現時点の日本国内のコロナ問題の核心は、デルタ型感染者の急増そのものよりも、現在の新規感染者数で既に医療システムが崩壊寸前(?)にあるという《危機の感覚》が形成されているという事実である。本日投稿の問題意識は、なぜ《危機の感覚》が日本で形成されているのか? その危機感覚は、現実の正確な認識に裏打ちされた正しい感覚なのか? こんな疑問である。
例えば、イギリスは新規感染者数が(投稿編集時刻現在で)31417人、人口10万人当たりで47人。フランスは新規感染者数が23004人、人口10万人当たりで34人。アメリカになると、新規感染者数が151227人、人口10万人当たりで46人になっている。
Source: The New York Times, Coronavirus Pandemic
いずれも日本より感染状況は一層酷い(?)数字になっている。日本は上記サイトによると新規感染者数が22487人、人口10万人当たりで18人である。「これならイイんじゃないの?」と言われそうな数字である。しかし、日本では連日のように「医療危機」が報道されている。イギリス、EU諸国では、医療崩壊が連日報道されるという状況にはなっていない。
感染防止に(いまのところ)成功しているのはドイツで、新規感染者数が6507人、人口10万人当たりで7.8人となっている。そのドイツでも新規感染者数は上昇トレンド初期にあり、現時点の感染者数にとどまっているのは、(日本国内の首都圏、地方との相違もそうだが)フェーズのズレによるものと受けとれ、今後が心配されているところだ。
Source: The New York Times, Coronavirus Pandemic
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コロナ感染は、グローバルな現象であって、鎖国でも出来ない限り世界の中で観察を続け、国内政策を決めていくしか対処のしようがない問題だ。
ずっといる「経済活動停止過激派」を一掃することはできまいが、米国内の一時的な(?)インフレ高進、あるいは最近の半導体不足による世界の生産活動の混乱ぶりをみれば、全てを理解して言っているとは思えない―ロックダウンの名手(?)である中国であってすら、全国的なロックダウンなどは、出来ていないし、出来るものではない。食料、ライフライン、交通、治安など止められない活動がある以上、完全なロックダウンなどは、そもそも出来るはずがなく、どこまでを停止できるのかを理解している人間もいるか、いないか、怪しいものだ。
これが第一の勘所。
感染者数の変動が、一国の政策のみの帰結であると言わんばかりの「報道」は、軽薄にすぎると思うのだ、な。
そのイギリスだが、2回接種者(fully vaccinated/フルチン?)の比率は62%、それに対して、日本は40%である(いずれも8月21日現在)。つまり、理屈で考えれば『日本はワクチン接種率が低すぎるために、つまりは「ワクチン政策の失敗」が原因となって、デルタ株新規感染者の激増を招いている』とは、結論できないわけである。
現在、最もワクチン2回接種率が高いのは、マルタの81%、次がUAEの75%、シンガポールが同率の75%というところだ。いずれも比較的人口の少ない小国である。日本の感染動向をどう受け止めるかは、ワクチン接種状況をにらみ合わせながら、海外との比較の下で、観察・評価していくのが適切な「まなざし」というものだ。
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その中で、特に日本において、なぜ「医療崩壊?」が社会的なパニックとも言えるほどの「混乱」をまねいているかと問えば、やはりその背景として「医療システムの不備」というものも当然あるのだが、それより以前に「政治不信」の高まりや、更には「データ・情報の提供の不備」というものもある。そう思いながら観ているのだ、な。
実は、本日投稿で引用したデータ、グラフなどは、全てThe New York Timesの紙面(デジタル版)に掲載されているもので、同紙では全世界のコロナ関連データを毎日アップデートしながら読者に提供している。
なるほど、現在の日本人の不安は、確かに政府がもたらしているところが大きい。が、政府が実際に進めている政策とその効果に相応する評価が得られないというのは、評価するにもそのための材料がサッパリ提供されていない。これも結構重要な点である。
マア確かに、『データならGoogleで検索できるでしょ、いつでも分かるじゃないですか』と、そんな指摘というか、意見もあるわけだ。しかし、『Googleでデータは拾えるよネ』と言われても、それはあたかも野原で特定品種の花を探すのに似ていて、極めて非効率的なのである。大体、『生活に困れば生活保護があるじゃないですか』と言ったというので総理を非難したのはマスコミ各社である。Googleで検索すれば確かに分かるのだが、そこを整理して、操作しやすく、かつ特定テーマについて網羅的である、そんな風にして多数が求めている情報を効率的な方法で提供する。これが正に付加価値というものである。『情報産業ならやれよ』。これが主旨である。
アメリカのメディアはそこをチャンとやってるヨ、と。そういう意味において、現在の日本でコロナ関連の《情報不足・データ不足》は甚だしいわけである。なるほど、(たとえば)NHKは「特設サイト 新型コロナウイルス」を提供している。朝日新聞は『新型コロナ最新情報』を提供している。世界の感染状況もメニューにある。が、世界の中で日本を観るという感性は(小生は)まったく感じないし、そこには「専門家」による解説もなく、コロナ感染がグローバルな現象であるという最重要な事実が全然伝わってこない(伝える意識がない?)。これでは、日本人が現在のコロナ感染に立ち向かう合理的な感覚が形成されないだろう、と。
確かに「政府」の政策努力はこの1年間余り極めて不十分であった。やるべきことをやってこなかったという面は「検査体制」、「医療体制」において、多々ある。しかし、日本人がコロナ状況を把握するための情報を提供しようという意欲や熱意が日本国内のマスコミ各社には不足している。日本国内のマスメディア各社は、この1年余の間、何か真剣に取材してきましたか? データ・情報を提供する努力をどの位してきましたか? そんな疑問も小生には相当あるのだ、な。
まさにどちらもどちら、《目くそ鼻くそ》の部類である。そんな感覚がある。
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覚え書きまでに書き留めておこう。
現時点のイギリス、フランスのワクチン接種率、デルタ株に対しては日本国民とヨーロッパ国民との免疫状況にそれほど大きな違いはないかもしれないという点、これらを考えると、日本においても新規感染者数が現時点のヨーロッパ並みにまで増えるという可能性は大いにある。総人口を考慮すると、ワクチン接種が一渡り希望者に行き渡るとしても、それでも日本全国の新規感染者数が4万人~5万人レベルにまで増える可能性は大いにある。小生にはそう思われる。
であるので、今年の冬かもしれないが、そのレベルにまで新規感染者が増加した場合、医療サービスの提供はどう確保するのか?
足元の課題は、既に明らかではないかと思っている。
ちなみに、拙宅では
大晦日までに1日の新規感染者数が45000人を超える日がほぼ確実に来る
と。カミさんとはそんな話をしている。
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