2019年8月21日水曜日

対企業「内定辞退予測サービス」をどう見るか?

リクナビ(親会社はリクルート)の「内定辞退予測」が世間の関心を集めている。庶民の感覚では、就活に励む学生にとって不可欠のツールであるリクナビに提供する自分の個人情報をリクナビが利用して企業側に<個人別内定辞退確率>を有償提供する。何だか個人情報保護に限りなく違反している、そんな印象もあることはある。この種のサービスを非難する人はそう感じているのではないかと推察される。

昔なら「データのクズ」として廃棄されたはずの業務情報が経済価値を持ち始めるという現代に特有の倫理問題かもしれない。

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リクナビを通して金融機関の採用情報を重点的に集めている学生がいるとして、その学生が製造業の大手メーカーの営業職も(念のため)志願しているとする。製造メーカーの立場としては、その学生が本気でその会社を志願しているかどうかを知りたいが、それは分からない。なぜなら、その学生は『いざという時の保険のために御社の面接も受けようと思いました、第一希望は▲▲銀行ですからそちらで内定がでればそちらに行こうと思います云々』などとは絶対に言わないからである。

「新卒市場」という市場があるということ自体、労働市場の非効率の原因の一つであると小生は思っているが、要するに新卒学生市場も労働市場の一部分である。一般的に、市場メカニズムは何より効率性を重視しなければならない。というのは、市場経済を基盤とする資本主義を採用している国で市場の非効率性を放置すれば、合理的な資源配分が阻害され、経済成長が抑えられるという結果を招き、ひいては競合国に対して全ての面で競争劣位に立ってしまうからである。つまり「国益」を失うわけだ。

共産主義ならいざ知らず ― グローバル化した世界で一国共産主義を語っても妄言になるが市場を信頼しないなら政府が決める理屈だ ―、資本主義経済では市場メカニズムの効率性維持が致命的に重要である。

故に、リクナビによる内定辞退予測サービスが企業側の人材採用コストの節減に大いに役立つのであれば、それだけでこのサービスは十分にビジネスとして成り立つ基盤がある。そんな理屈になる。

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では新卒学生の側で何らかのマイナスは生じるのだろうか?

もし内定辞退確率の計算に使用している情報が正確で計算アルゴリズムも適切であるなら、その学生は計算された確率に(ほぼほぼ)沿って行動選択をする可能性が高い。心の中で「最終的にはあの企業には行きたくないんだよネ」と感じつつ面接を受けているのであれば、企業の側から不合格を示されても最初から強く志願しているわけではないから大きな損失とは言えないだろう。問題は、金融機関を志願しつつもすべての金融機関で不合格となり、製造メーカーでのみ合格となる場合だ ― 小生が新卒であった頃はそんな例が数多いた。リクナビの内定辞退予測サービスがなければ、メーカーで無事採用されていたところを、リクナビが余計なサービスを開始したために(実力?はあるのに)不合格を出されてしまう。そんな気の毒な学生が発生するかもしれない。

しかし、更に一歩先を予測することも大事だろう。そもそも強くは希望せず、動機付けも弱く、たまたま滑り止めで採用されてしまうような企業に入社したとしても、いまの時代である、3年か5年程度で転職してしまうのではないか。最初の希望である金融機関に転職するチャンスを見つけるのではないか。そもそもメーカーは長期的に会社の経営を支えてくれる人材を正規社員として求めている。そんな会社にモチベーションが弱い学生が偶然に入社してくるとしても、会社側も学生側も互いに意欲を示しあって前向きの"Human Relation"を形成することは難しく、やはりそれは会社・学生双方にとって不幸なマッチングではないか。そうも感じてしまうのだ、な。

こう考えると、学生の側において極めて大きな損失を招くようなサービスではないのではないか。
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まあ、ベネフィット配分のバランスは確かに悪い。このままでは、企業側に便益が厚く、学生側にはプラスであるのかどうかも分からない。

キーポイントは、内定辞退確率の計算でどのような個人情報をインプットしたか、行動予測精度は十分に高いのか等々、予測モデルの良否について事後的な検証・評価を欠かさないことだ。計算アルゴリズムの精緻化も鍵である。そんな統計科学的な研究が蓄積されていけば、今度は受験予備校の合格確率と同じように新卒学生に対して<会社別内定確率>を計算して結果を学生側に提供してあげる、いわば逆向きのサービスも開始可能であろう。もしそんなサービスが構築できれば、全国の大学が競って有償契約するであろう。

企業側、学生側双方に有用な情報を提供することは、日本の労働市場を大いに効率化し、職業選択という人生でも最も大事な節目において間違った選択をしないですむ人を増やすことにもなるだろう。

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