2022年3月25日金曜日

断想: マスコミが決して触れないことが実は大事な問題であるケース

何かについて議論している中で、話題になるべき事柄が決して話題にはならないとすれば、そこには何らかの意図があるわけだ。話し手のホンネや(知られたくない、と話し手が考えている)真の問題の所在が「語られない」、「わざと話さない」、「触れようとしない」という行為の背後には隠されているものだ、というのは誰でもピンと来る経験則であろう。

今日の投稿はその一例ということで。

ロシアによるウクライナ侵略が2月24日に始まって間もなくの段階で、チェルノブイリ原発施設がロシア軍に攻撃され占拠されてしまった。『原発施設まで攻撃するのか!』という驚きが日本国内にも広がったのは、まだ記憶に新しい。ところが、メディアによるその後の説明振りをフォローしているうちに、当然触れるべき点が触れられないことが自然に分かってきた。

一つは、チェルノブイリ原発事故という空前の大事故をひき起こした国であるにも拘わらず、現在のウクライナは4原発・15基を運用する世界第8位の<原発大国>になっている事実だ。ウクライナはなぜこんなエネルギー戦略を採っているのか、かなり周知の事でもあるが、やはりマスコミもこの辺については語るべきだろう。

もう一つは、ウクライナは黒海に面しており、海のない「内陸国家」ではないにも拘わらず、どの原発施設も沿岸ではなく内陸部に入った地点に置かれているという点だ。どの原発施設も海に面した場所を選んで設けられていないところは日本とは大いに事情が違っている。この理由は何か?これもマスコミは気がついているはずなのだが、正面から話題にしようとはしない。いうまでもなく、地震国・日本で15メートル超の津波に襲われれば極めて危険になることが予想出来ていたはずの福一原発とはウクライナの立地選択は基本方針から大きく違っているようなのだ。なぜ日本人はこの理由を知りたがらないのだろう。この点を掘り下げれば、非常に興味深い解説になるはずなのだが、(どういうわけか)どのTV局も新聞社もとりあげようとはしていない。

次は、ドイツのエネルギー戦略である。東日本大震災で福一事故が起きた直後、ドイツのメルケル政権が《脱原発宣言》を出したことは日本人なら常識の範囲だろう。脱原発を宣言して再生可能エネルギー開発に注力するという「英断」は日本で極めて高く評価されたものである。しかし、ドイツは再エネ一本でエネルギー戦略を推進したわけではない。同じ2011年5月には「ノルドストリーム1・第1ライン」が敷設され、翌年11月に開通している。「ノルドストリーム1・第2ライン」は2011年から12年にかけて敷設され12年10月に開通している。この事業によってロシアからパイプライン経由でドイツまで天然ガスが届くことになった。LNGではなくパイプラインを経由して安価な天然ガスをロシアから直接調達するのは、脱原発と製造業大国・ドイツを両立させる経済政策上の妙手として、ドイツ国内でメルケル政権が支持される強い基盤にもなった。

もちろん、この政策にはデメリットもあったわけである。例えば、ノルドストリームについてはWikipediaにこんな説明もある:

米国は同パイプラインがドイツを含む北大西洋条約機構加盟国に対するロシア政府の影響力を強めかねないと懸念しているため、2018年7月11日、ドナルド・トランプ大統領は、北大西洋条約機構事務総長との朝食会の場でノルドストリーム2計画について触れ、アメリカがドイツを守るために数十億ドルも払っているというのに、ドイツはロシアに(ガス代として)数十億ドルを支払っていると批判。その場に居なかったドイツのアンゲラ・メルケル首相は、別途、ドイツは独立して決断を下しているとしてトランプ大統領の批判に反論した。

ドイツは「ノルドストリーム1」に加えて、「ノルドストリーム2」の敷設計画も進めたものの、今回のウクライナ侵攻で(多分永久に?)それが凍結されたことはドイツの歴史的な戦略転換であるとして、驚きをもって受け止められている。そういう現状なのだが、この筋道を要約すれば、ドイツがとったエネルギー政策は

日本の原発事故→脱原発宣言→グリーンエコノミー戦略

という思考ではなく、実際にドイツが進めてきた政策は

対ロシア融和政策→低価格天然ガス輸入→福一事故→脱原発→再エネ投資拡大

という極めて現実的な併せ技であったという事実だ。

そもそもノルドストリームは東日本大震災直後の2011年5月に敷設されている。交渉、契約、着工等々の時間を考えれば、ドイツがロシアから安価な天然ガスを調達する「ノルドストリーム計画」は、東日本大震災以前から独ロ間で協議されていたはずである。これがなければ「脱原発」などが出来るはずがない。つまり、ドイツが脱原発宣言を行った胸のうちは、福一原発事故をきっかけにした経済グリーン化という理想主義ではなく、むしろドイツに伝統的な東方外交(Ostpolitik)に沿った対ロシア貿易拡大戦略が先にあり、たまたま発生した日本の原発事故を好機にノルドストリーム事業を加速させ、併せて脱原発宣言を行ってグリーン投資を拡大させる。一つの経済戦略としてドイツを眺めると「ああ、そうだったか」と合点が行くのである。

ドイツの「脱原発宣言」は、あの当時、妙にタイミングが合い過ぎる、というかあまりにピッタリであったので、「何を考えているのか?」と不審な印象をもったが、よお~く考えると納得がいくわけだ。

で・・・今回のウクライナ動乱で流石のドイツも「ノルドストリーム2」を諦めて、今後は徐々にロシア産天然ガス買取り量を削減し、ロシア依存を低下させて行く方針を明らかにした。脱原発方針もこの中で再検討するとショルツ・独首相は明言した。ま、いうなれば《メルケル外交》の破綻である。

この点についても、日本のマスコミは何も(それとも最小限でしか)とりあげていない。日本国内でもいま《電力不安》は高まっており、エネルギー計画が極めて重要な経済政策上の問題になっている。それにも拘らず、非常に参考になるはずのウクライナの原発政策、ドイツのエネルギー戦略を話題にとりあげようとしない。それには触れずして、キエフ近郊でロシア軍が後退したとか、塹壕を掘って防御態勢をとったとか、この種の話ばかりをしている。

何を報道するか、何を話題にするかは、メディア企業の権利であるとよく主張されるわけだが、小生には無責任な<はぐらかし戦略>で風を読んでいるように見える。「旧・西側陣営」の中にもロシアとの経済関係、利害関係の違いがある事、その違いによって思惑や行動方針にも違いが生じていることには出来るだけ触れないようにしているようだ — 違いに目を向けることは、日本には日本の国益があるという点に国民的意識が向かうわけで、日本のマスメディアなら当然持つべき意識ではないのだろうか、と小生は思うのだが、違うのだろうか?

アメリカは先頭を歩いている国であるせいか、基本方針の選択については異論、反論あり、新聞などのメディアも様々な意見を敢えて掲載している。しかし、日本はアメリカの背中だけをみて歩いているようだ。日本国内のマスコミまで足並みをそろえて統一見解を支持する義務はないと思うのだが、<社の方針>として何かがあるのだろうか?

情けないネエ

と感じ続ける今日この頃で御座います。

言うべき事、語るべき事を明確に自覚しながら、世間の風を読んで語ることを避けているのであれば、単に<情けない>という批判を超えて、<有害な放送姿勢>というべきだろう。プラスの公益が提供されないまま電波資源が浪費されていると非難されても仕方がない。もう放送事業の認可は5年か10年の有期制にして、審査に合格しない場合はオークションで電波再割り当てをするのが<公正>、英語で言えば"Justice"に沿うというやり方だろう。マ、現代日本の民間放送ビジネスはドラマやバラエティなどリアルの世界とは異なる虚構の番組を編集してCMを視聴させることが目的である、と。こう達観することも出来る。ニュースや情報番組が公益に寄与しているかどうかは、そもそも問題ではないとも言える。しかし、そうであれば市場競争の中に置いて資源配分の効率性を日常的にチェックする状態に置くべきだろう。こんな主旨のことは、もう何度も投稿した。またまた書いてしまった。単純反復は嫌いなのだが、話の流れからやむをえず、ということで。


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