やれやれ、政府が借金の肩代わりをするなど、しなければよいのです。
19世紀初め、薩摩藩は想像を絶する財政危機に陥っていた。どの程度、酷かったかというと、負債が約500万両、年間利子は60万両。これに対して、藩の歳入は約15万両。今でいう債務残高の対GDP比で測れば、何と33.3倍。パーセントなら3333%である。
現在の日本国政府は、2011年で213%。世界一である(先進国では)。日本がトップを占めるなど、そうあるものではない。これでも日本経済は冷静沈着に回っている。国債暴落パニックになど陥ったことはない。立派なものではないか。数字自体、幕末期薩摩藩の自暴自棄的というか、どうにでもなれというか、上の数字に比すれば「可愛いねえ」とすら言えるであろう。
薩摩藩の家老調所広郷が採った再建策は高校の授業でもとりあげられる題材だ。ズバリ、一言。<踏み倒し>。いや、踏み倒しと言ってしまうと、あの世の調所さんに叱られる。「返さない」とは言ってない。そうではなく、借金を無利子250年分割払い(つまり2085年まで)にした。壮大なリスケジュールである。新返済スケジュールがまだ有効であれば、今なお元本償還の途中である。いま世界で不安視されている債務問題はソブリンリスク。つまりは、徳川幕府が何を血迷ったか、「薩摩藩は外様の雄藩、金子が足らぬなどという事情で薩摩藩が立ち行かなくなれば、これすなわち幕藩体制の危機。御公儀の危機。ほうっては置けぬ」などと言い出して、幕府がカネを借りて、代わりに払ってやる(債権の一部は放棄させますけどね)。こんなことをすりゃあ、もっと早く幕府は瓦解していた。もちろん、そんな意志は幕府にはなかったし、そんな責任もなかった。幕府は、要するに、徳川家であり、島津家とは違う<私的存在>だ。ところが、現代世界の政府は民主主義社会における<公的存在>。最終的なリスク引受主体として振る舞う。そういう<責任>があるというか、少なくとも期待されている。いざとなれば、国民に対する全面的徴税権を有しているから。ここにソブリンリスクの根本的背景がある。
で、ギリシア危機、アメリカ債務上限引き上げ騒動になったわけである。
第1幕目は国債市場と言う金融問題であったが、第2幕は財政緊縮と増税という財政再建が主題となる。そういうシナリオだ。日本国民もそう思っているのですけどね。日本では演出がグダグダしているようで。
まず、この辺の見方について、日本人の目で見た意見。「牛さん熊さんブログ」から
米債務問題に置ける茶会の影響(牛さん熊さんブログ)
さて、アメリカの債務上限引き上げと財政健全化をめぐる今回の与野党合意については、色々な評価がある。
喜劇役者オバマ(Paul Krugman)
欧米の国債危機が、安全と見られているドイツ、英国、日本の国債市場に波及することは経済の理屈として当然頭に置いておかないといけない。最終的には円でカネを持ちたい日本人が、外国の国債に投資するときには、為替リスクを負担しないといけない。そのリスクがいやなら、最初から先物で円転しておかないといけない。そうすると、利回りは日本国内の低金利とそれほど変わらない。かといって、元やルピーにヘッジなしで投資するのは怖い。しかし、金なら、どう?円はどうなるか分からないし、ほとんどゼロ金利。同じゼロ金利なら、最も安全なのは日銀券じゃなくて、ゴールドでしょう。日本の白川日銀総裁も劇中のプレーヤーであった。これは読めなくなるかもしれないので、主な部分を引用しておこう。
Last week Bank of Japan governor Masaaki Shirakawa claimed that Europe’s sovereign crisis and the impasse over the debt ceiling could trigger a rise in government bond yields the world over.
However, Mr Shirakawa skipped over just how events in Europe and the US – which bond markets view very differently – could lead to soaring yields elsewhere.
The New York Federal Reserve to the rescue. In a note published on Monday on its Liberty Street Economics blog, Vivian Yue and Leslie Shen argue an unexpected rise of 1 per cent in long-term US bond yields can lead to a 0.14 per cent to 0.19 per cent rise in bond yields in Germany, Japan and the UK.
(出所)Financial Times,August 1, 2011
金は、新興国も買っている。多分、投機ではなくて、ずっと持つために買っているのだろう。もうドルには戻らないであろう。
先進国の債務問題と新興国の高度成長について(Economists' Forum)
国債が国内で消化されているのなら、何の問題もないのだろうか?外国にカネを借りているなら返す時に資金が海外に流出する。「国民の可処分所得はその分減る」。これは正しいのだろうか?
これは間違いである。所得は、生産水準から決まる。自動車や鉄鋼メーカーの経営者と従業員の目線に立てば容易にわかることだ。借金を返すために、残業を続け、その代わりに「働けど、働けどなお、我が暮らし・・・」という経済状況はある。そもそも借金を返す元手は所得の使い残しであって、<貯蓄>ができなければ借金は返せない。借金返済は、投資と同じである。借金返済で所得が減るのではなく、所得の大部分を債権者に取られてしまうのである。所得は消費と貯蓄に分けられるが、貯蓄を先取りされて、消費が減るのだ。だから生活水準が落ちる。
国債を国内で消化するかしないかは、その取る人が日本人か、外国人かの違いである。カネを取った人が、日本製品を買ってくれれば、需要を維持できるので、日本人の所得は落ちない。返せるのである。日本人が返済を受けても、その日本人が外国品を買えば、カネは流出するのである。
低成長・国債膨張を続けている先進国では、増税、経営資源の流出が予想される。資本は海外に逃避するだろうが、成長を完了した新興国の政府は、先進国の財産持分権を抹消して、先進国資本家に流出するカネを収納する誘因を持つだろう。誘因がある以上、放っておけば必ずそうすると考えておいたほうがよい。言うまでもないが、経営資源が流出すれば国債償還は難しい。流出した分、海外から入ってきてもらう産業分野を作らないといけない。
先進国は、新興国のそうした選択を先読みして、最適な世界戦略を選択しておくべきである。
最後に、アメリカのお気楽な見解を(内容は真剣です)。
アメリカ国債は格下げなんですって?(タイトルを筆者がつけるとすれば)
I’m not sure how markets will respond, and I don’t think that an alarmist reaction about the market would be appropriate. A letter grade is a letter grade and the facts on the ground did not change today. It may or may not lead to a major sell-off. Still, years from now today may well be seen as a turning point of significance.
If this really does happen, let’s hope it serves as the needed wake-up call. If it doesn’t, well, back to…今回のアメリカ与野党合意の後、アメリカ国債の格付けは現状据え置きとなった。ネガティブな方向だけが付け加えられた。でも・・・・いずれは下がるのでしょうねえ。こんなところだろう。これ以上のことは大統領といえども、成し遂げられなかった。しようがないよね。そういうことだろう。
8/6 15:35 追加:
本日正午前、S&Pが米国債格付けを引き下げた旨、報道された。先日、Moody社は現状据え置きにしたが、判断が割れた。日経は以下の報道をしている。
【ニューヨーク=西村博之】米格付け会社スタンダード・アンド・プアーズ(S&P)は5日、米国債の長期格付けを最上位の「トリプルA」から、「ダブルAプラス」に1段階引き下げた。同社が米国債を格下げするのは1941年の現行制度開始以来初めて。S&Pは「米政権と議会が合意した財政健全化計画が、政府の中期的な債務構造の安定に不十分と判断した」としている。格下げはドルの信認にも影響が出る可能性が高い。(出所)日本経済新聞WEB版、8月6日11:14配信週明けの東京市場は大荒れとメディアは予測している。来週開催予定のFOMCでFRBがどんな対応をするかが焦点になっているのが今の状況だ。
0 件のコメント:
コメントを投稿