2019年8月22日木曜日

「革新系」という言葉の使用には韓国では注意を要する

政治の世界では「革新系」という言葉が頻繁に使われる。例えば、日本の政界においては自民党に比べて立憲民主党や国民民主党、更には共産党であっても「革新的」と称されている。

一体、この「革新」という言葉の真の意味合いとは何なのだろう。

「革新」に類似した言葉として「左翼」という言葉もよくつかわれる。

必ずしも現政権を保守しようという側が「保守」であり、現政権を打倒しようという側が「革新」と称されているわけではない。現に韓国の政府は「左翼政権」と呼ばれ、「革新政権」と呼ばれている。

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それぞれの国には長年月の間に形成された伝統的な支配層や支配的な慣習や制度がある。これらに挑戦して新たな枠組みを構築しようという政治勢力は文字通り「革新的」である。例えば、19世紀に誕生した共産党は上の意味で典型的な革新勢力であった、というより革命を志向する勢力であった。

確かに、韓国の左翼勢力は韓国内の支配勢力を転覆しようという目的をもっているので、この意味では「革新的」であり、「左翼勢力」ではある。

ただ19世紀から20世紀の初めにかけて左翼勢力を強力に支えた共産主義思想の基盤はマルクス・レーニン主義であり、それは空虚な伝統的道徳や宗教を下部構造の上にたつ上部構造として排し、史的唯物論に立脚して社会を論じるわけである。必然的に道義や価値から議論を始めるのではなく、反対に科学万能主義とも言える議論を展開するという特徴が共通にみられてきた。

中国共産党もその伝統を十分に伝えている。

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韓国の革新勢力は、しかし、利益や事業、生活という形而下的側面にあまり意を払わず、「正義」や「道義」を重視しており、最も愛用する戦略的用語は「道徳的優位」という単語であるのはよく知られている。

本来、歴史を通して澱みのようにつもり重なった先入観や偏見を排除して、事実観察のみに基づいて科学的分析を進める手法を左翼勢力は最も得意としていたはずである。

その左翼勢力が、韓国では「道徳的優位」などという用語を頻繁に使っている。その道徳とは、いかなる道徳か詳らかではないのだが、どうも受ける印象から察すると多分に朱子学的な「天理」、「道義」に道徳の源泉を求めている節もあるようだ。

だとすると、名称は確かに「左翼」であり、「革新」ではあるが、その実質は「革新」どころか、伝統的道義論に回帰した「超保守反動」に位置づけられるはずである。前の保守政権をもっと超える保守的反動であるので必然的にそうなる。日本の類似例を求めるとすれば、「革新」を称しつつも実は「国体」に執着した近衛文麿の「新体制運動」に近いかもしれない。そういえば、近衛文麿も筆頭貴族の出自でありながら既存の政党や財界、富裕層に足場を置くことを好まず、広く大衆的な人気の上にたって日本の政党政治を解体しようとした。その意味でも、現在の韓国「革新政権」は支配層の打倒を目指すという点でのみ革新的ではあるのだが、実はそれだけであり、その思想と実態は極めて「伝統回帰的」であり、過去を超越する革新的要素はほとんど持っていない政治集団ではないかとも思われる。

その超保守反動政権が共産党独裁国家である北朝鮮との融和を目指すというのは、本当は矛盾しているのだが、細かな理論、理屈は横に置けば、かつての君主制国家・朝鮮に郷愁をもちエリート政治家が庶民を道具として使っている点では、どちらもどちら、旧体制への本家帰りをしているのではないかと思われる。

どうも韓国の「革新勢力」は言葉と実態が本質的に矛盾している政治勢力であると感じている。

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