2022年4月4日月曜日

断想: 中国による対ロシア経済支援は絶対許さないって、ホントに?

欧米がウクライナへの軍事支援を続ける限り、ウクライナはロシアとの戦闘能力を当分の間は維持できるはずで、そうなるとロシアの経済力を考えれば、財政は遠からず破綻する方向だ。

軍事費を捻出するには、他の財政支出を削減するよりほかはなく、それは例えば退職公務員の年金削減、教育費削減、公共事業費削減、もっと踏み込めばインフラ施設の維持補修費も削減するだろうが、戦争が長期化すればそれでも不十分だろう。そこで不換紙幣であるルーブルを増発するとロシア国内でハイパー・インフレが発生する。ロシア経済全体は破綻して大混乱となる。戦時経済の典型的失敗となる。

これは非常に大問題だ。特に歴史的に縁が深く、政治理念が似通っており、かつ長い国境を接している中国にはロシアの経済的混乱を防止する強い動機がある。ロシア財政が危機に陥れば、中国は必ずロシアを経済支援する。

マクロ的には総供給と総需要は必ず均衡しなければならない。総供給はGDPと輸入の合計、総需要は民需+公需+輸出である。つまり

$$ Y + M \,=\, C + I + G + E $$

である。

いま軍事費という政府消費支出(G)が急増している ― 消費計上時点に関するテクニカルな部分は無視しておく。輸出は経済制裁で急減しているから双方がキャンセルすればマクロ的にはバランスを維持できる可能性はある。しかし、石油需要の急減で生じた余剰生産力を弾薬やミサイルの増産に転用できるわけではない。石油輸出需要の減少はそのまま左辺のGDP(Y)の減少になる可能性が高い。そもそもエネルギーの対西側輸出が減少する分を対中輸出でカバーしようと考えている。右辺の外需(E)は(ロシアにとって幸いに)変わらないとしよう。となれば、軍事費が増える分、消費などの民需を削減しなければ供給とバランスしない。消費需要はほぼ確実に落ちるのだ。が、それにも限度がある。従って、もしロシアの労働資源に余裕がないと仮定すれば、戦争経済を回すためには輸入を増加させるしかない(主に"Made in China"の消費財だろう) ― 自家消費で何とかしのげるとしても限界があるだろう。ロシアの国際収支は必然的に悪化して、ほぼ確実に赤字になるはずだ ― 普通、戦争をすれば財政は破綻し、国際収支も大赤字になるものだ。その赤字は海外からの資金調達で賄う必要がある。海外からみればロシアへの債権増加、つまり対ロシア投資である。しかしロシアは強い経済制裁を受けている。故に、具体的には、中国がロシアへの(金融)投資を増やさなければロシア経済が維持できない。一言でいえば、ロシアは中国からツケ(=負債)で消費財を輸入して国民生活を維持するのである。これが唯一の方法である。

ロシア産天然ガスを中国が輸入するのは、相互にウィンウィンの関係にある実物取引である。第3国がそれをとやかく言う筋合いはないというのが小生の立場だ。しかし、戦争が長期化すると、いずれ最後には中国が金融面で支えるしか方法はない。

具体的には、ルーブル建て国債を中国が買うかどうかになる。人民元建てであってもいいが、もしデフォールトになれば、ルーブル建てなら紙切れ同然、人民元建てなら不良債権になるだけの違いしかない。一言で言えば、いま投資先としてのロシアは「お先真っ暗」であって、この見方に反対する人は、よほどのリスク愛好者であるに違いない。特に<無担保融資>など怖くて実行できるはずがない。

極めて雑駁に言うと『中国からカネを借りてロシアは戦争を続ける』という状況もありうるわけだが、戦闘に勝ってもその後の統治あるいは良質の外交関係構築が期待できない泥沼戦の戦費を中国が用立てる、「これは困る」と旧・西側諸国は心配するだろうか?

いま世間では、「対ロシア経済制裁」の抜け穴をいかにして潰すかに関心が集まりつつある。が、ちょっとこれは的外れの話しだ。憶測しているのだが、英米の利益を考えれば、中国がロシアへの経済支援をすること自体は、英米にとってそれほど困る問題ではない(かもしれない)。

むしろ

中国にはロシアを経済的に支援してほしい

胸の内ではそう考えている(かもしれない)。「かもしれない」どころか、多分そうだ、と小生は推測している。まるでジャンク債のような危険でヴァルネラブルなロシア投資を中国に強要できるとすれば、これが英米の利益にならないはずがない。

世間で警戒しているロシアへの経済支援だが、ロシアを支援する中国に対して、軽度の二次制裁は加えるだろうが、禁止的かつ強硬な経済制裁を中国に課するなど、そんな動機をアメリカ、イギリスがもっているとは、小生には思われないのだ、な。

「戦争」を抑止できなかった政治的失敗をリカバーする以上の利益が、ひょっとすると、得られるかもしれない。

ロシアを叩いて、中国を泥沼に追い込む

仮にうまく行けば、これこそ<ケガの功名>ではないか。ひょっとすると、ワシントンやロンドンはこんな皮算用をしているかも。ダメだと口先では言いつつ、相手は聞かないだろうと予想して、それでも「ダメだ、ペナルティだ」と警告を発して体力を少しずつ奪っていく。老獪な悪巧みだネエ・・・

しかし、逆に考えると、中国もこの位の憶測はしているはずだから、その手にはかからない。つかず離れずで、最後はアッサリとロシアを見捨てる振りをして、ずっと昔、ロシアに強奪同様に奪われた沿海州を巨額の人民元で「買い戻す」腹でも隠しているかも。台湾、尖閣を遥かに超える大物だ。

これこそホントの囮戦略だネエ・・・

ほんと、これから何があるか分からん・・・そんな思いがわいて来る今日この頃であります。

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