2011年5月19日木曜日

「政治主導」は職業貴賤論と同類である

昨日公表されたGDP速報をどう見るかを書く予定だったが、櫻井よしこ女史の寄稿を読んで、思わず同感し、現政権の本質論を語りたくなった。緊急時迅速放射能影響予測ネットワークシステム(SPEEDI)の情報隠蔽といい、法的根拠もなく東電への貸し手責任を唐突に問うなど、世に憤りのタネはつきまじ。現時点の心情を本題より前に覚書きしておきたくなった。

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江戸期封建時代は士農工商の身分差別こそが社会の根幹だったと言われる。しかし、よくこの四文字を見ると、たとえばインドのカースト制度とは異なり、身分というよりは職業差別であることが分かる。実際、養子制度もあったりしたから、士農工商というのは、純粋の血統差別ではなく、生きていく職業によって、貴賤の別をたてる社会システムだったわけだ。

民主党の愛用する「政治主導」も、実は議員職は事務職に優越するという職業の貴賤をこそ言いたいのであろう、と今更ながら納得したのである。企業の中で株主が偉いか、専務取締役が偉いかなどを問うてみても、その社の経営を良くするうえで、そんな議論は有害無益である。本来、共通の利益を追求するべきなのだ。そうしてこそ企業は発展する。当たり前の理屈である。

MSN産経に掲載されている「櫻井よしこ 管首相に申す」(2011.5.12 03:34 4ページ)は以下のように締めくくられている。

政治主導の名の下に、結論だけがいきなり降ってくるのが菅政権だ。国益や国家戦略を欠いた首相の思考と、民主主義のプロセスをとび越えた首相の手法こそ、日本国が背負い込んだ最大の負の要素である。

政治主導というキーワードは、2009年の政権交代以来の民主党政権を象徴するものである。当初は、官僚主導と対立する言葉として受け取られ、官僚の独善性を否定するものとして、肯定的に受け取められた。それはあたかも明治期の薩長藩閥に対抗する自由民権運動を彷彿させるものとすら言えた。

しかし、東電の損害賠償負担枠組みの決定、被災地支援の実施体制など、実質は官僚支配そのものでありながら、国民の目に触れる場面でのみ政務三役なる政治家が出てくる。政治家が官庁を指導監督しているという形だけが「政治主導」になっている。

この有様では、政治主導とは言っても、その意味は「選挙で選ばれた政治家は試験を通っただけの役人よりも偉いのだ」という単なる職業貴賤論でしかなく、要するに中央官庁の上層部に一度はなりたいという利己的願望だけが先にあったのではないかと憶測されても仕方がない。

これは民主党所属の国会議員であれば、当然、熟知していることと信じるのだが、納税者の側から見れば、国会議員も役人も税金から給与の支払いを受けている点では同じ公務員である。更にいえば、仕事を犠牲にして国会議員という仕事を選び、職務専念義務の下で政治にのみ従事する、そんな経済的余裕のない普通の国民の目線から見れば、確かに失業はしないかもしれないが、普通に勉強をして普通に試験を受けて採用されている普通の公務員の方が、より平民に近い生活をしていると感じる。

大体、パーティー券販売やら個人献金などは、特定のサービスに対する対価ではありえず、そんな無色透明なカネを集金できるなど政治家にだけ可能な贅沢であろう。普通のサラリーマンであれば、そんな集金活動をすれば首である。第一、そんな暇もない。

表現は悪いが、民主党議員が官僚集団に対して「政治主導」を口にするとき、小生は「目くそ、鼻くそを嗤う」の喩えを連想する。納税者が望んでいるのは、質の高い行政と政治であって、国会議員と官僚集団が政府内別居を続けながら、ダラダラ、グダグダと、どちらが偉いかなどと茶番劇を演じ続けることではない。

総理大臣は、憲法で規定されている公的機関に過ぎず、官僚もそのポストに明確に定義された職務を担当するだけの人である。全ての公務員は法にその権限の根拠がある。いま何よりも求められているのは、最終判断を行うべき人は責任を負ってその判断を行い、実務を担当する責務をもつ人は淡々と職責を全うすることではないだろうか。

行ったことの評価は、後世の歴史家が独自に行えばよいのであって、「歴史に評価をまつ」などという台詞を口にすれば、「後世の歴史家なら高く評価してくれるはずだ」という利己的願望が現れていると批判されるだけである。国民に語るべき内容があれば説明をするべきであるし、真実を超えて何かを伝える必要はないのである。語った後は黙って後世の評価を待てばよいのである。

政治家にしても官僚にしても、国民の方を向けば為すべきことは単純明快なことだと思う。難しいと感じるのは、同僚、仲間内、ライバルなどを先に見るからであろう。

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さて本題。実質GDPはマイナス3.7%という年率が主に報道されているが、これは時速のようなものだ。3か月前の生産と比較すれば、約4分の1のマイナス0.9%が本当の対前期増減率だ。

ほぼ市場の予想通りの数値。次の4~6月期も確実にマイナスになる。7月から生産は増加をし始め、秋からは加速するというのが、いまの最大公約数的予想である。

いささか不謹慎だが、乱気流に巻き込まれ、高度は下げたがこの位なら雇用が急速に悪化することはなく、やるべきことをしっかりとやっていけば、間もなく態勢が整って、仕事の数が増えていくだろう。そんな風に見ている。

余りに予想通りの公表値だったから、今回の一次速報はこれだけとしたい。

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