米国・FRBが金融引き締めに転じたのは今年の春3月からだった。日本のコールレートに相当するFederal Funds Rateの推移をみると、特に5月以降は果敢な利上げに舵を切ったことが見てとれる。
I’d argue that these indicators tell us that the Fed has already done enough to ensure a big decline in inflation — but also, all too possibly, a recession.Am I completely sure about this? No, of course not. But policy always involves a trade-off between risks. And the risk that the Fed is doing too little seems to be rapidly receding, while the risk that it’s doing too much is rising.
URL: https://www.nytimes.com/2022/10/06/opinion/fed-inflation-interest-rates.html
Source:The New York Times, Oct. 6, 2022
要するに、FRBは<やり足りない>というリスクから、<やり過ぎ>というリスクに目を向けるべきだと言っている ― 小生もまったく同感だ。高金利による抑圧効果は、今後1年程度の時間をかけて、次第に表面化するものと見られる。そうすればインフレ率は自動的に低下するのはほぼ確実だ。
スティグリッツも(自然な事だが)同じ主旨のことを書いている。
The US Federal Reserve Board will meet again on 20-21 September, and while most analysts expect another big interest-rate rise, there is a strong argument for the Fed to take a break from its aggressive monetary-policy tightening. While its rate increases so far have slowed the economy – most obviously the housing sector – their impact on inflation is far less certain.
Monetary policy typically affects economic performance with long and variable lags, especially in times of upheaval. Given the depth of geopolitical, financial and economic uncertainty – not least about the future course of inflation – the Fed would be wise to pause its rate rises until a more reliable assessment of the situation is possible.
URL:https://www.theguardian.com/business/2022/sep/12/the-fed-interest-rate-rises-us-inflation-unemployment-recession
Source:The Guardian, Mon 12 Sep 2022 11.55 BST
Author:Joseph Stiglitz and Dean Baker
FRBの(攻撃的)高金利政策は既に住宅投資需要を抑え始めているが、インフレに対する効果はそれほどハッキリしたものではない、と。足元の地政学的、金融、経済両面の不確実性は、今後のインフレ率の足取りがどうなるかということより、もっと深刻であるという点を考慮するなら、もっと確かな状況判断が出来るまでは(ここで一度)金利引き上げを休むのは賢明であると言うべきだろう、と。この意見にも小生は賛成だ。何をおいても、西側陣営は(日本を含めて)実質的には《準・戦争状態》にあるわけで、そんなとき、物価が上がるのが心配だから、金利を上げて(とにかく)総需要を下げるのだという発想でいいのか。議論の余地はあると思う。本当に「戦争」をするなら「戦争経済計画」によるわけでマクロの総需要管理政策でOKという平時の考え方では不十分だ。
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実は、今回のFRBの《攻撃的金利引き上げ》開始の前後、先々代の議長であるバーナンキ氏が金融政策の展開を批判していたことがある。
- Former Fed Chair Ben Bernanke said the central bank erred in waiting to address inflation.
- “One of the reasons was that they wanted not to shock the market,” he told CNBC’s Andrew Ross Sorkin.
URL: https://www.cnbc.com/2022/05/16/bernanke-says-the-feds-slow-response-to-inflation-was-a-mistake.html
Source:CNBC、MAY 16 2022
昨年秋から今年春先までのインフレはコロナ・パンデミックから回復するまでの「一時的(transitionary)」な現象である、と。そう観ていたことはほぼ確実で、この点は上に引用していたクルーグマンも同じ判断をしていた。
案に相違して労働市場の引き締まりから一部価格の上昇が賃金上昇を誘発しつつある。それが次第に分かって来たのが初夏にかけての頃だったのだろう。市場を驚かせないように緩やかに金利を上げるつもりだったのが、これはイカン、とばかりに駆け足調になってしまった。
そういう意味では
読み違いをしてしまいました
そう謝ってしまえば話が速いのだが、金融当局が一度謝れば、同じ失敗は二度も、三度も犯すだろうと。議長は退任しろと。そうなるのは必至で、もしそうなればそうなればで、大混乱になって社会的には大損失を招く。
この辺にアメリカ社会の最近流行りの《レジリエンス(resilience)》、一言で言えば「打たれ強さ」というか、「立ち直りの速さ」というかが垣間見えるような気がする。いまの日本社会にはそんな太々しい強さが欠けつつあるという点が、昔と今とで、一番変わったところではないかと感じる・・・というより、日本銀行がFRBのような激しい攻撃的金利引き上げを始めたいと考えても、(シルバー世代が世論を左右する日本では理屈に合わないことだが)世間がそれを許さないのではないか、と。そんな予感もするのだ、な。
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