2021年8月12日木曜日

ほんの一言: これは典型的な「撤退戦略」である、な

ビジネスにゲーム論を応用するとき、直接効果×戦略効果をX軸、Y軸にして各種戦略の特性をプロットする視覚化マップは、授業でも非常に基本的なトピックである。

中でも、「撤退」がなぜ「撤退戦略」になりうるのかという問題は、履修する学生にとって理解度を試す格好のエクササイズであったものだ。

例えば、激しい競争を繰り広げるデジタルカメラ市場において、ある大手メーカーが(先手を打って)コンパクト・デジカメから撤退しようとする。その後の展望が何もなければ、それは単なる「敗退」であって、企業としては「縮小」してしまう。その行動が「戦略」であるためには「将来展望」が不可欠である所以だ。「将来展望」に裏打ちされている場合、「後退」は単なる「敗退」ではなく、「撤退」という立派な戦略でありうる — 「ありうる」であって、「ある」と断言できるわけではない。その将来見通しが希望的観測ではなく、合理的なものであることがポイントだ

つまり、直接効果は自軍にとってマイナスであるとしても、長期的・将来的には自軍にプラスであると見通せるなら、戦略としては合理性があるわけだ。この時、分析上のポイントとなるのが《戦略的代替性》、《戦略的補完性》というキーワードだが、これらの用語は既に経営現場でも常識になりつつあるのだろうか・・・

ま、それはさておき:

アフガニスタンから米軍が撤退する、というのは教科書通りの「撤退戦略」であろう。アメリカは既に中国を相手にゲームを行っているようだ。首都カブールが陥落しても、「撤退」するアメリカは何とも感じないだろう。

スケールは小さいが、ロジックはキャノンがニコンを相手にカメラ市場で経営ゲームを展開してきたのと同じである。

米軍が姿を消すからには、将来的には、中国は内陸部の国境地域により多くの国防資源を投入せざるをえないだろう。そうしなければ、米軍撤退後の空白をイスラム教勢力が獲得することになるからだ。中国は、今後将来、西部国境のイスラム教勢力により多く神経を使わざるを得ないだろう。中国が、これまで通り、海軍拡大に力点を置き、東方海域に進出しようとする戦略に執着すると、西部国境地域が不安定化する可能性がある。合計すると、中国は地域的覇権を追求するうえで(追求せざるを得ないのである)、これまでよりも一層多額の国防費を覚悟しなければならないだろう。経済成長に投入できる資源は抑えざるを得ない。中国国内の生活水準の向上ペースは停滞する可能性がある。カネがあるなら、西部辺境により多くの投資を行い、『平和をカネで買う』選択を迫られるかもしれない。どちらにしても、これまでよりはカネがかかる。アメリカが払ってきたカネを中国が払う。アメリカはアフガニスタンにおける勢力維持のための軍事コストをカットして新規分野に資金を振り向けることが出来る。これが基本的なロジックだろう。

軍事力はタテに育てて、ヨコに使うものである

こう言ったのは、明治維新期の天才的参謀・大村益次郎であるそうだが、本来、中国は膨大な陸軍を育成・訓練しなければならない地政学上のポジションにいる。近隣より富裕化した「大国」はvulnerable(=奪われやすく危ない)なのだ。地続きの大陸国家ならば猶更だ。今後、この中国伝統の(?)弱みが顕在化するものと予想する。

・・・思うに、現時点の人民解放軍はいざとなると、戦闘力はそれほどではないのではないかと、小生、憶測したりしている。これまでの中国歴代王朝がそんな風であった。

もはや「第二次世界大戦後」ではない。これだけは明瞭になった。

しかし、中国により強い圧力をかけて、仮に中国そのものが不安定になるのは、日本にとっては悪夢だろう。

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