2013年6月26日水曜日

雑談-意味不明の外来語が多すぎることは訴訟理由になる?

日本の公用語は日本語である。憲法ではこの点の規定がないので、どの法律で規定されているのか、気になってはいたが、調べることもなく放置してきた。そうしたら次のような記事を見つけた。
テレビ番組で理解できない外国語が多く精神的苦痛を負ったとして、岐阜県可児市の元公務員で、「日本語を大切にする会」世話人の高橋鵬二さん(71)が25日、NHKに対し141万円の慰謝料を求める訴えを名古屋地裁に起こした。
訴状などによると、高橋さんはNHKと受信契約を結び、番組を見ているが、必要がない場合でも外国語が乱用されていると主張。例として「リスク」「ケア」「トラブル」「コンシェルジュ(総合案内係)」などを挙げ、「不必要な精神的苦痛を与える」として、民法709条の不法行為に当たるとしている。 
高橋さんは「若い世代は分かるかもしれないが、年配者は、アスリートとかコンプライアンスとか言われても分からない。質問状を出したが回答がないので提訴に踏み切った」と説明した。原告代理人の宮田陸奥男弁護士は、「外国語の乱用は全ての報道機関に言えることだが、NHKは特に公共性が強く影響力がある。日本文化の在り方を社会に広く考えてほしいという趣旨もある」と述べた。
地裁では「140万円を超える請求」を求める訴訟を扱うとされており、慰謝料を141万円とした。
(出所)中日新聞、2013年6月25日 20時02分
NHKの放送で意味不明の外来語が多すぎるので地裁に提訴したというわけである。請求額は141万円。

改めて調べてみたら、日本語を「公用語」と規定している法律はないが、裁判所法では74条で次のように規定していることが分かった。
第74条 裁判所では、日本語を用いる。
もちろん日本の法律は全て日本語で記述されている。外国人向けに、たとえば商法や刑法の英訳版は<公的には>提供されていない - 私的なサービスとして、英訳法令が提供されている例はある。ついでにいえば、小生が勤務するところでも、授業は日本語で行われると予め案内されているし、入学試験では日本語を用いて出題している。 このような現状を総称して、日本国の公用語は日本語であると言うのだろう。

つまり、日本の公的機関が日本国民に対して公的な活動を行う時には、日本語を用いることが大前提になっているわけであり、それは全ての日本人が公的サービスを理解でき、活用できるようにするためである。当然、それは日本人が持つ権利である。そう認識しているわけだ。

だから、NHKで放送されている内容が、日本語ではないので理解できない。意味が分からないとすれば、それは権利を侵害されていることになる。そこで訴訟となったわけで、話の筋道は大変よく理解できるのだ、な。

確かにねえ~~、リスクは危険と言えばいいし、そもそも金融や経済理論のテキストではリスクを避ける人たちのことを「危険回避者」と言っているくらいだ。リスクという言葉を敢えて使う必要はない。コンプライアンスの意味が適法性、遵法的態度のことであると分かっている人は、案外少ないかもしれない。日本語でいえば、意味がそれなりに通じるのであれば、全ての日本人に分かりやすい日本語で語るのは公共放送局の業務上の義務である。確かに、そうも言えるだろう。であれば、裁判所も判決文において「リスク」や「コンプライアンス」といった歴史の浅い外来語を使うべきではないという理屈になる。

名古屋地裁は、上の訴訟を受理するにあたって、過去の判決文を改めて検証する羽目になるだろう。これは確実だ。

× × ×

しかし、意味不明な言葉というなら外来語に限った話でもあるまい。

たとえば官僚がよく使う「前びろに」。小生も、ずっと昔、役人仕事をしたことがあるが、他省庁の担当者に連絡するとき、先輩から「前びろにやりますから、と必ず言うんだぞ」と注意され、意味がよくわからなかったものだ。「前向きに」なら耳にしたことがあったが、「前びろ」はなあ・・・と、そんな困惑だ。「承っておきます」、これも中々使いこなせない言い回しだ。国会の想定問答を作るときの「合議」、ゴウギではなくて、アイギと発音するのだが、普通の人は意味が分からないだろう。

小生は統計分析を専門にしているが、「定常性」の意味が分かる人はそう多くはないはずだ。そもそも、NHKだけではなくマスメディアが広く使っている「GDP」という用語。これを正しく理解している人は、経済学部出身の人ですら半分はいないと思うのだ、な。だからといって、GDPでは分からないから「国内総生産」と言い換えても、ますます<???>であろうし、「付加価値の合計」と言っても同じことである。

そもそも論でいえば、「会社」という言葉だって明治になって造語された新語である。新語がなければ「カンパニー」という言葉をいまなお使っていたであろう。文明開化の時代、当時の人にとって「会社」のほうが「カンパニー」よりずっと理解しやすかったとは言えないだろう。

大体、「貯蓄」と「資産」の違いが分かる人は、10人に1人もいないはずだ。 普段、使われる言葉ならその意味が正しく理解されているのか。みんな理解しているつもりになっているだけではないのか。どうせ理解できないのだから、外来語をそのまま使って、「難しい話をしているのですけどね」と分かるようにしておくのも、ある意味でサービス精神とは言えまいか。これも一理屈ある話しでござんしょう……。

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それでも、さすがにコンプライアンスは「法律を守ろうとする姿勢」と言っておけば、何ら誤解をうむ怖れはないような気がする。これは法律の専門家に言わせると、とんでもないことなのだろうか?

小生は経済学が主分野だが、「GDP」も「付加価値の合計」も分からないと言う人には、数字的には、日本の中で仕事をしてもらった給与と会社の利益を合計した金額に大体近い、と話すことにしている。だから、GDPを増やすというのは、仕事の量を増やしたり、会社の利益の増加につながるのですと言うと、大体の人は「なるほど」とあいずちをうつ。

ま、外来語が多すぎるというので訴訟におよんだ人は、NHKの放送をきいていて、とても相槌を打つような気分になれなかったのだろうと推測はつく。

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