2023年4月29日土曜日

断想: 子育て支援財源で踏み切れるか、決断力不足を露呈するかの分岐点に来たようで

子育て支援の必要性は国民の大半が認めているが、その一方で負担の増加は嫌だというのが日本社会の最大公約数というところだろう。

その場合、「負担」というのは何を指しているのかというのが主たるポイントになるが、この辺を掘り下げて議論するには状況がまだ熟していないようだ。

ただ、保険料でまかなうという方向には多方面から反対が出てきている。

つい先日には

民間有識者による令和国民会議(令和臨調、きょうのことば)は25日、社会保障制度改革に関する提言を発表した。持続可能な少子化対策の財源について税を軸に安定的に確保するよう求めた。世代間や所得差による負担の不公平感の是正を進め、医療体制を強化するよう提案した。産業構造や働き方が大きく変わるなかで、抜本的な改革を政府に迫った。

Source:日本経済新聞、4月26日

更にその前には

 経団連の十倉雅和会長は日本経済新聞とのインタビューで、政府が進める少子化対策の財源について「消費税も当然議論の対象になってくる」と述べた。政府・与党では社会保険料の活用案が浮かぶが、十倉氏は「賃上げ分を全て社会保障に回されると賃上げの実感を得られない」と幅広い層に負担を求めるのが望ましいとの見解を示した。

Source:日本経済新聞、4月25日

 加えて勤労者サイドを代表する連合も

政府が掲げる「異次元の少子化対策」の財源の一部を、社会保険料に上乗せして徴収する案を検討していることについて、労働組合の中央組織・連合の芳野友子会長は13日の定例会見で「徴収しやすいところから取るという方法はどうなのか」と異論を唱えた。芳野氏は少子化対策を議論する政府の「こども未来戦略会議」のメンバーの一人。

Source:朝日新聞、4月13日

という風に保険料引き上げで子育て支援をまかなう方法には否定的だ。

岸田首相は「増税はしない」と既に発言しているが、状況は《四面楚歌》である。

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政治の常識から考えると、野党は労働組合の反対する政策には反対するし、与党は財界が反対する政策を強行することはない。

要するに、子育て支援のコストを社会保険料でまかなう方向は最後には潰れると予想される。

残るのは、使途の再編(=やりくり)か、国債増発(=将来世代からの借金)、もしくは増税のみである。が、やりくりで出来るなら、トックの昔に問題は解決されている。将来世代を育てるためのカネを将来世代につけ回すなんて『親の資格がない』と普通の人は言うだろう。故に、解は増税しかない。賃金引上げの追い風にもなる ― 直接的には。この点は、経済界、労働界だけではなく、経済学界も見解は既にまとまっている状況だ。

言い換えると、政治家(=国会議員)のみが問題解決を遅らせているわけである。


とはいえ、単なる《消費税率引き上げ》に追い込まれてしまっては、2014年4月の引き上げ後に消費減退を招いたのと同じことを再現するだけだ。たださえエンゲル係数上昇にみるように足元の家計状況は危機的である。「政治」にならないことを政治家に要求しても分かったというはずがない。

その無理を覚悟してもなお踏み切ることが必要である、というこの一点が最後に残った政治的ステップだ。この辺については少し前に投稿した。さもなくば、コロナ感染拡大後の給付金で所得制限を付けるか付けないかで迷走した時と同じ、岸田首相の決断力不足が(またも)視える化されるというものだろう。

2023年4月25日火曜日

ホンノ一言: クリミア半島領有権についての中国・駐仏大使の妄言?

ロシア=ウクライナ戦争の行方は混とんとしている模様で、ウクライナの春季攻勢が取りざたされているかと思うと、ウ軍の継戦能力は既にギリギリの状態に追い込まれているという観測もあったりで、素人にはまったく分からない。

中国が仲裁への意志を示したのが少し以前。そこへ中国の駐仏大使が怪しからぬ妄言を吐いたというので猛反発を招いている:

問題の発言は、21日の放送で中国の盧沙野大使が行った。ロシアが2014年に併合したウクライナのクリミア半島について尋ねられ、「問題をどうとらえるかだ。クリミアは当初はロシア領だった。ソ連時代にウクライナに渡された」と、帰属についてあいまいな返答をした。さらに、「旧ソ連諸国は国際法上、有効な地位を持っていない。主権国家の地位を具体化する国際合意がないからだ」と述べた。

Source:  産経新聞、2023/04/24


とるに足らない舌禍事件として日本では報道されているようなのだが、一見した限りでは大雑把な大筋では間違いとばかりは言えない「事実の一端」ではないのか、と。

高校の世界史を勉強した人であれば、クリミア半島はロシアのエカテリーナ女帝の時代、ロシアに併合されたはずではなかったかと記憶しているに違いない。それまではオスマントルコがクリミア半島を領有していたはずである、と。で、エカテリーナ女帝をWikipediaで調べてみると、

 対外政策では、オスマン帝国との2度にわたる露土戦争(1768年-1774年、1787年-1791年)に勝利してウクライナの大部分やクリミア・ハン国を併合(キュチュク・カイナルジ条約)。さらにヤッシーの講和でバルカン半島進出を窺うに至り、黒海での南下政策を進めた。

と解説されていたりしているので、「ああ、そうだったナ」と記憶が蘇ったりするわけだ。

だから中国の駐仏大使が『 クリミアは当初はロシア領だった』と発言しているのは、それ自体は間違いではない。その前はと言うと、トルコが領有していたことになるし、更にその前はモンゴル・ジョチウルス系のクリミア汗国であった。そしてもっと遡れば、東ローマ帝国、ギリシア人、ローマ人他が入り乱れて訳が分からないというのがクリミア半島史である。


ウクライナがクリミア半島の領有権を主張しているのは、第2次大戦後の1954年に当時のフルシチョフ第一書記の判断でロシア共和国からウクライナ共和国に移管された経緯を根拠にしている。それが後になって、ソ連のペレストロイカ、ソ連邦解体を機に各共和国が独立宣言を発した以降も領有権はそのまま継続しているのだが、その前後の国境画定がきちんとしたものであったかというと、小生も専門家ではないので詳細は熟知していない。が、中国の駐仏大使がその辺の経緯を指摘しているのであれば、「妄言もいい加減にしろ」というのも不正確ではないかと感じる。

ロシアが「日本の北方領土領有権は第2次大戦の結果として日本からソ連に移り、いまそれをロシアが継承しているのだ」と、そう主張しているのだが、「いまの現状を受け入れよ」という言い分は、何だかクリミア半島領有に対するウクライナの言い分にどこか似ている、とも感じてしまうのだな。本来、その地域はどこに領有されていたか、領有権が移ったとすれば、どのような正式の手続きによって移ったのか、その辺のことを指摘する人が現れても、国際交渉では日常茶飯事であろう。

ヨーロッパで猛反発が起きているのは、意外と痛い所をつかれたからではないか。そう思ったりもするのだ、な。

但し、ウクライナ東部の話しはまた別である。

2023年4月22日土曜日

ホンノ一言: リアリズムがようやく浸透してきたか?

 今日の日経にこんな記事がある:

主要7カ国(G7)が18日に閉幕した外相会合でまとめた共同声明で「民主主義」が3回しか登場しなかった。2022年以前の声明と比べ重要性を訴える表現が減った。新興・途上国の共感を広く得にくいとの判断が背景にある。

ロシアのウクライナ侵攻後の22年5月、侵攻前の21年5月の共同声明と日本語訳で比較した。共同声明はG7首脳会議(サミット)の議論のたたき台となる。

22年の共同声明は「民主主義」が21回出ていた。「G7は民主主義が21世紀においても最良であることを引き続き確信している」と強調した。今回は同様の指摘が消えた。

「人権」も21年の47回、22年の42回から22回へとほぼ半減した。「自由」も21年の46回、22年の28回から減り、今回は22回にとどまった。

G7にはこうしたキーワードは新興・途上国で広く受け入れられにくいとの懸念がある。民主主義が未成熟だったり、人権問題を抱えたりする国も少なくないためだ。

Source:日本経済新聞、2023年4月22日

いわゆる西側陣営グループの中核部隊であるG7も、ここに来てやっと現実に目が向き始めたように見える。

問題解決と平和の実現に向けての第1歩になればよいのだが。

政治体制は統治のためのマネジメント技術。民主主義や人権重視の度合いもソーシャル・マネジメントのための技術である、というのが(何度も投稿しているが)小生が信じる社会哲学である。

つまり、民主主義そのものに価値があるわけではなく、目的は人類の幸福にある。人権重視の度合いも行き過ぎれば社会的不安定を招き国民は不幸になる状況を招く。1920年代半ばに日本は明治維新以来の夢であった「普通選挙」を実現した。しかし、スペイン風邪大流行、関東大震災、大正バブル後の長期不況とアメリカ発の大恐慌で動揺する中、陸軍が暴走した満州事変が重なり、内憂外患が深刻化、日本社会が急速にGovernability(=自己管理能力、統治可能性)を失っていったのは、その普通選挙の負の作用だと思っている。軍部中心の政権による統制社会になったのは必然であった。国際社会にも不幸な結果をもたらした。

何ごとも

過ぎたるは及ばざるがごとし

こんなことは2千年も昔から人類は気が付いているわけで、何も今になってから悟ることでもあるまいに、と思ったりする今日この頃だ。

目的合理的に考えなければならない。社会的選択はそのための学問分野で、知見が蓄積されつつあるのは人類の知的資産である。


2023年4月19日水曜日

断想: 「なんで自由に仕事をさせないかな」と、20年間、ずっと話しているのだが

いつの頃からかメールマガジンの<まぐまぐ>が届くようになっているのだが、今日案内が届いた記事の中に

ここにも竹中平蔵の悪影響。京大教授が懸念する「テロ多発国家」に成り下がった日本の現状

こんなタイトルが含まれていたので、ビックリ仰天。

大体、一人の人物が日本国の現状を変えることが可能なら、竹中氏を上回る権力を把握する総理大臣ならとっくの昔に日本を成長軌道に戻せているはずであろう。竹中氏にはそれほど多くの部下は与えられていなかった。岸田首相には60万人の国家公務員が部下として従っている。一人の竹中氏が日本社会を変えられたのなら、岸田首相なら社会を正しい状態にたやすく戻せる理屈だ。だから何も心配することはないという結論になる。

まったくネエ…言論テロですぜ、これは。名誉棄損ものだと思いました。 こうした御仁が自由に発言している世相と、不満のはけ口に殺傷器具を自作して勝手に行動する青年が現れる世相と、根は一つであると思う。

「自由」というのは、こんなところで発露されては困るわけだ。困った日本社会がますます

原則規制。例外自由。

そうして、限られた分野のみ自由、あとはお上の許可を要する。こんな社会にますます向かっていくのじゃあないかと憂慮に堪えない。建て前のイデオロギーは異なれど、実質は中国社会と似て来るに違いない。

今朝も朝食をとりながらカミさんとこんな話をした。

小生: 普通にまっとうに仕事をしていれば、普通の人生を送れて、好きな人と結婚して、子供が生まれて、普通の幸せを感じて生きて行けるならサ、何も特殊詐欺に協力するとか、まして自らテロ行為をして社会に抗議するとか、そんな願望は抱かないと思うんだよネ。危ない行為に打って出るのは、「やむにやまれず」そうするしかない世相があるからだろ。だとすると、時代が悪いというより、そんな時代をもたらして来た政治が悪いってことなんだろうネエ……

カミさん: うちの息子だって普通にやってるヨ、不満があるからって世間のせいにしちゃいけないでしょ?

小生: 結婚してないだろ。まあ、あれが結婚して一家の責任を持つっていうと、かえって大丈夫かと不安だけどね。だけど、まっとうに生きてもらえるのは、カツカツの給料、サッパリ上がらない手取りじゃ、希望も何もないだろうサ。

カミさん: そうねえ…

小生: 小泉内閣の頃にね、タクシー開業をほぼ完全に自由化したことがあるんだよ。自由にタクシー営業を始めても可とね、自由化の一環だったんだ。だけどね、全国のタクシー会社が猛反対を繰り広げてね、『我々の生活を奪うのか!』ってね、それで民主党政権、というより安倍政権になってから「タクシー減車法」が成立してね、元の木阿弥になったんだ。もしそんな愚かなことをしなければ、供給過剰になったタクシー会社からドライバーが減って、人出不足の傾向が高まった運送業界に移って、クロネコや佐川さんが直面している人出不足は違った状況になっていただろうね。タクシー代は自由化で低下、ドライバーは輸送業界に移動。スムーズに解決できていたと思うよ。今はその正反対。タクシー代は高止まり、運送業界には人が流れず、人出不足で雪隠詰め。社会は変われなかっただろ?

カミさん: 子供達にも「自由にやれっ!」て言ってきたからね(笑)

小生: 僕たちが暮らしているこの町にも、子育てが終わった奥さんたち、一杯いるだろ?君のママ友たちもそうだよね。まだまだ元気なお婆ちゃんも冬は雪かきに汗を流しているしね。こんな「ママ友シニア」が10人位集まってサ、「子育て支援サークル」を結成して市役所に届けるんだヨ。原則自由に承認してあげて、あとはメンバーの名前や写真、それにサークルへの連絡先を市のホームぺージで公開してサ、で後は子供を預かってほしい若いママたちはそのページをみてオンラインで予約する。こんな具合に、普通の人の善意を役に立つビジネスにできれば、みんなウィンウィンで助かる人は多いんだよね。だけど、いまこういう事はできない。何故かというと保育所が困るからだよ。で、その保育所に預けようとすると、数が足りない。数が足りないから料金が上がって、保育士の給料も上がるかと思いきや、国がそれを抑えている。上がると国民が困るっていう訳さ。だけど、国民が困る規制を守っているのは当の国なんだよね。

カミさん: ママ友シニアのサークル活動はいいかもね。

小生: いまEUの委員長をしているフォン・デア・ライエンって人がいるんだけどネ。彼女が忙しい仕事をこなしながら、7人の子供を育てたのは、何人かの若いママたちと協力し合ったからなんだよね。あのドイツにあっても《独立独歩》、《独立自尊》。ドイツには保育所が十分な数だけ整備されていたからこそ出来たのでしょうと、そんな因循かつ消極的な思考パターンとは無縁さ。これって、ママ友シニアの子育て支援サークルとは違うけどさ、発想が似ていると思わない?

カミさん: ヤル気のある人は自由にやるってこと?

小生: 前からずっと言っている事さ。若い人が「これで稼ごう」と思うことがあれば、何でも認めてあげればいいと思うよ。それじゃ、今の事業者が困るでしょ、なんて国が口を出すのが一番悪い事なのさ。もちろん「犯罪行為」はあらかじめ法律で決めておかないといけないけど、原則は自由にしなきゃ、普通の人が生きて行けないヨ。《原則自由、例外規制》サ。いまはその反対に向かいつつあるネ。

こんな話をしたが、文字通り「今日も又」、であって、この20年近く同じ話をずっとしてきたような気がする。

今回の和歌山市雑賀崎で起きた爆弾テロの犯人が主張しているような『衆議院の被選挙権25歳以上、参議院の被選挙権30歳以上」という制限は、それ自体が違憲であるとは思わないが、日本国内に多数ある職業資格、開業規制は、職業選択の自由を実質的に侵していると思っている。《所得機会》を自由に追求する権利は《幸福追求の権利》にもつながる基本的人権の一つである。

自由を制限することが日本社会の幸福につながると思考するようなら、そもそも理念自体が現行憲法 ― アメリカの理念に沿って草案が書かれたものだが ― それに基本的に違反していると思われるのだ、な。

マア、日本は集団的自衛権容認と(戦争を想定し?)敵基地攻撃を明記した安保関連三文書の閣議決定で、既に現行憲法を骨抜きにしていく選択をしている。いまさら「〇〇は憲法の理念に反している」と指摘するとしても、法学上の議論ならともかく、実質的な意味合いはほとんどない。

後世代が前世代の意識や意図、目的をリスペクトする気持ちを失った時点で、初めの憲法は時の流れの中で影を薄くし、次第にフェイドアウトし始める。本当は憲法の規定に沿って改正し、公正な形で継承していくのが、国としては誠実な行動だが、それとは反対に外観は同じままで中身を換骨奪胎して実質をアップデートするという日本的政治スタイルは、古くは律令体制の下で進んだ平安時代の「摂関政治」、後にそれを覆した「院政」、近くは戦前期の「大政翼賛会」からも窺うことができる。

【加筆】2023-04-20

2023年4月18日火曜日

ホンノ一言: ドイツの「脱原発」から何を読めるか?

ドイツが最後に残っていた原発施設を停止し《脱原発》を完了したことが、日本では結構評価され、中には憧れている御仁も多々いるようである。

ドイツの合理性を目の当たりに見る思いがします。

オイオイ、ここまで言うか、と思いました。まるで、初恋というか、ドイツに恋しているような発言をする御仁がいる。まるで1930年代、ナチスが政権について以降、躍進をするドイツに目を眩まされた日本の陸軍を連想します。それでなくとも、日本人はベートーベンやゲーテを生んだドイツに憧れる傾向がある。小生もドイツは好きだし、ドイツ語も好きだ。しかし、

ドイツは、時々、大失敗する

これも事実だと思っている。

ドイツの現実は厳しい。エネルギー価格の激変がドイツ経済を蝕んでいくに違いない。ドイツは、これまで共通通貨<EURO>の中に身を隠し、昔ならマルク高を受け入れざるを得ない状況を巧みに避け、長年の経済的繁栄を享受してきた。(英国をはじめ?)欧州諸国がドイツに向ける冷たい視線の裏にはドイツへの妬みが混じっている。しかし、そんな時代は終わった。小生は、今後10年ないし20年をかけてドイツの産業は次第に地盤沈下していくだろうと予想する。そしてEUを主導するだけの経済力はドイツからフランスに次第に移っていくのではないかと思っている ― 但し、持続可能性に弱みがあるフランスの社会保障をスリム化できたとしての話しである。

最近の日経では以下のように報道されている:

現地時間の15日夜、国内の原発3基が電源利用を順次終える。発電量を次第に低下させることで電力網から切り離し、脱原発が完了する予定だ。

原発をめぐる国内世論は割れている。調査会社ユーガブによると、稼働継続に賛成の回答は65%と過半に達した。エネルギー価格の高騰を懸念する有権者が多く、最大野党だけでなく与党ドイツ社会民主党(SPD)の支持者の間でも稼働継続論は根強い。

ドイツの脱原発政策は揺れ動いてきた。1998年に発足したシュレーダー政権では初めて環境政党「緑の党」が連立に加わり、原発全廃の流れを生み出した。続くメルケル政権では電力供給の安定を優先し、原発の稼働期間を延長する現実路線に転換。だが、2011年に東京電力福島第1原発事故が発生すると22年末までの脱原発にカジを切った。

Source:日本経済新聞、4月16日朝刊

当のドイツ国民が「脱原発」に不安を持っていることを日本国内のメディアはあまり強調していない。イギリス、フランスは原発重視に舵を切っているし、フィンランドでも世界最大級の原発が新設され、今月から営業を開始した。

ドイツの脱原発だが、その背景にも日本人は無頓着だ。前にも投稿したが、

次は、ドイツのエネルギー戦略である。東日本大震災で福一事故が起きた直後、ドイツのメルケル政権が《脱原発宣言》を出したことは日本人なら常識の範囲だろう。脱原発を宣言して再生可能エネルギー開発に注力するという「英断」は日本で極めて高く評価されたものである。しかし、ドイツは再エネ一本でエネルギー戦略を推進したわけではない。同じ2011年5月には「ノルドストリーム1・第1ライン」が敷設され、翌年11月に開通している。「ノルドストリーム1・第2ライン」は2011年から12年にかけて敷設され12年10月に開通している。この事業によってロシアからパイプライン経由でドイツまで天然ガスが届くことになった。LNGではなくパイプラインを経由して安価な天然ガスをロシアから直接調達するのは、脱原発と製造業大国・ドイツを両立させる経済政策上の妙手として、ドイツ国内でメルケル政権が支持される強い基盤にもなった。

ドイツの脱原発はロシアの安価な天然ガスに支えられて初めて<合理的な政策>でありえたことを日本のマスメディアはどれほど真面目に伝えて来ただろう?

昨年2月から始まった<ロシア=ウクライナ戦争>と、西側陣営による対ロシア経済制裁でドイツの国際外交戦略は完全に破綻した。《事情変更の法理》に基づけば、ドイツは《脱原発の撤回》を宣言することが本当は合理的な政策選択である。

にもかかわらず、ドイツはその合理的選択をしなかった。

それでもなお、ドイツの国民性を考慮すれば、ドイツ政府は合理的な政策選択をしているはずである。

ロジカルに考えれば、ドイツは「脱原発」を撤回するべき「事情変更」を事実として認めない。こんな認識をしておくべきなのだろう。

つまり、ロシア=ウクライナ戦争で和平が達成された暁には、ドイツは再び伝統的な「東方外交(Ostpolitik)」に立ち戻る。ロシア重視の外交姿勢に(本質的な)変更はない。ドイツはロシアの敵ではない。そんなメッセージをドイツは発しているのだろう。ドイツはドイツの国益に従って政策を選んでいる。

マクロン・仏大統領の発言といい、脱原発を徹したドイツの決定といい、どうやらアメリカの同盟重視、対ロ強硬外交は、もはや空洞化しつつあるようで。後は、日本が「アメリカのために一肌ぬぐ」覚悟を持つかどうかである、な。ロシアも大変だが、アメリカも楽ではない。

そう観ているところだ。 

2023年4月14日金曜日

ホンノ一言: 黄砂は現実の災難、北朝鮮のミサイルは空騒ぎ

このところ日経朝刊に連載されている『陥穽 陸奥宗光の青春』を愛読しているので、自然と江戸末期の儒学者・安井息軒に関心をもつことになった。(メディア大手より信頼されている?)Wikipediaで概略を見てみると、

有名な言葉としては「一日の計は朝にあり。一年の計は春にあり。一生の計は少壮の時にあり。」

こんな説明がある。

全くこの通りだと、この齢になってみてから痛感する。若い頃を思い出すと《一生の計》というのを持っていなかったナア、と。

ま、器が小さかったこと自体は仕方がない。不十分な成果は努力の不足のため、努力の不足は一生の計がなかったから、一生の計を持てなかったのは器が小さかったからである。器が小さいのは生まれ持った才能のためだから、後悔などを覚える必要はない。それが自分に与えられた生であったのだ。

不平、不満は自分自身を知らないことから生まれるものである。

そこへ行くと、エンジェルスの大谷翔平という選手は大したものだ。文字通り、《一生の計》を10代という年齢で立てていたのだから。 

そんな事を思いながら、今朝もワイドショーを見ていると、昨朝の<Jアラート>である。突然、起き抜けに鳴ったから「緊急地震警報か?」と思ってスマホを確かめた ― 確かめざるを得ない。そうすると、飛翔物体が北海道付近に落下する怖れがあるので安全な場所に避難せよということだ。「なんだ、北朝鮮がまたミサイルを撃ったのか」と。そう思いました。何も出来ることはありませぬ……

その騒動が今朝のワイドショーの話題になって、またまた空騒ぎになっているというわけだ。

小生: こういう話題になると出てくるのは元・自衛官になってきたネエ。去年のウクライナ戦争からずっとそうだよ。

カミさん: ミサイルだからそうなるよね。

小生: だけどサ、テレビは、Jアラートが出る前の現場(=自衛隊)と上(=首相官邸)との関係がどうとか、こうとか、細かい話しをしているけどサ、誰も聞かないんだよね。

カミさん: 何を?

小生: これが緊急地震警報なら、もし不幸にして警報が的中したらダヨ、災害対策がすぐに発令されるわけよ。救助対応がスタートする。で、いまのJアラートの北朝鮮のミサイル警報なんだけどネ、もし不幸にしてミサイルが国内に着弾するとか、爆発した後の破片が大都市に落下して被害が出た場合ネ、日本はどうするんだろう?反撃計画とか、報復とか、すぐに《存立危機事態》を政府が宣言して、米軍と連携して自衛隊が軍事活動を展開するとか、そういうことなのかな?

カミさん: そんな事、日本に出来るの?

小生: だからさ、なんで誰も実際に警報通りに命中した時の対応を質問しないのかな?

カミさん: 落ちるはずはないって思ってるからじゃない?

小生: だったら警報なんて要らないだろ?誰が、何のために、日本に危険が及ぶかもしれないって言ってるのかね?

カミさん: さあ…

小生: 大体、北朝鮮がミサイルを撃って日本が困るなら、外務省が声明を発して厳重抗議するとか、北朝鮮政府に言うとか、外交の方でも必要な事をしなくちゃいけないだろ?『外交的にはどう対応するんですか?』ってさ、なんで誰も質問しないのかネ。

カミさん: 北朝鮮ってまるで鬼ヶ島の鬼みたいだね。

小生: そうなんだよ。何しろ北朝鮮と言う国があるということ自体、まだ日本は承認してないんだよね。だから北朝鮮大使が日本にいるわけでもないし、平壌に外務省職員を置いてるわけでもないのさ。それで向こうがミサイルを撃ったから日本でその度に警報を出す。日本国民は右往左往する。それでいて、外交努力は何かしているのかと誰も聞かない。マスコミも「鬼がまた暴れた」とでも言わんばかりの報道さ。平和ボケもここまで来ると、阿呆にみえて仕方がないナア。

カミさん: またストレスになるヨ (笑)

北朝鮮に絡んだ投稿は結構していてブログ内検索をかけると様々なことを書いてきている。

Jアラートでワイドショーの空騒ぎを招くよりは、まず外交交渉が出来る前準備くらいはしたほうが良いのではないかというのは、既に投稿したことがある。

安倍さんには到底無理だったろうが、少しは賢くなってもよいのじゃないか。

ミサイルが落ちるかもしれないとされた札幌駅近くのお婆ちゃんも『いつものことでしょ』とTV画面の中で話してました。これが今の現実だ。

アホちゃうか!

政府、マスコミは日本社会の「上」、庶民は「下」にいる。今年もまた日本は『上はグダグダ、下は冷静』。「どこのどなたか、声高にどなっている人も多いネエ」。何だかこれが、いまも昔も変わらない、日本のお国柄であるってことでしょう。そう思われる昨日の騒動でございました。

大量の黄砂は現実の災難、北朝鮮のミサイルは空騒ぎであった、ということで。



2023年4月12日水曜日

ホンノ一言: 『バイデン政権って信頼できるの?』という感覚がいや増している

 今朝の日経朝刊に米国内金融機関の健全さに関するIMF調査結果が報道されている。

【ニューヨーク=斉藤雄太、ワシントン=高見浩輔】国際通貨基金(IMF)は11日、米地銀の破綻で広がった金融不安が銀行経営や経済活動に与える影響を分析した報告書を公表した。米中堅銀行が金利の急上昇で膨らんだ保有債券の含み損を実際に損失処理すれば、1割弱の銀行が資本不足に陥るとの試算を示した。銀行が融資を絞ることで米欧の成長を下押しするとも指摘した。

Source:日本経済新聞、 2023年4月12日

IMFは世界経済の成長見通しを下方修正したが、更に金融機関の信用収縮が起きる場合の危険性を今日届いたメールマガジンでも伝えている。

Our growth-at-risk metric, a measure of risks to global economic growth from financial instability, indicates about a 1-in-20 chance that world output could contract by 1.3 percent over the next year. There’s an equal probability that gross domestic product could shrink by 2.8 percent in a severe tightening of financial conditions in which corporate and sovereign spreads widen, stock prices fall, and currencies weaken in most emerging economies.


 ところが、イエレン財務長官はこう語っている。

イエレン米財務長官は、最近の銀行混乱にもかかわらず世界経済は半年前より良くなっているとの認識を示した。

イエレン氏は11日の首都ワシントンでの講演で、自らが2月に表現していた、世界経済は「昨秋に大方が予想していたよりも良好な状況だ」との見方を振り返り、「その基本的な状況はおおむね変わっていない」と続けた。発言は講演原稿に基づく。今週は世界銀行と国際通貨基金(IMF)の春季会合が開かれる。

Source:Bloomberg、2023年4月12日 0:50 JST

世界経済情勢が改善されているなら、なぜIMFは成長見通しを下方修正したのか…?

分からぬ。道理が通っていない。大丈夫?

バイデン政権が進めている政治は、外交については何だか「下手くそだナア」と思いながらフォローしてきているが、ここに来て外交だけではなく金融財政面も「こっちも結構、下手クソだよ」と、そう感じ始める今日この頃でございます。

予測区間の中の悪い可能性が現実になるかもしれない。


2023年4月8日土曜日

覚え書き: 日本のマスコミと米国のマスコミとの違いの一例?

 日本経済新聞は傘下に英紙"Financial Times"を有しているからか、その後光(?)で日経本紙への信頼性も高まっている感触なのだが、WEBでFTの主要記事を和訳して提供しているのは非常に有益だ。

その中に、『始まった新産業革命 根本から変わる製造業』というのがあって、これが中々読ませる内容になっている。

ほとんどの人はテックブームは終わったと考えているだろう。米シリコンバレーバンク(SVB)の破綻は投資家を戦慄させ、金利上昇で米テック各社の株価は調整局面に入っている。

だが我々は今、まさに技術革新と投資の新たな黄金時代に突入しつつあると筆者はみている。これまでとの違いは消費者向けではなく、産業向けの技術革新が進むということだ。

(中略)

これは長く待ち望まれてきた変革だ。米中分断やコロナ禍、ウクライナ戦争などの要因で変革は加速しつつあり、私たちの経済を根本から変えるだろう。米ナスダック市場はさらに大きな調整が入る可能性はあるが、こうした動きから筆者はまだ伸びるとみている。

一つ不明なのは、新産業革命が大量の失業をもたらすのかどうかだ。才能ある技術者は消費者向けソフト開発から産業向けへと移り始めている。だがAIに加え、必要な労働力を劇的に減少させられるハイテク工場の出現などで必要な労働者数は減っている。

ただ、アプリ経済はそれまで存在していなかった職種を創出したのも事実だ。新たな産業革命も想像もつかなかったような新しい仕事をもたらしてくれるかもしれない。

Source:日本経済新聞、 2023年4月7日

《技術革新》は幾ら進んでも失業者増大をもたらさない。一時的に職を失う人が出るかもしれないが、最終結果としては《豊かな社会》がもたらされ、人は辛い労役から解放される。これが歴史的に立証されてきた真理である。何もかも人工知能とロボットが生産活動をやってくれれば、人は金銭のために働く、いわゆる「労働」をする義務から解放される。至福の社会とはそんな社会であるのがロジックだろう ― 分配の問題は、ベーシック・インカムか民間企業を否定する社会主義か何らかの方法で、解決する必要がある。

働いてマネーをもらうのでなければ「生きがい」がないという御仁もいるだろうが、そんな人は更にいっそう技術を向上させる研究開発と取り組めばよい。必ず報酬を伴うはずだ。

インターネットを活用したICT技術にかける期待は、ずいぶん昔から万国共通のものがあって、上に引用したような感覚は日本社会でも共有されているのだろう。

ところが、経済学者・クルーグマンは、このブログでも(購読紙の関係があって)何度も引用しているが、かなりの硬骨漢で、かつへそ曲がりであるようだ — ここが正に研究者としては欠かせない性格なのだが。

先日もこんな事を書いている。chatGPTなどの人工知能(AI)に関連したコラムだった。

Life being what it is, several people came back at me, citing a prediction I made in 1998 that the internet’s growth would soon slow and that “by 2005 or so, it will become clear that the internet’s impact on the economy has been no greater than the fax machine’s.”

そもそも1998年の時点で

インターネットの普及はかつてファックスが普及したことによる影響と同程度のものになるだろう・・・

そう指摘していたわけだ。 あの時点で、このような予測をするのは、かなりのへそ曲がりである。ただ、データとしてはクルーグマンの指摘がほぼ正しく、インターネット普及による生産性向上効果は数値の上でほとんど認められていない、というのがRobert Gordonなど一流の経済学者による研究成果である。

Maybe the key point is that nobody is arguing that the internet has been useless; surely, it has contributed to economic growth. The argument instead is that its benefits weren’t exceptionally large compared with those of earlier, less glamorous technologies. For example, circa 1920, only about one in five U.S. households had a washing machine; by 1970, almost everyone had one or access to one. Don’t you think that made a big difference? Are you sure that it made less difference than widespread access to broadband?

インターネットが無用のものだったとは言わない。しかし、考えて見たまえ、確かにYoutubeから音楽のライブ・ストリームを愛聴するなど、私たちの生活は大いに充実したものになった。が、1920年代に普及率が2割だった洗濯機が1970年には全家庭が利用するようになった。これもブロードバンドの普及と同程度に豊かな社会をもたらしたとは言えないか?

第2次大戦後の20世紀後半と言う時代は、「洗濯機」の他にも世の中を変えた新商品が続々と登場した時代であった。だから、生産性向上がデータからも確認できたのだ。

この点をクルーグマンは新聞紙面で指摘している。

異端であるが、するべき指摘を客観的なデータを示してマスメディアで示す。いま日本社会に最も欠けているのは、これが出来る有識者だろう。『その通りなんです』とばかり発言する識者には大して価値がないと思うがどうだろう?

昔から言われている事だが、

犬が人間を噛んでもニュース価値はない。人間が犬を噛んだときにニュースになる。

つまり、ニュースと言うのはサプライズが伴う情報でなければならない。

ところが、今の日本社会で目立つのは

犬が《また》人間を噛みました

日常の出来事がいかに日常であるかを報道している傾向がある。何のつもりだろう?その背後には《日常に対する冷たい視線》 が隠れている。おそらく

日本の日常社会を変えなければいけない

よく言えば<使命感?>のような思いがあるのかもしれない。しかし、一体誰が、マスメディア従業員にそんな役割を依頼したのだろう。

よほどの実績があるエリートであればそんなエヴァンゲリスト(=伝道師 or 預言者)的な心理もあるのだろうが、それなりに満足して暮らしている住民には『そこがダメなのだ』とばかり言われるのは、それはそれで不愉快なものだ。



2023年4月5日水曜日

ホンノ一言: モーニングショーで「経済ホラー漫談」を流すこともあるのか

カミさんととる朝食時のルーティンの一つは『羽鳥慎一モーニングショー』である。

今日の話題は<債務超過に陥るかもしれない日銀最悪のシナリオ>だった — 文言は正確でないかもしれないが。

民間シンクタンクの経済専門家がゲスト・コメンテーターをしていて、大体のシナリオはその通りであったが、「自動車を運転していて対向車が正面から逆走してくる最悪の事態もありますヨネ」と、そんな話しにもなっていて、まるで《落語》というか、《経済ホラー漫談》に近い語りであった。

まあ、民放が提供する番組だから、それでもよいのだが、

今のタイミングで、なぜ普通の日本国民を脅かすようなこんな話を放送するかなあ?

これが素朴な疑問として残った。ひょっとすると

だから、財政をきちんと正常化しないと持たないンです。日本の破綻を防ぐには今が瀬戸際なンです。放っておくと、「年金4割カット」も悪夢じゃないです。防衛費4割カットも大いにありうる未来予想図です。そしたらどうします。だから、今は我慢して、増税を受け入れるしかない。ギリシアのようになってから泣くよりマシでしょう?分かりますか?

こんな説得をどこか、あるいは誰かから頼まれたのではないか、と。

タイミングよく今日届いたIMFのメールマガジンにはこんな下りがあった。

Finally, high levels of interconnectedness among NBFIs and with traditional banks can also become a crucial amplification channel of financial stress. Last year’s UK pension fund and liability-driven investment strategies episode underscores the perilous interplay of leverage, liquidity risk, and interconnectedness. Concerns about the country’s fiscal outlook led to a sharp rise in UK sovereign bond yields that, in turn, led to large losses in defined-benefit pension fund investments that borrowed against such collateral, causing margin and collateral calls. 

英国のトラス前首相が就任後わずか45日で辞任する契機になったのは財政危機に対する「危機感の欠如」にあった。

英国財政への不安から国債保有リスクが意識され利回りが急上昇(=国債価格が暴落)、その国債を担保にして借り入れで資金を調達していた年金ファンドは証拠金の積み増しを求められたり、やむを得ず国債売却に迫られて、国債市場は崩塊、ノンバンク金融機関までが経営危機に陥り、金融不安は衝撃波のように拡大していった。

確かに今日のモーニングショーは<ホラー番組>であったが、2022年10月というホンノ少し以前に英国を舞台にして「経済ホラー劇」が地で演じられたことを思い出すと、単なる「経済放談」とばかりは言えない。

リアルな予想として念頭に置くべきだ。そう感じた今朝で御座いました — とは申しましても、カミさんは、大丈夫だよ、その時はその時だヨと、呑気に構えております。大半の視聴者はそんな塩梅なのでございましょう。もう民主主義の限界と思うしか御座いませぬ。

2023年4月4日火曜日

覚え書き: 日本はともかくアメリカの『インフレが中々おさまりません』は言い過ぎではないか

アメリカの物価上昇が中々緩やかにならず、FRBの今後の金利引き上げ政策は困難な選択に直面していると、このところよく聞くようになった。

「困難な選択」というのは、もちろん、急速な金利引き上げは債券価格の暴落を招き、金融機関の経営を不安定にするからだ。そして、この問題は、近い将来、日本銀行や日本国内の銀行を脅かすかもしれず、日本のマスコミも視聴者を怖がらせる材料になると踏んでいるのだろう。

さすがに金融政策はワイドショーでは扱いかねるのか話題になる事も少ないが、夜のニュース番組では頻繁にとりあげられている。

そこで、よく聞くのは

アメリカの物価が中々下がりません……

という説明で、これを聞くたびに、

上がった物価は、いずれ下がるとでも思っているンですか?

と、発言の真意を確かめたくなるのだ。

上がった物価は、下がりませんヨ!下がればデフレじゃないですか。

スタジオの現場にいれば、こんな突っ込みを入れたくなるのは間違いない。

アメリカのインフレが中々止まらないというとき、見ているデータは(月々の変動が激しい)食料、エネルギーを除く消費者物価指数の前年比上昇率(コア・インフレ率)であることが多い。食料、エネルギーに加えて家賃まで除いて見ることもある。

ただ、小生の習慣では

対前年比は高さをみる。動きを見たいなら直近の対前月比をみる。対前月比をみる時は、季節変動が混じるので、物価統計であっても季節調整済みを使う。

一貫してこうしてきた。

ところが、高さをみる時に参照する前年比上昇率がまだ6%程度の値を示しているのをみて、

物価が中々下がりません

と経済ニュースのアナウンサーは嘆いているのだ。

FRBが目指しているインフレ・ターゲットは2パーセントである。故に、政策目標を達成した後であっても、物価が(緩やかではあるが)上昇を続けるのは、小学生でも分かる理屈だろう。

つまり、FRBも急上昇した物価を下げるつもりはない。上がったまま。もっと上がってもよい。こう考えている。本当に、日本のマスメディアはこの点を分かっているのだろうかと思うことがある。

それともう一つ。

FRBが目標とする年率2パーセントというインフレ率。足元の対前年比では判断できない理屈だ。足元でたとえ下がっていても、対前年でなお10%高ければ、前年比は10%と出る。前年比10%だからインフレを抑えるのが最優先だと考えて、既に下がり始めている物価をもっと下げれば、力でデフレに持っていく政策と変わるまい。これではまるで1990年代の日本政府と同じである。

だから、直近のインフレ動向を見るには、季節調整済みの前月比を見るのが理屈には適うのである。しかし、何故か実質GDPは前期比を見るが、物価は前年比をみて動向を判断している。実に、バランスせず、一貫していない。

よく使うコアインフレ率は、その元になる指数値がセントルイス連銀のFREDから採れないので、CPI総合で見よう。

まず前年比上昇率は下図のようになる。




直近月は2月である。これを見ると、なお6%程度のインフレ率になっていて、ターゲットの2%からは程遠い。インフレ抑制のための金利引き上げを継続する必要がまだまだありそうだ。ただ、これは足元の物価が前年同月に比べて、どの位高いかという<高さ>の判断だ。

では、足元で、つまり今年の2月時点において、CPIは上がっているのか、下がっているのか。これを見るには季調済前月比をみる必要がある。それが下の図だ。既に、物価上昇は定常状態に入りつつある兆しが見られる。


もちろん、上のグラフをみても、足元で物価は上がり続けている。前月比上昇率がマイナス値にはなってはいないからだ。但し、上昇率は6%という高さではなく年率5%を割っている。また、CPI総合に混じっているランダムな動きを相殺するため3か月中心移動平均をとると、既に年率3%台の上昇になっている。この上昇率は2015年1月から2019年12月までの平均値である年率1.9%よりは高い(青い線)。しかし、インフレターゲットである年率2%にかなり近い情況に戻ってきている。

実際、実質価値を担保する10年物物価連動債と通常10年物との利回り差、つまりブレークイーブン期待インフレ率をみると、今後10年間の期待インフレ率はほぼほぼ2%程度であることが分かる。


source: https://shigeru-nishiyama.shinyapps.io/us_main_economic_indicators/

確かにコロナ禍の以前に比べると、期待インフレ率は高い水準にはある。しかし、コロナ禍前の何年かはKrugmanが「過剰な引き締めによって失われた雇用が無視できない」と批判している何年かなのである。

以上のように、基本的なデータを一瞥すると、
インフレが中々おさまりません
と嘆くような状況にはなってない、というのが小生の感想だ。



2023年4月1日土曜日

ホンノ一言: 子育て支援の財源=医療保険料引上げという案は難しいのでは?

異次元の子育て支援を実行するには、先ずは数兆円規模の財源を見つける話になる。

その財源は、国民に広く薄く負担してもらうというのが基本になる。それでかどうか、医療保険料引き上げで調達する案が検討されているようだ。

それで、すぐに気になった点:

確かに年金保険料となると、国民年金保険料は(いまは)原則20歳から60歳の人が納付するだけである。厚生年金保険料は雇用されている勤労者だけだ。医療保険ならほぼ全ての日本人が入っているので負担を求めやすいのは分かる。

しかし、病気治療とは別の「子育て」が医療保険支払いの事由になれば、保険診療の公費負担の財源が侵食される。故に、医療の診療報酬が抑えられる原因になりうるのではないか、という懸念が出てくる。保険診療の対象拡大が抑制されることへの懸念も高まるのではないか。

なので、病気治療とは明らかに異なる「子育て」を医療保険で支援するという案には、日本医師会が(最終的には)反対すると予想される。そう観ているところだ。


それに、社会保険料を引き上げれば企業にも折半という形で負担が及び、これまた賃金抑制の原因となる。こんなやり方をするよりは、企業には従業員への賃金引上げという形で家計の収入を増やしてもらう、それが出来るように生産性を上げる経営努力をしてもらう、そのための経済環境を政府が整える、というのが合理的な議論である。そうでなくとも、政府は60歳以上従業員の再雇用を義務化するなど、本来なら政府が時代に適合するように働き方や年金制度をアップデートしなければならないにも関わらずそれを怠り、その怠慢のツケを民間企業に払わせているところがある。政府(というより自民党&公明党の?)のそんな怠慢が日本経済の活力を奪ってきたことを忘れるべきではない。マ、これは付け足しである……、つい「また安直にすませるつもりか」と、憤慨の念を覚えたもので。


マア、北海道の小さな港町で暮らしていてもすぐに気が付いた位なので、関係している方々は当然分かっているのではないだろうか。

今日は文字通りの一言メモということで。