今日届いたIMFのメールマガジンではアベノミクスの政策効果をプラスに評価している。特に、
Japan has one of the oldest populations globally, with its working-age population shrinking since the late 1990s. Despite that, Japan achieved impressive per capita gross domestic product growth, trailing only the United States, from 2012 to 2019 during “Abenomics”—the combination of monetary stimulus, fiscal flexibility, and structural reform advocated by Prime Minister Shinzō Abe.
労働力人口が減少する中で、マクロの経済成長はともかく、一人当たりGDPの成長率が下図のようにアメリカに次いで第2位という結果を残しているのは、高く評価されるというニュアンスだ。
A major contributor to per capita growth was the rising number of women entering the labor force. The female labor-force participation rate in Japan rose to 74 percent in 2022 from 63 percent in 2012.
つまり女性労働力である。
非市場家庭内サービスを担当していた専業主婦が、労働市場に参入し、サラリーをもらって働くようになれば、それまではゼロであった付加価値がプラスになるので、人口で割った一人当たりGDPが成長するのは当然の理屈であって、IMFの分析担当者が言う通りだ。
しかし、<国内総生産=GDP>という概念を考えるとき、主婦(と限ったわけではない)が担っている非市場性の<家庭内労働>も本来は帰属評価をして「国内総生産(=GDP)」に加算するべきなのである。
類似した例として、持家に居住している人は家賃を住宅市場で支払っているわけではない。が、現行のGDP推計においては、持ち家という住宅資産もまた住宅賃貸サービスを生産しており、持家居住者はその営業余剰を所得として受け取り、それをそのまま消費支出として支払っているという「帰属処理」をしている。
持家サービスについて帰属処理をするなら、もっと重要な主婦労働も(本来は)帰属処理をするべきだ、というのが当然の理屈になる。
実際、内閣府・経済社会総合研究所では、主婦労働を帰属評価した<広義のGDP>を試算したことがある ― 一回限りの試算で、定期的に推計するまでには至らなかったようだが(資料はこれ)。
つまり言いたいことは、専業主婦が労働市場に参入し市場性サービスを提供することにより確かに現行概念のGDPは増加した。しかし、労働市場で働く分、非市場性の家庭内労働時間は減っている。もし、平均的に期待される賃金で家庭内労働を評価するとすれば、労働市場で働くプラスと家庭内労働が減るというマイナスが相殺されて、広義のGDPは増えていない。そんな理屈になる。
加えて、家庭を離れ労働市場に移り、家庭からはその時間だけ不在となることによって、それまでは常に家庭にいてくれた母親が不在になるという淋しさを子供が感じるかもしれない。子供に絵本を読んであげる時間も、キッチンで料理を一緒に楽しみあう時間も、子供が読んだ本について母と感想を語り合う時間も削られるであろう。これを満足度の低下と考えれば、社会全体の幸福度はむしろ低下しているのではないかという疑念が生じる。
Non-market ActivityとMarket Activityとの間のこうした選択変容は、全世代を含めた満足度の変化に加えて、家庭内の人的資本育成を通じてマクロの潜在成長力にさえ影響が及んでいるかもしれない。
小生は旧い世代に属するので、IMFのように女性労働力が労働市場に参入したおかげで、日本の一人当たりGDPはアメリカに次いで高い成長率を示したと、そんな数字をもろ手を上げて喜ぶという気持ちにはとうていなれない。
日本社会の現実はとても楽観的解釈が出来るものとは違う。アベノミクス8年間の深層には多くの問題が隠れていた。その時は、労働市場の好転や旺盛な株式市場に幻惑されたが、今ではこんな風に思っているのだ、な。
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