朝に放送されるワイドショーでよく視るのは羽鳥慎一の『モーニングショー』だ。時に相当のバイアスが混在した解説振りが目立つが、情報提供という点ではマアマアだと感じる。
今日は珍しい(?)ことに経済問題がテーマで、「最近の急速な円安をどうみればよい?」であったので、最後まで視てしまった。
招待されたゲストが元・大蔵省財務官の榊原氏であったが、明らかに「頼まれて」出た雰囲気だ。来年交代予定の日銀総裁に雨宮副総裁の名を挙げていたが、TVのワイドショーでここまでハッキリ言って問題は生じないのかという気もした。
コメンテーターの加谷珪一氏が円安を観る視覚は本筋をつくものだった。やはり(と言っては失礼だが)エコノミストである。
円安は輸出産業にとってはメリットがある。しかし、国内のサービス業、消費関連産業、家計にとっては価格高騰につながるのでマイナスとなる。これまでは円安は景気刺激、円高は景気にマイナスという見方が常識であったが、今後は競争力の低下した輸出産業に頼るのではなく、日本国内の消費需要を刺激することで経済を維持する方向が正解だと思う。ただ、成熟経済になった割には国内で消費需要がいま一つ出て来ない。なぜ国内消費が高まらないのか。この問題はこれから国民全体で議論しないといけない・・・
とまあ、こんな見解を語っていた。要するに
輸出に頼るのではなく、国内消費を伸ばす経済政策が必要だ
という政策方針だ。
正に正解である。ただ、そのためにはどうするべきかが、本論になる理屈だが、それを具体的に言ってしまうと、日本国民の神経を逆なでするので、そこを忖度して、マスメディアは専門家にホンネを語らせないでいる。小生はそう観ているのだ、な。
ワイドショーを視ながら、まさか『消費を伸ばすには、ヤッパリ賃金を上げることが必要ですヨネ』と、そんな愚かな大衆迎合論でまとめるのではないかと懸念していたが、流石にそれはなかった。もしこれを言えば、韓国の文在寅政権が断行した賃金引上げ政策と「どちこちない」という愚論になっていた。そもそも賃金は、労働需要が高まらなければ上がる道理がない。そして労働需要が高まるというのは、ビジネスが旺盛であるということだ。ビジネスが低調である経済状況を放置して賃金だけを上げれば、雇用者が減少して失業率が上がるだけである。実際、韓国はそうなった。マ、こんな自虐的な政策案を主張するアホな御仁がいなかったのは、流石に羽鳥慎一のモーニングショー。救いであった。
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当然の理屈だが、輸出に頼ることなく、国内消費を重点領域として需要喚起を実現していくとなると、日本の経常収支は悪化する。経常収支は国内の貯蓄投資差額と見合いの関係にあるからだ。消費を増やせば貯蓄は必ず減る。多分、アメリカのように経常収支赤字が体質的に恒常化する可能性がある。
経常収支赤字は資本収支黒字で調達することと表裏一体である。問題は、資本収支を黒字にできるか?経常収支赤字を海外資金流入で賄えるか?これが問題の核心だ。
資本収支の黒字と言っても、特に長期資本収支の黒字定着が重要で、具体的には日本国内への海外企業の直接投資、それと金融投資(=国債、株式、社債の海外販売)が主となる。日本という国家のブランディング戦略に成功すれば、日本で円をプリントして、日本円を決済通貨にして海外の製品を購入することが出来る可能性すらある。米ドルはそんな機能を果たせている。今でも日本円が外貨資産として保有される割合は中国の人民元よりも高いのだ ― なぜ人民元が外貨資産として不向きであるのかという点は調べれば直ちに分かる。
それはともかく、資本収支を黒字化するためには、海外から眺めた日本のビジネス環境を魅力あるものに変える、日本全体をビジネスに優しい経済環境に変えることが不可欠で、それは必然的に国内企業にとっては強力な競合企業が上陸することを意味する。日本の歴史ある老舗企業が海外に買収されることもウェルカムだと考えなければならないわけである。
以前にも投稿したが、医療介護産業、その他個人向けサービス産業に海外企業が進出して日本で自由に営業することを認める。特に保護的規制の強い農業、教育、医療、福祉などで規制を緩和して新しいビジネス機会を提供して、海外企業にもオープンにすれば、当然ながら日本に投資する海外企業が現れるだろう。日本国内のビジネスを旺盛にすることが勘所ということだ。そうすれば労働市場に超過需要が生まれ賃金は必ず上がる。外国勢の参入を嫌がるなど、もし米国メジャーリーグがこんな旧式な思想を続けていれば、今頃メジャーリーグの球団経営がどうなっていたか、想像すればすぐに分かるだろう。
要するに、こういうことを進めなければ、対日投資に慎重な海外企業の姿勢は継続する。資本収支が黒字化しなければ、経常収支を赤字には出来ない。経常収支を赤字に出来ないのであれば黒字に執着するしかない。それは輸出産業に頼ってマクロ経済を運営する事なのである。円安を(ホンネでは)歓迎する姿勢はここに根っこがある。つまり昭和30年代に成功した日本型(というよりアジア型)高度成長モデルを根本的に構造改革しなければ
国内消費の高まりを実現して日本経済をより成熟化させる
この提案は実行不可能である。
一言でいえば
輸出で稼ぐ経常収支黒字国ではなく、資本収支黒字国を目指すため、日本社会を国際化、成熟化させるべき段階に来ている
ということだ。日本国内で安くて良いモノを輸出してドルを稼ぐ<加工貿易モデル>ではなく、日本には資金を提供したい、日本に進出したい、投資したい、日本人を雇用してビジネスを展開したい、そんな国造り・人づくりを進めるべきだ。そういう段階に来てしまった。こんな風に観ているところだ。
その進むべき方向へなかなか歩き始められないまま、もう20年以上が過ぎてしまった。バブルの後始末に目途がついた2000年代に、産業再生から発想を転換するべきであった。ところが、ちょうどその頃、2008年のリーマン危機の荒波が世界を襲った。そのあと2011年には東日本大震災と福一原発事故が発生した。自民党から民主党へ政権が移った。未曽有の円高が進み、日本の製造業は破滅の瀬戸際に立った。
不運と言えば不運だが、
黒田日銀による量的緩和と円安戦略で何とか乗り切った
結局、《岩盤規制》が固すぎたということなのだが、平和ボケ、ゆでガエルと批判されても仕方がない面もある。
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つまり《総需要拡大》で乗り切るというより、《産業高度化》が経済政策としては求められているわけだ。
しかし、この路線は高度成長期以来、日本の経済的発展に貢献した多数の老舗企業(≒財閥系名門企業)にも経営戦略の転換を迫るものだ。主流は非主流に、非主流が主流になるだろう。経済的権力の移動が日本国内で進む。そんな予想が現実となる。だから、難しいのだ。
自民党と財界主流(マスメディア大手も含まれる)との結びつき方、日本人がもっているメンタルな傾向。この二つを考え合わせると、日本の経済政策が正しい方向に沿って実施されるとは、小生には思えない。
経済専門家がいくら正論を述べても、現在の日本政府も日本人も、それを実行する覚悟はないとみる。この点については、何回も投稿している ― ごく最近ではこの投稿か。
国民に忖度して語るべきことを語らないマスメディアは、メディアの役割を放棄している理屈なのだが、いくら無責任だと指弾するとしても、メディアが委縮しているのだから、打つ手はもはやない。こういう状況だと観ている。米紙、英紙とは、メディアと世間の関係性、経営意識がまったく違っているような印象がある。
コロナ対策であれだけ政府を批判できたのだから、「あるべき政策」についてメディア大手はもっと政府に厳しくてもよいはずだ ― マア、メディア大手が規制の恩恵を享ける当事者でもあるから、これまた仕方がないわけだが。
ヤッパリ、堀江さんの横紙破りで、ライブドアによる「ニッポン放送」買収を政府も容認しておくべきだったネエ・・・
そう痛感しているのだ、な。もしあのとき容認しておけば、日本社会の風通しも随分よくなっていたに違いない。
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