ドイツが最後に残っていた原発施設を停止し《脱原発》を完了したことが、日本では結構評価され、中には憧れている御仁も多々いるようである。
ドイツの合理性を目の当たりに見る思いがします。
オイオイ、ここまで言うか、と思いました。まるで、初恋というか、ドイツに恋しているような発言をする御仁がいる。まるで1930年代、ナチスが政権について以降、躍進をするドイツに目を眩まされた日本の陸軍を連想します。それでなくとも、日本人はベートーベンやゲーテを生んだドイツに憧れる傾向がある。小生もドイツは好きだし、ドイツ語も好きだ。しかし、
ドイツは、時々、大失敗する
これも事実だと思っている。
*
ドイツの現実は厳しい。エネルギー価格の激変がドイツ経済を蝕んでいくに違いない。ドイツは、これまで共通通貨<EURO>の中に身を隠し、昔ならマルク高を受け入れざるを得ない状況を巧みに避け、長年の経済的繁栄を享受してきた。(英国をはじめ?)欧州諸国がドイツに向ける冷たい視線の裏にはドイツへの妬みが混じっている。しかし、そんな時代は終わった。小生は、今後10年ないし20年をかけてドイツの産業は次第に地盤沈下していくだろうと予想する。そしてEUを主導するだけの経済力はドイツからフランスに次第に移っていくのではないかと思っている ― 但し、持続可能性に弱みがあるフランスの社会保障をスリム化できたとしての話しである。
最近の日経では以下のように報道されている:
現地時間の15日夜、国内の原発3基が電源利用を順次終える。発電量を次第に低下させることで電力網から切り離し、脱原発が完了する予定だ。
原発をめぐる国内世論は割れている。調査会社ユーガブによると、稼働継続に賛成の回答は65%と過半に達した。エネルギー価格の高騰を懸念する有権者が多く、最大野党だけでなく与党ドイツ社会民主党(SPD)の支持者の間でも稼働継続論は根強い。
ドイツの脱原発政策は揺れ動いてきた。1998年に発足したシュレーダー政権では初めて環境政党「緑の党」が連立に加わり、原発全廃の流れを生み出した。続くメルケル政権では電力供給の安定を優先し、原発の稼働期間を延長する現実路線に転換。だが、2011年に東京電力福島第1原発事故が発生すると22年末までの脱原発にカジを切った。
Source:日本経済新聞、4月16日朝刊
当のドイツ国民が「脱原発」に不安を持っていることを日本国内のメディアはあまり強調していない。イギリス、フランスは原発重視に舵を切っているし、フィンランドでも世界最大級の原発が新設され、今月から営業を開始した。
ドイツの脱原発だが、その背景にも日本人は無頓着だ。前にも投稿したが、
次は、ドイツのエネルギー戦略である。東日本大震災で福一事故が起きた直後、ドイツのメルケル政権が《脱原発宣言》を出したことは日本人なら常識の範囲だろう。脱原発を宣言して再生可能エネルギー開発に注力するという「英断」は日本で極めて高く評価されたものである。しかし、ドイツは再エネ一本でエネルギー戦略を推進したわけではない。同じ2011年5月には「ノルドストリーム1・第1ライン」が敷設され、翌年11月に開通している。「ノルドストリーム1・第2ライン」は2011年から12年にかけて敷設され12年10月に開通している。この事業によってロシアからパイプライン経由でドイツまで天然ガスが届くことになった。LNGではなくパイプラインを経由して安価な天然ガスをロシアから直接調達するのは、脱原発と製造業大国・ドイツを両立させる経済政策上の妙手として、ドイツ国内でメルケル政権が支持される強い基盤にもなった。
ドイツの脱原発はロシアの安価な天然ガスに支えられて初めて<合理的な政策>でありえたことを日本のマスメディアはどれほど真面目に伝えて来ただろう?
昨年2月から始まった<ロシア=ウクライナ戦争>と、西側陣営による対ロシア経済制裁でドイツの国際外交戦略は完全に破綻した。《事情変更の法理》に基づけば、ドイツは《脱原発の撤回》を宣言することが本当は合理的な政策選択である。
にもかかわらず、ドイツはその合理的選択をしなかった。
それでもなお、ドイツの国民性を考慮すれば、ドイツ政府は合理的な政策選択をしているはずである。
ロジカルに考えれば、ドイツは「脱原発」を撤回するべき「事情変更」を事実として認めない。こんな認識をしておくべきなのだろう。
つまり、ロシア=ウクライナ戦争で和平が達成された暁には、ドイツは再び伝統的な「東方外交(Ostpolitik)」に立ち戻る。ロシア重視の外交姿勢に(本質的な)変更はない。ドイツはロシアの敵ではない。そんなメッセージをドイツは発しているのだろう。ドイツはドイツの国益に従って政策を選んでいる。
マクロン・仏大統領の発言といい、脱原発を徹したドイツの決定といい、どうやらアメリカの同盟重視、対ロ強硬外交は、もはや空洞化しつつあるようで。後は、日本が「アメリカのために一肌ぬぐ」覚悟を持つかどうかである、な。ロシアも大変だが、アメリカも楽ではない。
そう観ているところだ。
0 件のコメント:
コメントを投稿