2022年12月21日水曜日

一言メモ: アメリカFRBの金利引き上げは続くのだろうか?

アメリカの金融当局であるFRBが《インフレと戦う騎士》よろしく、今春以降果敢に進めてきた《攻撃的金利引上げ政策》、12月には引き上げ幅を縮小するものの、より高い金利ピーク値に向けて今後も「上げスタンス」は(断固として)継続する姿勢を鮮明化してきている。


この点に関連して、少し前にこんな投稿をしている。タイトルは『ホンノ一言: 景気後退が見えてきたのは政策的には明るい兆しかも』。

株価は半年程度の先行性をもつ。景気上昇のピークが見えず、金利が上がり始めれば株価は現実に下がり始める。逆に、景気後退が予見され、金利低下局面が見えて来れば株価は上がり始める。

株価は今年の春以降ずいぶん下がった。今年は寅年で「千里をかける」はずだったのだが、どうやら下り坂を疾風のように駆け下ったのが「虎は千里を走る」の意味であったようだ。

ところがまだ株価は上がり始めない。金利ピーク感が中々見えてこないからだ。

先日のWall Street Journalにはこんな記事があった:

 米連邦準備制度理事会(FRB)が信頼性の問題を抱えている。FRBは「利上げの継続」、「5%超までの利上げ」、「少なくとも来年末まではその水準で維持」という三つのことを市場に信じさせようとしているが、投資家は三つ目を完全に拒絶している。

URL: https://jp.wsj.com/articles/the-markets-dont-believe-the-fed-11671177198

Source: WSJ, 2022 年 12 月 16 日 16:54 JST

具体的には、FRB当局とNY市場に集まる投資家の見通しに乖離している:

インフレ抑制を目指すFRBにとってはさらに悪いことに、投資家が利下げについて、開始時期は政策当局の見解よりも早く、スピードはそれよりもずっと速くなると考えている。市場が正しければ、政策金利は2023年夏のピークから24年末までに約2ポイント低下することになる。

 FRBは14日、政策金利のピーク水準の見通しを引き上げ、ピーク後の引き下げ幅をより緩やかにすることを示唆した。これを受けて株価は下落し、米国債利回りは一時的に上昇した。それでもまだ市場が政策当局に同意しているとは言い難い。

URL: 同上


FRBが親共和党のスタンスをとれば傾向としてWall Streetと親和的になる。反対に、親民主党のスタンスをとればFRBは投資家の期待よりは一般勤労者世帯の経済に配慮する傾向が出てくる。一般勤労者世帯の経済とは「暮らし向き」のことである。従って、親民主党的な金融政策は、基本目標として雇用重視、賃金重視になる理屈である。故に、親民主党的なスタンスをとれば「景気後退」は最も忌むべきリスクとなる。これが基本的なロジックだった。


いま現在のFRBは投資家の思惑と溝を深めつつある。しかし、民主党に近いと目される経済学者達とも何だか見解を異にしつつあるようだ。

たとえば、クルーグマンはThe New York Timesにこんな見方を伝えている:

 So where are we on the inflation fight? Until recently it was clear that overall spending was rising too fast to be consistent with low inflation, and my superdupercore measure suggests that this may still be true. I certainly understand why the Fed isn’t ready to declare victory yet.

But given the absence of evidence that inflation is getting entrenched, victory may be a lot closer than many people imagine.

FRBはインフレとの戦いに勝利することを最優先の目標に掲げている ― インフレが庶民の暮らしを直撃する点は間違いない。このこと自体に反対してはいないが、しかし、予想よりも早いタイミングで現在のインフレ・ファイター姿勢から方針転換するのではないかと期待している。そんなモヤモヤした心情が伝わってくる書きぶりではないか。

KrugmanはBlanchardと同様、<インフレ2%目標>にも疑念を明らかにしており、むしろ物価上昇率が4%まで低下すれば、その状態が望ましいとも(別のNYTコラム記事で)述べている。

スティグリッツはもっと過激で、金融引き締め(=金利引き上げ)に軸足を置いた経済政策自体を批判している。

Let us return to the big policy question at hand. Will higher interest rates increase the supply of chips for cars, or the supply of oil (somehow persuading MBS to supply more)? Will they lower the price of food, other than by reducing global incomes so much that people pare their diets? Of course not. On the contrary, higher interest rates make it even more difficult to mobilise investments that could alleviate supply shortages. And as the Roosevelt report and my earlier Brookings Institution report with Anton Korinek show, there are many other ways that higher interest rates may exacerbate inflationary pressures.

Well-directed fiscal policies and other, more finely tuned measures have a better chance of taming today’s inflation than do blunt, potentially counterproductive monetary policies. The appropriate response to high food prices, for example, is to reverse a decades-old agricultural price-support policy that pays farmers not to produce, when they should be encouraged to produce more.

URL:  https://www.theguardian.com/business/2022/dec/09/raising-interest-rates-inflation-central-banks-recession

Source:  The Gurardian, Project Syndicate

Date:  Fri 9 Dec 2022 14.02 GMT

このように、足元のインフレーションの発生原因がサプライ側にある点を考えると、金利引き上げによってインフレ抑制を図るのは愚策であり、コロナ禍に対応した大盤振る舞いの後の収拾段階として財政を引き締める方策が最良であった、と。金融政策ではなく財政政策が現在のインフレ抑制には効果的である、と。<攻撃的金利引き上げ>は即刻止めるのが正解だ、と。こんな風に論じている ― 「正論」という点ではこちらが正論であると、小生も同感だ。

最初に引用した投稿の最後に

どちらにしても、来年になってまだ金利を上げるようなら「バカじゃないか」という声が増えそうである。

こう書き足しているのだが、どうも現状をみると、果たしてこんな風に展開しそうになって来た。


財政政策はバイデン政権の判断を待つしかない。大盤振る舞いが好きなのは民主党政権の傾向でもある。その民主党に親和的なスティグリッツが財政引き締めを提案しているのは、非常に興味深いところだ。

・・・となると、現在のFRB当局は基本的にどんなスタンスをとっているということなのか?

親共和党的ではない。かといって、親民主党的とも言えないようだ。アカデミック・サイドの経済学者の見方ともずれて来ているようだ。誰の影響を一番受けているのだろう?FRB部内で共有されている《経験知》、誰の見解とも言えない《集合知》が働いている、ということなのだろうか?




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