2022年4月2日土曜日

概観: BREXITからウクライナ動乱まで

現在のウクライナ動乱という舞台の周辺で、アメリカ、ヨーロッパ、中国、それに日本といった主役、脇役、端役すべてを含め、色々な権謀術数が繰り広げられているが、事態を理解するには歴史を勉強しておくことが必要だと、常々、某イギリス人が口にしていたことを思い出す。

俗に《国家100年の計》という。しかし、これによって何をどうせよと言うのか、正確に理解している日本人は意外に少ないのじゃないかと思うことがある。

「100年の計」とは、漠然と今後100年のことも考えながら、今から計画を立てなさいという淡白な主旨ではない。そうではなく、100年後の自国の情況を最善の状態にすることを目的に、そのためには今、どう行動するのが最適であるのか?これが解くべき課題であるということだ。100年後の状態を最善化するには、いま足元で最適の行動と思われる対応方針があっても、それは必ずしも真の最適ではない。短期的視野で《機会主義的な行動》を選んではいけない。そういう主旨が「国家百年の計」である。

ロジックとしては、動的計画法(Dynamic Programming)になるし、あるいは有限期間の繰り返しゲームだと観てもいいだろう。つまり、100年後の時点で最善状態に到達するには、95年後の時点でその最善状態に到達可能になっていなければならない、そして95年後の時点で最善状態を目指せる状態になっているには、90年後の時点でそれを目標にしなければならない、以後後ろ向きに逆算して、100年後の最善を目指すベースとなる5年後の状態を目指していく行動計画が、いま行うべきプランニングである。一定期間の行動を<全体最適>にするなら、最終の1年を<部分最適>にすることから始め、それを前提に最終2年間を全体最適にする。しかし、最終2年間の全体最適は100年の中では部分最適だから、後ろ向きに順に遡って現時点にまで伸ばして来れば、100年間の全体最適解が得られる。いわゆる「後ろ向きの帰納法」という最適化手法である。この勘所は、100年後に「こうしたい」という目標があれば、将来から逆算して、いまは何を行うべきかを決める点にある。正に、文字通りの《戦略論》であって、やはりアングロ=サクソンの発想であるナア、と思うのだ。

これに比べると、日本人は(中国人、韓国人も?)どちらかと言えば、自分が一つ石を置き、次に相手が石を置く、それをみて相手の意図を感じ取り、次の1石を自分が置く、そうすると相手も石を一つ置く。こんな風に、現在から未来に向かって、1手ずつ手を打ちながら前に進んでいくのが「戦い」であると。つまり、どことなく「囲碁」的であり、あるいは「将棋」的であって、日本ではこう考える人が多いのではないだろうか?そもそも、100手目で勝利するには、99手目の段階でどうなっていなければならないか、そのためには98手目は・・・などと後ろ向きに推理できるなら、将棋必勝戦略があるという理屈になる。日本人ならバカバカしいと思う人が多いはずだ。だから、言葉としては「国家百年の計」とは言うものの、実は100年を計画期間とする戦略的行動は本当は苦手なのだと思う、というよりそのように行動はしないのだ、と観ている。

戦いには相手がいるわけで、当然、相手の出方が決定的だ。「戦い」とはこのようなものだという哲学(?)があるとすれば、日本人には極めて自然で、それはそれで十分有効だと思うのだが、これが行き過ぎると、やはり相手のスキに乗じる《機会主義》というか、よくいえば《後の先をとる》とも言えるが、要するに《戦略なき状況主義》に流れてしまう。守り志向でひたすら好機を待つ。こんな戦い方になるのではないかと思ってしまうのだ。この辺で、日本人はどうしても「国家百年の計」というのが割と苦手であると、ずっと感じているのだ、な。

こう考えると、イギリスのBREXITは、その時にイギリスが置かれていた状況の下でイギリスが選んだ政策であるが、これもまた「イギリスの国家百年の計」であったかもしれない、と。そう観ることもできるのではないかと思い至った次第。

いや、あれはタマタマ、政府の失策なんだ。ハプニングなんだヨ。

そう語る英国人が多いかもしれないが、結局、EU脱退という選択をその後の英国は受け入れ、それをテコにして国家戦略を考えるようになっている。どうしてもそう観えるのだ、な。

というのは、数日前にこんな投稿をしている:

しかし、SWIFT排除措置の中でロシア産天然ガス輸入は(当面)「お目こぼし」してもらいつつ、「エネルギー政策の再構築」を早くやれとプレッシャを受けている肩身の狭いドイツに、今度はロシア産石油も買うな、と。

これではまるで

ロシアと仲良くしたお前たちドイツが悪い!少しは辛い目にあって反省しろ!!

東アジアの外野から観ていると、旧連合軍がこう言っているのと同じなように思えたりする。なにやら英米にドイツがシバカレテイル、こんな感覚がある。

EUを隠れ蓑にして旨い汁ばかりすすりやがって・・・

と言いたいのか、と。ホント、旧東ドイツ出身であったメルケルさんが引退すると、早速こうなってしまう。

これが現在の状況であれば、ちょうど一本の河の下流を目の前でみているようなものだ。時間を遡って、その河の上流のほうへ遡っていくと、こんなことをかなり以前に書いている:

ひょっとするとと思っていたが、まさか離脱が多数を占めるとは想定外だった。英国の国民投票である。

(中略)

 ロシアは喜ぶだろう。ロシアとドイツは今のところ(歴史的にも)悪くはない。ヨーロッパは弱体化する。その中でドイツは欧州筆頭国になる勢いを示すだろう。フランスは単独でドイツとやりあう必要がある。フランスは落胆しているだろう。落胆したフランスはロシアとの距離を縮めようとするだろう。ロシアは仏独を天秤にかけるに違いない。ロシアのプーチン大統領は中国を訪問する予定だが、過剰生産、過剰設備にあえぐ中国にはロシアの石油を爆買いする意欲はもうないだろう。そんな中国に頭を下げて頼みごとをする必要がなくなったとすれば、プーチン大統領は幸運ではないか。逆に、ロシアに貸しを作るチャンスを逸するだろう習近平国家主席は落胆を感じているだろう。日本にとっては少し有り難い話かもしれない。まさに『風が吹いて桶屋がもうかる』という話しである。欧州と距離をおく英国は、米国が対欧州、対ロシア戦略を考える際の価値が下がってしまったが、弱体化しロシアの影響力が強まる今後のヨーロッパ大陸に直面するとき、英国の存在はやはり大きいだろう。

やはり、今回のウクライナ動乱でもイギリスは存在感を発揮している。アメリカのバイデン大統領の陰に隠れているが、もしイギリスが未だにEUに留まっていたなら、イギリスの外交方針は独仏、特にドイツの外交に束縛され、アメリカのバイデン大統領が繰り出す経済制裁も抑制気味になっていたに違いない。

少なくとも、イギリスはEUの一員ではない自国の立場を戦略的優位を築くための要素として活用中である。

これを<先読み>して、イギリスはまずEUから抜ける選択をしていたのであれば、これはもう

だから戦争には滅多に負けない国になれたんだネエ

と、感心する次第。

これに比べると、ドイツの合理性はやや視野が狭いようだ。しょっちゅう負けるのは、そのためかもしれない。

 

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