まっとうな常識で考えても、衛星第一や第二、ハイビジョン放送で流されている放送が、公共的な視点から広く求められているとは、小生、どうしても感じないのだな。需要と供給の経済原理で資源の投入を決定するべきである。
NHKという「会社」は、名目と実態が複雑にもつれあい、乖離していて、<異形な組織>である。東京電力をはじめとする電力企業も21世紀資本主義において<異形の民間企業>であったが、NHKもまた異なる・怪なる・奇にして妙な存在だ。
・・・いやはや、今日は長話しになった。受信料のみならず、電気代、ガス代 etc.、規制料金は何となく高いなあと感じている日頃のモヤモヤが出てしまったのかも。
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