資源価格高騰などで名目の輸入金額が増える時、上昇した輸入価格を国内の販売価格に全く転嫁できないときは、輸入金額が増えた分だけ国内需要が奪われ名目GDPは減少する。それでも実質の経済活動水準に変化がないとすれば実質GDPは同じである理屈だ。故に、輸入インフレに対して国内販売価格が何も変わらなければ名目GDP(分子)を実質GDP(分母)で割った《GDPデフレーター》は下がることになる。GDPは、ザックリと言えば、労働と資本に分配される要素所得、つまり国民所得と等価の関係にある。実質GDPが同じなら生産活動に投下されている生産要素の量も同じだ。他方、生産要素が得る所得は減る。生産要素とは労働と資本である。
従って、国内にある労働と資本の報酬率が下がっていることをGDPデフレーターの低下は伝えている。労働の報酬である賃金か、でなければ企業資本の収益率かが低下している事実を伝えているわけだ(逆は逆)。これも国内物価の変動を測る指標の中の一つなのである。
そのGDPデフレーター上昇率の推移だが、アメリカは下図のようになっている。
最終期は昨年第4四半期である。これを見ると、2020年第2四半期を底にして最近時点までアメリカ国内の生産要素の報酬率が急上昇してきたことが明らかだ。つまりアメリカ国内の賃金が上昇しているわけで、これは輸入インフレではなく、アメリカ国内の《ホームメイド・インフレ》である。その背景に消費者物価の上昇があるのは勿論で、その最初の原因が輸入物価の上昇であったことも分かっているが、それを補うための賃金が上昇しつつあるわけだ。
このような経済状況をいま日本政府は実現したいと一生懸命なのだ。では、日本のGDPデフレ―ターはどうなっているかと言えば、
直近は昨年第4四半期である。アメリカとは異なり、コロナ禍の中で賃金も企業利益もほとんど上昇していない。つまり日本国内で《ホームメイド・インフレ》が発生している兆しはない。それでも昨年末にかけて日本のGDPデフレーターは対前年で上昇しているようだ。但し、これがトレンドの変化を示唆する動きであるとは確言できない。
【備考】2015年(と2019年)前後に上昇率のスパイクが認められるのは消費税率引き上げによるものだ。大雑把な説明は以下のとおり: GDPは市場価格表示で集計されるので、厳密に言えば要素費用表示の国民所得(=労働所得+資本所得)とは合致しない。間接税(及び控除項目としての経常補助金)と固定資本減耗がGDPに加わる分だけの違いがある。そのため消費税率引き上げによる国内物価上昇は「ホームメイド・インフレ」として把握されることになる。
これをみても、確かに、日米のマクロ経済の体質には大きな差異がある。『賃金は上げないものだ』、『賃金は上がらないものだ』、『賃金ベア・アップを要求するのは控えよう』、マア、そんなデフレ体質が染みついてしまっている。それを払しょくしたいのが現在の政策課題なのだが、これは政府が実行するというより、日本人全体の意識が背景にある以上、政府の努力だけではどうにもならない面がある ― 韓国の文政権が断行したように、最低賃金を法的に上げれば必ず賃金は上がる。乱暴なようだが、その後、判明しているように確かにこの方法には効果がある。しかし、経済界が動揺するなどの副作用も大きく政権交代への導火線になる可能性がある。実行は難しいだろう。
それにしても失われた20年間の間ずっと続いた日本の「ホームメイド・デフレ」は酷いネエ・・・改めてグラフにすると、その惨憺ぶりに慄然とする。
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