菅直人元首相は、政権交代が支持されて民主党が与党となった。内閣不信任案が可決されること以外の理由で解散をするべきではなく、不信任されないならば任期満了まで続けるべきである。こんな旨を発言したという。
どうも奇妙な論理だ。不信任が可決されないことが世の趨勢と一致しているならば、直ちに解散をしても民主党は勝てるはずである。菅元首相の発言の背後には、選挙をすれば民主党が負ける、しかし2009年に支持されて政権についたことは事実であるので、任期が満了するまでは政権を担当する権利がある、そう主張していることと同じである。
選挙をすれば民主党が負けると確信をしているなら、それ即ち<信任>されていないことを認めているのではないか。
大体、野田首相が辞職するとして、また代表選挙をやるのか?したとしても、菅→野田→別の人物と、このように選挙を経ずして、ただ党内事情から三人の首相をタライ回しするとなると、さすがに国民の許容する所ではあるまい。小泉首相以後の首相も安倍→福田→麻生ときて、三人目に政権を失った。まあ、タライ回しも三人目が限度であるのが経験則ではないか。とすれば、野田首相による「やけっぱち解散」で敗北するも、「タライ回し首相」の追い込まれ解散で敗北するも同じことではないか。そんな見方もありうるわけだ、な。
そもそも2009年・大勝利の時の公約(=マニフェスト)はほぼ全てが破たんし、時の代表であった鳩山元首相は自分たちの未熟を自己批判しているくらいである。任期と言ってももう残すところ1年程度である。「近いうち」解散の約束を反故にすれば、参議院は動かないから、もうこの先は何もできないに違いない。将棋であれば敗北必至、負けの局面である。王が詰むより前に<投了>したっておかしくはない。
一見すると、野田首相の早期解散戦術が理には適っているように思われる。
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しかし、暴論と思われる思考こそが、真にロジカルであることもある。民主党幹部が主張するように、あくまで野田首相の約束は反故にして、任期満了まで強気に押していこうというのも一つの戦略には違いない。「押さば引け、引かば押せ」が該当する状況を<戦略的代替関係>があるというが、いま民主党が強気に出るなら、野党はどこまで強気に対抗できるだろうか?兵糧、というよりも重要法案を人質にとる野党という言い方がなされるが、与党のほうだって「野党が協力してくれないので法案が通りません、どうしようもありません」と匙をなげる戦術がある。ゲーム論でいう<ホールドアップ>である。民主党にこれ以上失うものはない。この点が重要だ。であれば、重要法案を人質にとったつもりの自民党は、ちょっと甘いというべきかもしれない。攻勢に出られるはずの自民党こそが自滅のリスクをもつ。自民党が次の政権を担当する可能性が高まれば高まるほど、民主党は逆に開き直り、強気に出る誘因をもつと言える。まああれだな。不良債権で倒産必至になった銀行の経営者が、自暴自棄のギャンブラー(=追貸し)戦術を選んだことと似ているようでもある。
ところが野田首相は敢えて自民党が歓迎する融和路線(=ソフト・コミットメント)である年内解散路線を打ち出してきた。事実認識が党幹部と少々異なっているようだ。首相は、ソフトに出ればソフトに出る、タフに攻撃してくればこちらも反撃するという<戦略的補完関係>を想定しているようだ。次の衆議院選挙で負けるにしても、参議院では第一党であり、自民党との良好な関係を築いておけば、協調体制の下で一定の発言力を保持できる。そう判断したのでもあろう。しかし、これらの思考はすべて自民党が民主党と協調する動機がある場合に限る。所詮、政党の国会席取りゲームはゼロサムゲームであり、協調することに自己利益はない。次の衆議院選で民主党が敗北すれば、自民党は参議院・民主党に揺さぶりをかけて、離党者を増やす作戦に打って出るのが理屈である。だからこそ、どうせ裏切られるなら、今から自民党は信頼せず、任期満了まで ― たとえ政策は何も進展がないとしても、それは自民党の非協力を訴えればいいのだから ― 議員の椅子に座り続ける。この戦略がロジックにはかなっている。こうも言えるだろう。
昼食を同僚とともにしたが、彼は「維新の会が怖いので、相手の組織が固まるまでに解散しちゃえってことだと思いますよ」と、自民党ではなく維新の会を仮想敵国とした戦術である、そんな見方だった。維新の会は民主党と支持者を食い合う関係じゃあないと思うのだが、しかし浮動層はどこに投票するか予想もつかないから、上の見方もあるかも。そんな話をした。
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