2015年2月1日日曜日

中東‐秩序と乱世を思う

地球上のある文明圏で国家が崩壊し乱世がやってきても、別の地域では新たな国家が生まれ、文明が栄え行くことは大いにありうるし、実際にそんな時代はいくつもあった。

17世紀には、中国で清帝国が生まれ、欧州でも30年戦争後にフランス・ブルボン王朝が興隆期を迎えた。しかしオスマントルコ帝国は16世紀100年の黄金時代が過ぎ去ろうとしていた。

14世紀に中国の明朝・永楽帝が武威を四方に奮っていた同時代、欧州ではペストが大流行し人口の3割が死亡した。

8世紀に東では唐の長安、西ではサラセン帝国のバグダッドが国際的文化都市として多くの人々をひきつけていたが、同じころヨーロッパはフランク王国のカール大帝が束の間の統一を成し遂げたものの、すぐに分裂し、やがて欧州はノルマン人による侵略の波に洗われ闇の時代に入っていった。

地上の世界を全体としてみると、平和は常に存在する一方で乱世も常に存在した、というのが現実である。

★ ★ ★

中東「イスラム国」の人質になっていた日本人二名は最も悲しむべき結末を迎えたようだと報道されている。

いま中東全体に強力な国家は存在しなくなった―というより、なくなりつつある。自生の秩序か、輸入された秩序のいずれかが信頼を失いつつあるようだ。秩序が崩壊した乱世である。乱世には武器がものをいう。武装した無数の集団が離合集散しながら、成長して軍閥となる。軍閥であっても、周辺住民は秩序をもたらす統治権力として認めるものである。殺戮が日常化した社会と、平和が日常である社会とで、人間社会に本質的な違いはない。人間は、やはり物を食べ、排泄をし、飲み、話をして、笑うものである。

かつて中国清朝が崩壊した後も中国全土で軍事政権が生まれ、中国は崩壊と内乱の20年に入った。その中で大日本帝国は自国の利益を追求しながら、中国内部の覇権闘争に介入し続けたのだが、全体としてみると戦前期・日本の失敗は中国の国内事情への干渉政策の失敗だった。そう言えるのではないか。

同じことがいま中東で進行しつつあるのかもしれない。中東地域の暴力的紛争の根源には、19世紀以来、欧州、及びアメリカが獲得してきた数々の「利権」を保持し続けようとする「旧・列国」の世界戦略がある。

日本の一次エネルギーの相当部分は中東の原油に依存している。日本と中東地域は距離的には離れているが、経済的には密接に結ばれている。中東の中でいわゆる「帝国主義的利権」を日本もまた持ち続けてきたわけではない。しかし、中東地域の安定に高い関心をもつ動機を日本は持っている。かつて戦前期に日本が中国本土に対し拡張的意欲をもったのは、その資源のためである。中国本土の資源を日本の支配下に置くことを日本は自存自衛のための行為と表現した。

イスラム国は国家ではない。それ故、対テロ治安活動は「国際紛争」ではなく、「戦争」には該当せず、「警察」に当てはまる。日本がそんな国際的警察活動に協力するにしても、それは憲法が禁じている「武力による威嚇」にも「武力の行使」にも当たらない。そんな論理から、気がついてみれば陸海空の自衛隊が中東地域に駐留し、活動している。これもまた「自衛」なのだから。そんな時代がやって来ても不思議ではなくなった。

そして、今回の悲劇は、もしも国際社会が日本に求めれば、テロ集団=国際的組織暴力団という単純な等値関係を意識することで、いささかの罪悪感もなく国民が「海外派兵」を、いや「海外派遣」を支持する。日本人にそうさせるだけの忘れがたい記憶になる。そんな可能性も一層高まってきた。そう思うのだな。

その行為が、国際社会における「名誉ある地位」を日本にもたらすのであれば、尚更である。そんな志向が今後の日本で高まってくるのではないか、と。そう予想する—いや、懸念するのは、小生だけではないだろう。

★ ★ ★

もしも幕末において会津藩が幕命によらずに上洛し、尊攘派志士達を抑圧していたらどうなったか。より一層に明らかな「朝敵」として討伐の対象になっていただろう。確かなことは、自らの意志で『火中の栗』を拾うことほど愚かな行為はないということだ。

とはいえ、愚かではあるが明治期の日本人が不平等条約改正にあれほどの情熱をかけたのであれば、今度は戦犯・日本の汚名を雪ぐことに日本人の血を捧げる、それに国家的情熱をかける。国際社会の義に殉じるという心意気。今の時点では想像すらできないが、こんな展開も、将来のいつか、ありえないことではない。

たとえ日本人のそんな活動が「旧・列国」の利権を保護する目的に沿うものであるとしても、行為自体は崇高であり、大方の国際社会には極めてウェルカムであるとして歓迎される。本来は限りなく愚かな選択であるとしても、である。『豚もおだてりゃ樹に登る』、そうなってしまうのじゃないかという懸念である。樹に登る動機が豚の方にあれば、なおさらである。

0 件のコメント: