日銀の西村副総裁による「オーストラリア準備銀行・国際決済銀行共催コンファランスにおける発言要旨」が意外な広がりで反響をもたらしている。
「評判」になっているその部分とは
What lessons can we learn from this rather cursory examination of the recent history of two advanced economies and the present situation of one emerging economy? It is clear that not every bubble-bust episode leads to a financial crisis. However, if a demographic change, a property price bubble, and a steep increase in loans coincide, then a financial crisis seems more likely. And China is now entering the "danger zone."中国の人口構造と資産価格、さらには家計部門の債務比率が、バブルとその崩壊を経験した日本、米国と相似している。中国は”danger zone”に入っている。日銀副総裁の発言としては、結構、ショッキングな表現だったのだろう。
英紙テレグラフのコラムニストAmbrose Evans-Pritchard氏は以下のようにとりあげている。
China bubble in 'danger zone' warns Bank of Japan
China risks a repeat of Japan’s boom-bust disaster 20 years ago as exorbitant property prices combine with a demographic tipping point, a top Japanese official has warned.
The surge in Chinese home prices and loan growth over the past five years has surpassed extremes seen in Japan before the Nikkei bubble popped in 1990. Construction reached 12pc of GDP in China last year; it peaked in Japan at 10pc.日経には以下の記事が載っている。
... Japanese stocks have fallen by 75pc and Tokyo land prices by 80pc since the economy first began to slide into a deflationary trap two decades ago, although real per capita income has held up well. Any such fate for China – a much poorer country today than Japan in 1990 – has shattering implications.
Such a warning from a Japanese official may ruffle feathers in Beijing. The Communist authorities have studied Japan’s Lost Decade closely and are convinced they can avoid the same errors. (Source: The Telegraph, 2012, 8, 23)
改革開放以来の経済成長を追い風とした都市化の進展で人口の移動も進んだ。都市部に住む人口が6億9079万人にのぼり、農村部の6億5656万人を初めて上回った。全人口に占める比率は02年から12ポイント上昇し、51.2%となっている。
経済発展をけん引してきた東部の沿海地域は都市化率が61%。内陸部と呼ばれる中部や西部はそれぞれ47%、43%で差があるが、都市化の速度はむしろ内陸部が速い。例えば内陸の湖北省は今回の調べで初めて都市部の人口が半数を超えた。
産業構造も大きく変わりつつある。02年調査では農業など第1次産業で働く人が50%、サービス業など第3次産業は28%だったが、11年には1次産業が34%、3次産業が35%となり、初めて逆転した。15~64歳の「生産年齢人口」は初めて10億人を突破したが、急速な若年層の縮小と都市化の傾向は将来、労働力の不足や社会保障の負担増などとして表面化する可能性もありそうだ。(出所:日本経済新聞、2012年8月22日)
高度成長末期の日本経済を特徴づけた<転型期>。どうやら中国経済は、テイクオフも急上昇であったが、構造変化も急速であるようだ。その過程で過剰投資、過剰債務問題が表面化する可能性はそれなりに高いと見るべきかもしれない。賃金上昇に歯止めがかからないとなれば、どうも人民元の一方的上昇というのは、あまりなさそうであるし、政策運営がまずければ悪性のインフレ進行の方を懸念するべきなのかもしれない。
韓国についても家計部門の過剰債務問題がある。これは日経が紹介したFTの記事。
1997年のアジア通貨危機で韓国の大企業が大幅な債務削減を余儀なくされて以降、同国の銀行は貸出資産の増加を消費者に頼ってきた。欧米同様、韓国でも家計への融資は不動産価格の上昇とともにその後10年間で急増した。
■危機時の米国をはるかに超える債務
ところが、多くの先進国で消費者債務はこの4年間に減少しているのに対し、韓国の家計債務は増加の一途をたどり、昨年には可処分所得の164%に達した。これは、サブプライム危機発生時の米国の数字をはるかに上回る。
自己資本が充実している韓国の銀行がシステミックリスクに直面する可能性は低いものの、消費者債務の増加は、輸出依存度の低下を目指す政府の取り組みを阻害している。韓国銀行(中央銀行)は、2012年1~6月期の消費成長率がわずか1.4%にとどまったのは過剰な家計債務が原因だとみている。
同国は輸出市場の不振に悩まされており、経済をこれ以上弱めることなく消費者債務の増加に歯止めをかけようとしているが、道は険しいようだ。
■政府の対応に批判の声も
韓国銀行は昨年、政策金利を徐々に引き上げ、政府は新規貸し出しを抑制しようと融資規制を強化した。だが、韓国銀行は今年に入って方針を一変。先月には予想外の利下げを敢行した。家計による高水準の利払いをめぐる懸念がこの決定の一因となったとみられる。
一方、主要金融当局である金融委員会は先週、住宅価格の下落に関する政府の懸念を受けて返済負担率の規制を緩和した。
金融委員会の当局者は「我々は家計債務を最大のリスク要因の1つとみている。一方で、政府からは規制を緩和し、より多くの住宅資金を借り入れられるようにすることを求められている。今回の決定はその妥協策だ」と説明する。
英ロイヤル・バンク・オブ・スコットランドのアジア地域担当エコノミスト、エリック・ルース氏は、政府は消費者債務の問題に適切に対処できていないと指摘。「家計債務はすでに持続不可能なほど高い水準に迫っている」と警告する。
韓国は、いま欧州景気の後退から輸出需要が急減しており、先行き予断を許さない。
欧州経済は日本には直接的影響が軽微と考えられたが、中国、韓国には商品需要をとおして、あるいは金融取引を通して、相当大きなネガティブ・ショックとなる見こみになってきた。
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