学部の学生であった頃、誰とだったか、天動説と地動説について議論をしたことがある。そう。太陽が地球を回っているか、地球が太陽を回っているかの、あの有名な論争である。
何を分かり切ったことをと。一人の例外なく、そう言うはずだ。今時、天動説を唱える人物などいないはずだ。しかし、小生、若いころからへそ曲がりだった。
小生: 天動説と地動説とどちらが正しいかは決められんね。
友人1: あほか、おめえ。天文学を知らんのか!
小生: いいか、原点と座標軸があって、太陽を原点とするなら、そりゃあ惑星は太陽の周囲を楕円を描いて回っているよ。だから何年何月何日、何時何分に▲星は、この位置に来ると予測もできる。だけどな、ということは、原点を地球に移動したときの、▲星の位置も決まるわけよ。原点を移動したときに、旧座標と新座標がどう対応するかって問題は、高校生でもできる数学の問題だぞ。そうだろ?
友人1: じゃあ、なんで地動説が正しいって結論になっているんだよ?
小生: 本当は銀河系の中心に原点を定めりゃあ、もっと正確になるわけさ。太陽系も含めて、銀河全体が回転しているわけだからな。それよか全宇宙の中心の方がもっと正しいわな。だけど宇宙の中心なんて、あるかないかすら分からん。だから絶対的に正しい学説なんてないってことよ。
友人2: そやけどな、おまえ、楕円軌道は簡単な数式ですむやろ。確かに、地球を中心に太陽や金星や木星や、それと月もな、回っているとして、それを数式で表すこともできるわな。だけど、ものすご、複雑な式になるで。そんなん、実用的じゃないやろ。
とまあ、こんな<激論>をやった覚えがある。それが、何の拍子か小生が所属していたゼミでも話題になった記憶があるのだな。その時、恩師が<思考の経済>という言葉を教えてくれたようにおぼろげに覚えている。恩師も亡くなっているし、友人が誰だったか忘却してしまったし、もし記憶違いなら、本当に申し訳ないのだが・・・
8月16日付の日経朝刊にこんな記事が載った。元記事は提携しているFinancial Timesだから日経オリジナルではない。
投資家にとって最も重要なことのひとつはアイデンティティーに関する問題だが、市場がユーロ圏のあらゆる動きに条件反射を繰り返す中では、そのことは容易に忘れ去られてしまう。そこでアイデンティティーに関連して3つの問題を提起したい。欧米は失われた10年を経験した日本と同じような状態に陥るか。米、英、独は安全な避難先か。そしてフランスはユーロ圏の中核メンバーかという問題である。EUの連帯感の欠如をいう裏側で、日本社会の連帯を指摘している。大震災・原発事故で被災した人々の行動がよほど印象的であったか。よく言えば<連帯>であるが、ちょっと以前まで<護送船団>と称していた傾向と同じようなものだ。もっと口の悪い向きは<絆=過去のしがらみ>とこき下ろしていた。
米欧の公的部門の債務状況は日本の例に近づきつつあり、10年物国債の利回りは下がっている。日本が犯した政策の間違いに似た動きもある。
一方で違いもある。日本の債券の利回りは名目では低いが、実質の利回りはデフレのため何年もプラスが続いている。対照的に米、英、独の債券の利回りは実質すべてマイナスだ。
「失われた」10年という用語も不正確だ。日本経済は世界の成長に支えられて20年以上、不況を免れてきた。今はそんな支えはどこからも期待できない。ユーロ圏の政策決定者たちは思慮に欠ける緊縮政策に夢中になっている。日本では昨年の福島での原発事故への対応にみられるように社会的連帯感が今も強い。ユーロ圏の危機は連帯感の欠如に根ざしている。
投資家にとっての安全な場所についての問題だが、米国が安全な投資先としての地位を失うとは思えない。巨額の外貨準備を抱える国はそれが米国とイデオロギー的に合わない中国であっても、ドル保有から大幅に分散することはできない。米国は最も流動性に富む深みのある市場を持つ。
英国についても似たようなことがいえる。ユーロ危機が存在し、崩壊の可能性がある以上、神経質になった投資家の資金が英国に流入し続けるだろう。もちろん、ユーロが生き残る兆候を示す場合には状況が変わることには留意すべきだ。
最後にフランス。ドイツに比べ政治的にも経済的にも凋落(ちょうらく)傾向にある。競争力に問題があり、輸出のパフォーマンスが悪化している。オランド大統領の改革意欲は弱い。労働市場は柔軟性に欠け、財政改革は難しい。ユーロ圏が分裂した場合には、残留した国で構成するユーロの相場は切り上がるだろうからフランスの競争力は一段と悪化する。
泥沼のデフレは政府・日銀の無策の象徴のように言われてきているが、上に述べられているように、デフレを計算に入れると、いかにゼロ金利であっても、日本の実質金利はプラスであった。いや、プラスを続けてこれた。プラスの実質金利が続く中で、日本経済は崩壊せずに持続した。しかし、いまの欧州はマイナス金利だ。それでも、問題を解決できずにあがいている。
上から目線で批評する時は別の表現であったと記憶しているが、今度はえらく下から目線になったなあと。欧米を原点にすれば、日本は上に行ったり、下に行ったり、また上に行ったりしているように見えるのか。同じ現象を、日本を原点にして観察すれば、日本が同じフロアにかたまって、次第にガラパゴス化する中で、世界の方は上に行ったり、かと思うと急降下したりで、甚だ落ち着かない。
思わず学生時代の古い会話を思い出すきっかけになった。大層面白く読ませてもらった次第だ。
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