実際には、90年代を通して金価格は低迷し、金に執着する人たちはその愚かさを嗤われたものであった。
ところが、1オンス当たり450ドル程度であったのが、2000年代に入ってから急上昇を始め、最近は1800ドルを越していこうかという歴史的高水準に達している。実に4倍!金をマネーとしてではなく資産として見れば年率
その間、石油価格は下図のように動いてきた。
(出所)世界経済のネタ帳
90年代を通して概ね1バレル当たり25ドルというところだ。それが90ドル超まで上がって急落。いまは元に戻っている。
そのボラティリティをみても、収益率をみても、何と金に投資する方が石油で投機を行うよりも効率的であった!信じられる?こんなことってある?
かつての金本位制を考えれば、ちょっと考えられないのである。金といえばマネーであった。マネーを持つことでこれ程まで儲かるというのは、デフレであるという理屈だ。もし今が金本位制の世界であるならば、過剰な工業製品にマネーサプライが追いつかず、価格が低落、実質金利が高止まりして長期停滞になっていたであろう。そうならなかったのは、不換紙幣制度、つまりはペーパーマネーのお陰である。特に国際通貨であるドルが金交換を停止し、そればかりではなく米国債をどんどん発行してドルを世界に供給してくれたお陰である。そう考えることもできるわけだ。
それにしても、2000年代に入って以降の金価格の急上昇はすごい。これはどう解釈しておけばいいのか?
日本で株式投資しても2000年時点より直近時点の方が株価は下回っている。概ね2000年時点の1万4千円から2010年の1万200円。大体30%のマイナス。この間の円の対ドル増価率にほぼ見合っている。ドルベースでは実質トントンであったことになる。日本で事業投資するよりも金投資をしたほうがはるかに収益率は高かったことになる。
Made In Japanの製品はずいぶん割安になったが(株価停滞はその反映)、世界の農産物に対する評価はぐんと上がった。たとえば農林水産省の資料「穀物等の国際価格の動向」を見ると、商品によって違いはあるが2000年以降、価格は大体3倍から4倍になっている。
金は、価格が上がると予想されるから保有するという投機的動機で買われている側面もある。しかし、成長する新興国が自国の外貨準備の実質購買力を失うことなく安全確実に保存しようと考える場合、農産物、エネルギー資源とパラレルに価格変動する金は価値保蔵手段として信頼性がある。そんな一面も見逃せない。
いや自国の財産保全に高い関心を持っているのは新興国ばかりではない。イギリスではTelegraph紙が前のブラウン政権による金売却を批判的に報道している。
金を基準として見ると、現在の世界経済では、工業製品についてデフレが進行している。しかし、農産物など一次産品については必ずしもデフレが進行しているわけではない。世界市場で全商品を対象にして考えると、比較的物価は安定している、ないし僅かなデフレ状況なのではあるまいか。
貨幣は国の数ほどある。しかも不換紙幣であるとすれば、貨幣表示の価格だけをみてインフレであるとか、デフレであるとかを議論しても意味がなく、特に特定国の通貨で議論することは全く無意味となる。経済は、80円で仕入れて100円で売るという具合に、相対価格によって状況が決まる。
そう考えると、国の数ほど通貨があって毎日レートが変動する現在の世界経済は、それ自体が極めてスパゲッティ的な状態と言ってよい。マネーだけを見ていると、分かりにくいこと夥しい。「分かりにくい」というのが小生だけであれば全く世の中に害はないが、企業経営者が「今の世の中は利益が出るのか出ないのか、全く読めん・・・」と、そんな風な心理が蔓延するとすれば、それは<個別国家>が世界経済の発展を阻害している主因であると責められても仕方がないところだろう。
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