2011年10月14日金曜日

公的年金を<最大のアンフェア>にしてはならない

公的年金の支給開始年齢引き上げが、唐突に(というわけではなく、やっと出て来た話題ではあるが)関心を集めている。提案通りに改正 — 改正と称していいのであれば — されれば、68歳支給開始になりそうである。今朝の - 今となっては昨日だが - 「とくダネ!」に呼ばれていた専門家は、68歳は無理だろう、67歳に落ち着きそうだ、そんなことを言っている。いずれにしてもデフレ下の年金減額とともに、新規受給者の支給開始年齢引き上げは、出るべき課題が出て来た。そんなところだ。

しかし — 今更、ソモソモ論をやったって仕方がないが — 老齢年金というのは何のために、これほどまで喧々諤々と議論をする、それも中央政府が詰めなければならない問題なのだろうか?

ここにAさんがいる。彼は高齢になった時に、いくらの資産を保有しているか分からない。何歳まで生きるか分からない。どんな暮らしをするか分からない。金持ちになるかもしれない。貧困になるかもしれない。何歳まで仕事をするか分からない。自営業なら定年はない。サラリーマンなら退職金を支給されるかもしれない・・・と、まあ、人生色々だ。にも関わらず、彼が日本人であるという理由で、彼が65歳になってから以降は、一定額のお金を支給してもらう権利がある、日本人全体はその責務を共同して負っている。そう考えるロジカルな根拠は何か?ロジカルな根拠があるからこそ、どうしたらお金を支給できるのだろうか。できなければAさんに対して申し訳なし。そう思って、頭を捻っているのである。しかし、Aさんの顔を知っている人はほとんどいないのだ。

もちろん昔は年金などというものはなかった、と言えば嘘になる。長生きをすれば生活資金も必要になるから<年金保険>というものはあった。なかったというのは、一人残らず年金保険契約を結ばせる。だから政府が国家直営で保険業務を運営するという発想である。

一体なぜ政府が業務展開しなければならないのか?高齢になり生活に窮した方は、生活保護をするのが最も単純明快な、誰でも共感できる行政ではあるまいか?それには税を財源とするのが筋であるし、税しかないであろう。なぜ生活に窮しているか、その理由や経緯を精査することもなく、現実に困っている日本人を助けてあげたいという気持ちは実に自然である。生活保護は憲法25条で規定されている、いわば政府と国民の<社会契約>の一環である。

しかし年金は生活保護政策とは違う。だから年金の財源として保険料を徴収している。年金保険というからには、契約者が払った保険料総額と、保険金を受領する状態に陥った人が得る保険金総額は - 長期的には - バランスしないといけない。でなければ経営不可能である。いま年金保険金を受領する条件は<65歳まで長生きしてしまう!?>というものだ。言うまでもなく、こんなリスクはリスクとは言えない。平均寿命が80歳前後にまで延びている現在、65歳まで自分が生きるという事態は当然予測しておくべきである。第一、ほぼ大半が65歳プラス何年かまで生きるのであれば、保険料はほぼ全員が費消する。払った保険料を使い果たした時点でアウトになる。年金保険は短命で死ぬ人が払った保険料を長寿の人が受け取る仕組みに他ならない。だから収支がバランスするのだ。この位は生きるはずだと予想できるなら、その時の自分の生活資金は自分が作っておく。それが日本国憲法が規定している<勤労の義務>の趣旨であろう。

長生きリスクへの対応が年金保険である以上、まあ大雑把に言って、「ここまで長生きする人は10%くらいだよね」。そのくらいの、「長生きリスク」と言うに十分であるほど高い年齢に支給要件を決めておかないと、年金保険は運営できないだろう。運営できるかのように錯覚するのは、保険料ではなく、税金まで使うからである。消費税を年金の財源にするため消費税率を引き上げようと議論をしているではないか。

ここがわからないのだ。税金を使ってまで年金を支給する以上、もらう人は困っている人であるべきでなかろうか?生活に困ってもいないのに、自らが支払った保険料を超えて年金を受領している社会集団がいるとすれば、それは別の集団から行政を利用して所得を奪取していることになるわけであり、これこそ<最大のアンフェア>ではないか?生活資金に困っている高齢者には生活保護政策を充実するということを越えて、困ってもいない日本人にまで定額の年金を支給する、支払った保険料に加算して税金を充当してでも支給する。それが正しいと考えるロジックは何か?政治家の選挙対策なのか?中央政府が税以外の金を徴収する便法ではないのか?なぜ普通の年金保険を契約するやり方でいけないのか?そんな保険商品を契約できず、現実に困っている人は保護するべきだが、なぜ全ての日本人を対象に政府直営の公的年金保険制度を日本国は必要としているのだろうか?ま、そういう疑問ですね。

官僚は細かな計算で忙しい。根本的な疑問に正面から立ち向かい、日本人なら誰でも納得できる理念を伝える責務は、日本の政治家が負っている。これだけは確かなことだろう。

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