2022年5月2日月曜日

ホンノ一言: 知床遊覧船事故の背景にも同一省内の利益相反がある

標題の遊覧船事故は、TV、新聞などの格好の話題になっていて、事故を招いた多数の原因が指摘されている。

多分、指摘されるどの点も「原因」としては程度の違いこそあれ、事故に関係しているのだと思う。

船舶運航者の知識不足、経験不足、安全意識の劣悪さ、設備面の不足等々、やはり何かのトラブルがあれば品質管理(QC)で強調する《四つのM》、つまりMan(ヒト)、Machine(設備)、Material(資材)、Method(方法)の四つの面から事故原因を洗い出すことが主たる作業になる。

知床は同じ道内で、小生もずっと何年も前になるが、家族一緒にホエール・ウォッチングで遊覧船に乗船したことがある。だから今回の事故も他人ごととは感じられない。というか、小生の田舎は四国・愛媛であるので、大都市と実家とを往復する場合は小型の高速艇、水中翼船、中型のフェリー、でなければ前夜に出る3千トンか2千トンだったか、マアマア大きい関西汽船のどれかを利用しなければならなかった — 「瀬戸大橋」も「しまなみ海道」もまだなかったのだ、な。母が松山市の病院に入院して、小生が大阪にいた頃は、夜船で毎週往復していたものである。だから、荒天時の揺れや飛沫は懐かしいと同時にその頃の船酔い気分も蘇ってくる気分だ。と同時に、闇夜の中の荒れた黒い海に感じる一抹の怖さも思い出されてくる。

さて

今回の事故は海運業一般と言うより《観光事業》において発生した船舶事故である。聞けば事故を起こした会社の社長は、地元では著名な一族の御曹司で、知床地域で手広くホテルやレストラン、遊興施設を経営しているそうだ。この種の下世話な話はこれから多分「週刊誌ネタ」になっていくのだろう。TVはおそらく「忖度」しているのだろうが、この種の背景には一切触れていない。

当該会社は昨年も5月、6月に2度事故を起こしており、さらに軽微な事故が1回あるそうで、通常の安全管理業務であれば、1年に3回も事故を起こせば当然「業務改善命令」が出ているはずだという見方がある(この点はTVでも指摘されている)。そうすれば、会社名も公表され、利用者にもその会社の安全管理状態が伝えられていたはずだという意見がある。

出されるべき命令が出されず、安全管理がいま一つ徹底されなかった背景として、(もしかすると)社長の親族が経営する観光ビジネスへの配慮があったかもしれない。

昨年2021年夏までは、まだ菅内閣であり、コロナ禍で痛手を受けた経済を下支えするため、特に苦境にあった観光業を支援することが政策上の重要目標であった。菅内閣肝入りの《GOTOトラベル》、《県民割(道民割)》はメディアでは評判が悪かったが、経済対策としては極めて有効であり、知床地域も当然ながら北海道内の重点観光拠点であったはずだ。今回事故を起こした会社を含む企業グループは、コロナ禍の中の観光業支援を推進するうえで、支援を受けたいと願う立場にあり、政策実施に協力する立場にもあったはずだ。昨年春から夏にかけて同社が起こした遊覧船事故が寛大に扱われた背景として、コロナ禍の中の観光業支援政策があったのではないかと小生は憶測している。

観光政策を所管するのは国土交通省の観光庁である。一方、船舶運航の安全を所管するのは国土交通省海事局、及び海事警察とも言える海上保安庁である。海上保安庁も国土交通省の外局である。

一方では海の観光を支援、バックアップする政策を推進し、他方では海の安全管理を担当する。

昨年春から今年春にかけて国土交通省はどちらの業務を重視していたのだろうか?

同じ図式は、かつて日本の原発ビジネスにもあった。

東日本大震災で福一原発事故が発生するまで、原発の安全管理を担当するのは経済産業省の原子力安全・保安院であった。その「保安院」は、産業、生活に十分なエネルギーを供給する責任を負っていた経済産業省資源エネルギー庁の一部局であった。

エネ庁としては十分な電力エネルギーを供給する責任を負い、と同時に原発施設の安全を管理する責任も担っていた。どちらの責任がより重要であると経済産業省全体としては認識していたのか?

正に《利益相反》の関係にあったわけで、これと相似た関係が今回は国土交通省内であったと(理屈上は)考えられる。 

不適切な組織編成によって潜在していた行政上の弱点が、昨年のコロナ禍と観光業支援の中で顕在化していて、運航者側で安全意識よりは収益拡大への意識が強まり、年を越した今年の春、偶々の悪天候の下、昨年来の油断が重なって、案の定(?)大規模な海難事故が現実のものになった。

今回の事故については、そう観ているところだ。

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