2022年4月11日月曜日

ドイツ・バッシングもこうなるとイジメに似てきたなあ

Paul Krugmanはノーベル経済学賞を授与された超一流の(影響力ある)経済学者であるし、The New York Timesに寄稿しているコラムニストでもある。そのクルーグマン先生、ロシアによるウクライナ侵攻に対して旧・西側諸国が採っている経済制裁にドイツが一貫して消極姿勢をとっていることによほど腹が立っているのか、かなり感情的な文章を寄せている:

... Germany took the lead in demanding that debtor nations impose extreme austerity measures, especially spending cuts, no matter how large the economic costs. And those costs were immense: Between 2009 and 2013 the Greek economy shrank by 21 percent while the unemployment rate rose to 27 percent.

But while Germany was willing to impose economic and social catastrophe on countries it claimed had been irresponsible in their borrowing, it has been unwilling to impose far smaller costs on itself despite the undeniable irresponsibility of its past energy policies.

I’m not sure how to quantify this, but my sense is that Germany received far more and clearer warning about its feckless reliance on Russian gas than Greece ever did about its pre-crisis borrowing. Yet it seems as if Germany’s famous eagerness to treat economic policy as a morality play applies only to other countries.

Source: NYT, April 7, 2022

URL: https://www.nytimes.com/2022/04/07/opinion/germany-russia-ukraine-energy.html

要するに、

かつてギリシアの放漫財政によってギリシア経済が苦境に陥ったとき、ギリシアを助けることをせず、無責任な財政を続けたギリシアが自分で解決するしか道はないと冷淡に突き放したそのドイツが、今度は自国がとってきた無責任なエネルギー政策が破綻したとき、ロシアへ経済制裁するのはドイツにとって余りに負担が大きいので勘弁してくれと。かつてギリシアが耐え忍んだ苦境に比べれば、マイナス数パーセント程度の不況など大したコストではないだろう。他国には求めることを自国は免れたいと言っている。

まあ、こういう痛烈な批判をドイツに対して行っているわけで、アメリカ人から見ると、ドイツは確かにこう見えているに違いない。

本ブログでも、ちょうどギリシア危機のとき、こんなことを書いている:

平たく言えば、ドイツの景気が好くて、ギリシアで失業者が溢れているのであれば、ギリシアからドイツにいくらでも働きに行けるようにすれば良いのである。ドイツの賃金は下がるだろう。しかしギリシアは楽になるのだ。ドイツが、それをどうしても堰き止めたいというなら、ドイツがギリシアの経済開発を支援するために、見返りを求める投資ではなく、社会資本充実、人材育成等々を目的に資金供与するべきなのである。そうすることがヨーロッパの利益につながり、ひいてはドイツの利益になるだろう。そもそも、そのためにこそEUとEUROを作ったのではないのか?

まさに国際社会にあっても

情けは人のためならず

ディケンズが描いた『クリスマス・キャロル』の守銭奴・スクルージはクリスマスイブの夜に救われたが、ドイツはとうとう最悪の形でヨーロッパ内で積み上げてきた国際政治資産を喪失してしまった。

先日も書いたが、

これではまるで

ロシアと仲良くしたお前たちドイツが悪い!少しは辛い目にあって反省しろ!!

東アジアの外野から観ていると、旧連合軍がこう言っているのと同じなように思えたりする。なにやら英米にドイツがシバカレテイル、こんな感覚がある。

EUを隠れ蓑にして旨い汁ばかりすすりやがって・・・

と言いたいのか、と。ホント、旧東ドイツ出身であったメルケルさんが引退すると、早速こうなってしまう。

こんな状況だと、戦後のウクライナ復興事業にドイツ企業はほとんど、というよりまったく参入できず、実入りのいい所はすべてアメリカ、イギリス企業が受注することだろう。その下請けで、旗幟を鮮明にしたポーランド、バルト3国辺りが利益に与れるか、ま、そんな塩梅になるのではないかと予想している。ドイツは「蚊帳の外」で、あることか、あるまいことか、復興資金を拠出せよと。今まで儲けた貯えがあるだろう、と。またまた、カネを獲られる憂き目にあっちゃうかもナア・・・。

それに止まらず、ロシア産の安価な天然ガスに支えられてきたドイツ経済は、今後10年程度は苦難の道を歩む。EUでドイツが発揮できる影響力も格段に落ちていく方向だ。現在、欧州委員会委員長のフォン・デア・ライエンはメルケル前・独首相の後押しで選出されたドイツ出身の政治家だ。このポストももうドイツに戻ることはないだろう。

いや、いや、国際政治の舞台と言うのは、怖いものだと思う今日この頃だ。


ドイツがじっと耐えて苦難の道、イバラの道を歩み続けようとするのか、どこかで切れて、上に引用した投稿でも書き足しているのだが、

この亀裂が深刻になっていけば、最終的にはドイツがEUには(留まれるなら)留まる一方で、ソ連・ロシア敵視で発足したNATOからは脱退。ロシアとは(ポーランド、及び親ロシアのベラルーシを語らって)

独波ロべ四国不可侵条約を締結する 

こんな方向へ進んでいくかもネエ・・・だって、NATOに入っている事で却って怖いことが分かったでしょう、と。そういうことである。

ドイツ、ポーランドがそうすると、ハンガリー、ルーマニア、ブルガリアもNATOから脱退してこの新体制に追随する。出来るのは《中欧共同平和機構》でそれに何とロシアも加盟する!これは吃驚だ!

マサカ、こんな状況にならないヨネ、と。

ポーランドは対露恐怖症の気味があるので、昔のように孤独なトルコを語らって、ドイツ・トルコ枢軸同盟、これに親露的なハンガリー、ハンガリーと一衣帯水のオーストリアが入れば、正に第一次大戦前のヨーロッパ勢力地図とうり二つになってくる。やはり、勢力分布というのは、長い時間が経過する後には、似たようなゲシュタルトが何回も現れるものなのだろうか?


一度転がりだしたら、転がり続けるのは球形の物体ばかりではない。国際関係にも唯一の安定的な均衡点などはない。長い歴史を振り返れば自明のことだ。複数の均衡点がある(はずだ)。そして、どの均衡点に落ち着くかは、個別のプレーヤーが自国の利益を求めて選ぶ個別の戦略と、それに対する他のプレーヤーの対応と応酬から、最終的結果として決まるものである。

その最終解をいまから予想出来ている政治家、専門家は、一人もいないはずである。


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