経済学にフェルドシュタイン・ホリオカのパズルという逆説がある、というよりあった。それは本当に国際的な資本市場が機能していれば、投資は収益率の高い国で盛んになり、収益率が低い国では投資が低迷する。たまたま収益率が高い国の家計があまり貯蓄しないとすれば、資金が余っている国から調達できるはずである。それゆえ、その国の投資水準と貯蓄水準は何の関係もなくなる。経済学のロジックにそえば、こんな予想ができる。しかるに、マクロデータで検証すると、実際は貯蓄率の高い国では投資も高く、貯蓄率の低い国では投資も低い。こんな傾向がみられることをフェルドシュタイン・ホリオカの二人は見いだした。
これはパラドックスである。というより、あったと今では言うべきだ。なぜなら1990年代後半以降、2000年代にかけて、正にフェルドシュタイン・ホリオカが予想したように、投資と貯蓄とは何の関係もなくなったからだ。アメリカは盛んな設備投資、IT投資を行うのに他国の — 主として日本であるが — 貯蓄資金を自由に活用した。そしてアメリカ経済の復権をみごとに果たした。リーマンショックという金融危機到来後は、ドル安に任せることによって、実質的な債務調整というオマケまで演じてしまった。マネーの貸借は時代を問わず行われて来たが、往々にしてトラブルのツケは貸した側が負担するものである。
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日本政府が進めようとしているリクルート活動を知って、上の話しを思い出した次第だ。本日、以下のような報道がある。
政府は、2013年度新規採用の国家公務員数の上限を前年度から2割超減らし、4700人以下(防衛省採用分除く。以下同)とする方針を固めた。
6日の行政改革実行本部(本部長・野田首相)で、行政改革担当の岡田副総理が全閣僚に協力を要請する。消費税率引き上げを柱とする社会保障・税一体改革の遂行を目指す野田政権として、行政改革に力を入れることで、国民に増税への理解を広げる狙いがある。
政府・民主党は2009年の政権交代以降、自公政権時代の09年度に7845人だった新規採用者数を、11年度は09年度比39%減の4783人、12年度は同27%減の5761人に抑えた。12年度は東日本大震災への対応強化のため採用を増やしたが、13年度は改めて、「09年度比で4割超削減する」4700人以下に抑えることにした。
(出所:YOMIURI ONLINE, 2012年3月6日07時56分)資金繰りがきついときには人の採用を減らし、余裕ができたら人を多めに採用するつもりなのだろうか?
昨晩、知人の警察官OBの人から話しを聞いたのだが、警察でも若手有望人材のリクルート活動に本腰を入れるよし。というのは、退官する人の数が近年急増している背景があるからであり、必要な警察業務を遂行するためには、退職する世代を補充する若手の人材がいる。その若手の人材が警察内部では不足しているという現実があるそうだ。それはそうだろうなあ、と。若い世代はそもそも絶対数が減少している。有望な若手人材の取り合い合戦になっているのが今の状況である。その知人は退官後、リクルーターに任命され、小生が暮らす町を管轄にして道警本部、所轄署が進める人材発掘活動のサポートをするとのことだ。意欲のある人材争奪戦に警察も参入するということだ、な。そしていま、というかそれに反して、日本政府は採用人数を減らすという。バカではないか・・・と。
職員数は仕事の量に応じて最適配置するべき生産要素である。業務計画の見直しなくして、職員採用計画を先にいじるなど、論理的にありえない。 『行政改革に力を入れることで、国民に増税への理解を広げる』ために<職員数>を抑制するというが、その「行政改革」とはどこの官庁のどのような業務の改革なのだろうか?その改革プランが先にあるはずだ。そんなものがあるとは寡聞にして聞いたたことがない。人を減らすことが即ち行政を<改善>することならば、自衛隊だけを残して、他の職員をゼロにしてはいかがか?いや自衛隊だって本当に要るのですか?なければ地域社会が自発的に自衛部隊を作るだろう。そもそも中央政府って本当に要るのですか?ゼロベースで議論することもできるのだよ。ずっとそう言いたいなあ、と、気持ちとしてはもっている。
カネが余ったら、投資先に苦慮して土地にでも投資するかとなる。カネが不足したら、上手な資金調達を工夫することなく、ただ投資を節約する。こんな単細胞的経営者がいれば、企業はあっという間に衰退するだろう。目的に応じて手段は決まる。政策があって職員数は決まる。採用を抑制するなら業務量スリム化を進めるべきだ。労働節約的な行政システム改革を推進すればよいのだ。しかしそんな理念・戦略は語られていない。増税、つまりカネを増やすために人を減らすというだけだ。民主党は日本国政府の管理運営に何の定見も持っていない。その証明ではなかろうかと思う。
一番の疑問は、こんなことをしたいと政府与党が言っていると、そのことのみを報道するばかりで、理屈からして下敷きになっているはずの行政システムの改革方針を確認しようとしないマスメディアの報道姿勢である。「あっ、そうですか・・・」ということで、流しただけかもしれない。しかし、それでは日本のマスメディアが、より一層、低品質・高コスト体質になってしまうのではありますまいか。
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