2022年5月22日日曜日

ホンノ一言: バイデン政権の評価・・・どちらに転ぶのか?

前回投稿では今の経済状況についてこんな見方を書いている。NY株式市場が演じた暴落の後である:

つまり、事の本質はインフレが心配なのではなく、

一次産品価格を中心とするインフレ高進によって企業利益が圧迫されるというのはその通りだが、売り上げや利益金額が減るかどうかは金融政策次第だ。FRBがインフレ抑制に過剰に重点を置き、そのために企業利益が過剰に減る。政策ミスによる"Overkill"が起きる可能性がある。それが心配だ。

心配の種はこれかもしれない。つまり、アメリカの金融政策当局であるFRBの手腕に全幅の信頼が置かれていない。だから株価が急落した。ひょっとすると、こういうことであろうと(小生は)観ているところだ。 

 今日のWall Street Journalにはこんな記事が載っている:

Stocks, bonds and other assets are getting hammered this year as investors wrestle anew with the possibility that the U.S. is headed toward recession. On Friday, the Dow Jones Industrial Average recorded its eighth straight week of declines, its longest such streak since 1932. The S&P 500 flirted with bear-market territory.

URL: https://www.wsj.com/articles/the-market-is-melting-down-and-people-are-feeling-it-my-stomach-is-churning-all-day-11653105601?mod=hp_lead_pos9

Source:WSJ, May 21, 2022 12:00 am ET, By Justin BaerFollow

暴落率はともかく、低落基調の継続という面では、有名な1929年10月24日の「暗黒の木曜日」を契機とした<世界大恐慌>以来の株価急落をいま演じているというのだから、これはもう穏やかな話しではすまない。

そして、Friedman=Schwartzの"A Monetary History of the United States"が指摘したような

FRBの政策ミスが実は《世界大恐慌》の真因であった

という認識が、経済専門家の間ではほぼ合意されていることを思うと、今またFRBが壮大な政策ミスを演じつつある可能性は決して否定できない、と。こう思われるのだ、な。


ただミスを犯すには、間違うだけの理由、というか「こうするのは間違いではないという大義名分」が要る。それは

インフレを抑止する

という政策目標は、いかなる時も常に正当であるというプリンシプル(=原則?信念?)である。

しかし前稿で書いたように、輸入物価の高騰にどう対応するかという局面で必要なことは、賃金(=労働所得)、利益(=資本所得)が交易条件の悪化に見合う分だけ実質的に低下することを甘受する姿勢であって、企業、勤労者が実質所得を確保しようとして、輸入物価上昇分をそのまま価格転嫁したり、実質所得を維持するために賃金引き上げを要求するというその行動によって、結果としてはホームメイド・インフレが発生し、その後はインフレ・スパイラルに入っていくのである。1970年代の第一次石油危機、第二次石油危機でアメリカは正にこの失敗をした記憶はまだ消えていないはずだ。

The TelegraphのコラムニストAmbrose Evans-Pritchardはこう書いている:

The monetarists were right too just before the global financial crisis, and that episode has resonance today. 

This newspaper published a piece in July 2008 with the headline “Monetarists warn of crunch across Atlantic economies”. It began with the following two paragraphs. I was the author, so I remember it.

“The money supply data from the US, Britain, and now Europe, has begun to flash warning signals of a potential crunch. Monetarists are increasingly worried that the entire economic system of the North Atlantic could tip into debt deflation over the next two years if the authorities misjudge the risk.

“The key measures of US cash, checking accounts, and time deposits have been contracting in real terms for several months. A dramatic slowdown in Britain's broader M4 aggregates is setting off alarm bells here.”

 URL:https://www.telegraph.co.uk/business/2022/05/19/monetarists-right-inflation-now-have-different-warning/

Source:The Telegraph,19 May 2022 • 2:58pm

インフレ抑制は正しい目標であるから金融逼迫はやむを得ない、と。FRB(とECB)はこう考えているようなのだが、アメリカ国内で賃上げや価格転嫁が拡大している現状を見る限り、ホームメイド・インフレには既に火がついている。この火を強引に消火しようと焦れば、21世紀の大恐慌を意図せずして引き起こしてしまう可能性はゼロではないわけだ。

一口で言うと、もう遅い、ということかもしれない。

日経が日本語訳しているFinancial Times記事も(発想は違うが)指摘は同じ主旨。

パウエル氏が正しいとすれば、少なくとも供給制約がこれ以上は悪化することなく、そのマイナスの影響を受けた企業と労働者が実質利益と実質所得の目減りを甘受することが条件となる。だがなぜそんなことを期待できるのか。

ファーマン氏は「消費者物価指数が今年3月までの1年間で8.5%上昇し、名目賃金の上昇率を大幅に上回った結果、この1年の実質賃金は過去40年間で最も急速に低下した」と指摘する。つまり、今や労働者が賃上げを求め、企業はその賃上げコストを吸収すべく価格に転嫁するという悪循環に陥る条件がそろっているということだ。

必要なのは供給制約と労働市場の逼迫を逆転させ、物価を沈静化させることで、インフレで失われる分の所得を取り戻す必要性を排除することだ。

URL:https://www.nikkei.com/article/DGXZQOCB181MW0Y2A510C2000000/?unlock=1

Source: 日本経済新聞、2022年5月20日 0:00

Original:2022年5月11日付 英フィナンシャル・タイムズ紙

Author:Martin Wolf


FRBによる金利引き上げはバイデン政権が行っているわけではない。しかし、ガソリン価格が高くなると選挙に不利になるのは確かな事実である。バイデン大統領は『今のインフレをとにかく抑えてほしい』と、公式に発言はせずとも、そう希望しているだろう。FRBが大統領の願いを忖度していることは絶対にないのだろうか?


ロシアのウクライナ侵攻をアメリカは対ウクライナ外交を進める中で意図せずして(悪意に見れば、意図して?)誘発した。そんな批判が今もある。そればかりではなく、起きてしまった軍事侵攻に対応するため、軍事的手段ではなく、経済的手段で制裁するという選択をし、その結果として当然に起きることを抑え込もうとして、今度は意図せずして大恐慌並みの不況を招くとすれば、今のバイデン政権は第二次大戦後において《最も愚かな民主党政権》であった、と。クルーグマンの保守派政権批判と同じようなリベラル派政権批判が台頭してくるのは確実であろう。

1992年の大統領選挙で共和党のブッシュ大統領が民主党のクリントン候補に敗れたのは、選挙当時の経済的苦境が大統領の足を引っ張ったからだが、それは何もブッシュ大統領の責任ではなく、ある意味で世界経済の"Boom and Bust"に巻き込まれた点で運命的な敗北だった。同じように、この秋の中間選挙で民主党が負けるとすれば、それも運命的なものだろう。いま何をしても、やって来るのはインフレ加速か、不況かが変わるだけで、同じことなのである。

同じ結果が待っているなら、国民経済がより痛まない方を選ぶべきだろう。


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