ただ、下落率でみると株価水準がこの間に26000ドル前後にまで上がっていたため大したことはない。マイナス4.6パーセント。5パーセント未満である。この程度の株価変動は、なるほど日常的ではないかもしれないが、珍しくはない。
ダウ平均は、5日の終値が前週末比1200ドル安に迫った。大幅に見えるのは、数字を大きく見せているからだ。ニュース番組の平均的な視聴者は、ダウ平均が500ドル以上下落すれば一大事、と刷り込まれている。だがダウ平均の最高値が2万4000~2万5000ドル前後を行き来するのが日常的になった今、1000ドルの振れ幅に以前ほど大きな意味はない。比率で言えばわずか4.6%の下落だ。米紙ウォールストリート・ジャーナルの編集者は、ダウ平均の下落率が今回より大きかった日は過去に100日以上ある、とツイッターに投稿した。
株価が2営業日で急落したと言っても昨年12月末の水準に逆戻りしたに過ぎない、ということも覚えていてほしい。もしあなたが1年前にS&P500に投資していれば、5日の急落後も約15%の上昇率を確保している。(出所)ニューズウィーク(日本語版)、2018-02-06
今回の株価大暴落は、これから実態経済が上向いていこうかという段階で発生したところが特徴的である。グリーンスパンFRB議長が登場直後に発生した有名な「ブラックマンデー」(1987年10月19日)もそうだった ー もともとNY市場の暴落は10月に発生することが多い。
世間では「日本はずっと不況が続いている」、「アメリカはリーマン以後ずっと長期拡大が続いている、いつ崩壊してもおかしくない」と。そんな単純すぎる指摘がされることが多いが、何を見てそう思うかは人それぞれだ。マネーとは別の世界経済全体のリアルな実態をみると、ずっと拡大が続いてきており、今後も一過的、地域限定的な波乱は予想されるものの、成長拡大基調が続くであろうと。この予測はまず外れないと見ている。
現在は、ネット技術が個別商品にも織り込まれ、ライフスタイル全体を変えつつある。世界全体で暮らし方、買い方、楽しみ方が変わり「消費革命」が進むだろう。働き方も変わり、文化、ライフスタイル全体にも波及するだろう ー その際の難問が貿易システムになるのか、国際政治になるのか、宗教になるのか、民族になるのか・・・それはまだ分からないが。
ま、いずれにせよ、
「日本の景気はずっと悪い」というメディア調の慨嘆はまったくのウソである。人手不足である。賃金が上がらないのは少ない人でビジネスが展開できるイノベーションが進行中であるからだ。賃金インフレが発生しない分、安定的な成長が期待できる。そうでなければ某経済週刊誌のように「老後の資金は株式投資で」などとすすめられるはずがない。
今回の米株価大暴落の主因は以下のようにみている:
- 雇用状況データが予想を上回る好結果で賃金も回復しはじめた。
- アメリカ経済の拡大トレンドが改めて確認された。
- 金利先高観が一部に出てきた。長期国債相場の下落懸念から先手をうって売却、長期金利が上がった。
- 株から債券への資金シフトが発生し、株価のボラティリティが上昇した。
- この変化を検知した人工知能(AI)売買プログラムが売却指示を出した。株価下落が波及し、更にボラティリティが拡大、更なる売却指示で暴落。
概略以上のような経路ではなかったかと想像している。そして、何よりこの一連の暴落劇が、FRB議長がイェレン氏からパウエル氏に交代するちょうどそのタイミングで起こった、この点はやはり大事なポイントだろう。グリーンスパン新議長が登場して間もなく起きたブラックマンデーは上に述べたが、バーナンキ新議長登場時にも確か「バーナンキ・ショック」があったはずだ。なぜかFRB議長の交代前後にアメリカ金融市場の波乱は発生しがちなのだな。なぜだろう?
イェレン氏は再任されなかったことへの失望を露わにしている(と伝えられている)。前議長のこのような姿勢はかなり珍しい。
雇用状況の改善とそれを受けた金利先高観は事前にFRBに(可能性として)分かっていたことだ。金利が2018年中に何度引き上げられるかで3回説や4回説が噂されていた。世間(≒金融市場関係者)の心配に対して、FRBはまったくのコミットレスな姿勢をとり、そのため金利は景気拡大ペースに合わせるように、予想以上に急速に引き上げられていくのではないか?そんな観測もあった。とすれば、そもそも上がりすぎという感覚もあった株をいま売却し、債券にシフトさせようという投資戦略が浮上するのは極めて自然だ。
どうやら今回の米株価大暴落。イェレン前議長からパウエル新議長に与えた最初の宿題。品の悪い表現をとれば<最後っ屁>でなかったろうか。好意的にみれば<大掃除?>。「株、適当に落としておいたから、あとはヨロシクね」、ひょっとしてそんなところか?そう思っているところだ。
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