先日のWall Street Journalが中露経済関係の現状について記事を載せていた。早速、Evernoteに保存する際にアンダーラインを付した箇所だけを抜粋して要約に代えよう:
中国は、ロシア経済を下支えし、ウクライナでの戦争を助ける上でますます重要な役割を果たしている。
今年1~7月の対ロシア貿易総額は前年同期比36%増の1340億ドル(約19兆5400億円)となり、ロシアは貿易相手先としてオーストラリア、台湾に次ぐ。
中国製品は今や、ロシアの輸入の45~50%を占めている。その比率はウクライナ侵攻前には25%程度
今年1~7月の中国の対ロシア輸出は、中国の輸出全体が5%減る中で73%増えた。
ロシアのウラジーミル・プーチン大統領が一部で予想されていたほど早く勝利を収められないことが一段と明白になり始めた1年前、ロシアによる中国製土木作業機器の輸入が急増し始めた。
ウクライナ国内(の占領地)でのロシアの要塞建設を、中国企業が可能にした
中国の今年1~7月のロシアからの輸入額は、前年同期比17%増の711億ドルに達した。
ロシアの需要のおかげで、中国は日本を抜き自動車輸出世界一となっている。
中国の今年上半期のロシア向け自動車輸出台数は34万1000台超と、前年同期のほぼ6倍に増えている。
Source: Wall Street Journal
Date: 2023 年 8 月 23 日 06:39 JST
Author: Austin Ramzy in Hong Kong and Jason Douglas in Singapore
URL: https://jp.wsj.com/articles/booming-trade-with-china-helps-boost-russias-war-effort-42ca62f5
朝鮮戦争の折には日本が戦争特需の受け手になり日本の戦後復興が確実なものになった。それと同様の経済事情が、多くのリスクを抱える今の中国経済にはあるようで、ロシア=ウクライナ戦争の特需が中国経済の崩壊を何とか防いでいる ― 中国経済のマクロ的不均衡が顕在化して長期低迷に入れば、日本経済が蒙る打撃は深刻になる。 ウクライナ勝利のためには、その位の打撃は日本としてもウェルカムだという御仁は、そうなってからどう感じるかを表明すればよい。
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ロシア自体の経済状況についてもWSJはこんな記事を載せている。やはりアンダーラインを付けた箇所を並べることにすると:
ロシア政府は、ウクライナに駐留する自国軍に十分な物資を供給し、国内企業や市民を戦争から遮断しておくため、自国経済に大量のマネーを注入してきた。
今週に入り、ルーブル相場は開戦当初以来の安値に下落。
主要政策金利を3.5ポイント引き上げ12%とした。通貨を安定させ、インフレを抑える必要性を理由に挙げた。中銀によると、過去3カ月の物価上昇率は年率7.6%に達している。
ロシアは最も長期にわたり持ちこたえることができる数少ない国の一つだ。
来年3月の大統領選挙を前に、同氏は軍事生産を増強すると同時に、国民をなだめる必要があるからだ。
国内総生産(GDP)に占める政府支出の割合は、今年1-3月期に前年同期比13.5%増となり、1996年までさかのぼるデータで最も高い伸び率を記録した。
ロシアが自国工場で生産する能力はすでに限界に達している。
ロシアの工業企業の約65%が輸入設備に依存している。
今年1~7月の財の輸入は18%増加した。中国からの輸入が急増している。
技術面で高まるロシアの孤立は、戦争前でさえ暗かった長期的な経済成長見通しをさらに低下させる見込みだ。労働力は人口の高齢化に伴い、10年余り前から縮小し続けている。
ロシアは1990年代以降で最悪の労働力不足に見舞われている。
ロシア経済に残された供給はほぼなくなり、必然的な結果としてインフレが起きるだろう。
Source: Wall Street Journal
Date: 2023 年 8 月 18 日 12:54 JST
Author: Chelsey Dulaney and Georgi Kantchev
URL: https://jp.wsj.com/articles/russias-war-torn-economy-hits-its-speed-limit-7a4f5f83
ホボ、ホボ、予測通りの経済状況になりつつある。
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いわゆる《戦争経済》は、マクロ経済学の中では比較的古くから発展した分野で、遠くはケインズの『戦費調達論("How To Pay For The War" )』以降、議論は国民所得統計ベースで展開される。日本においても、太平洋戦争開戦直前の時期、「秋丸機関」や「総力戦研究所」で想像を超えるほど緻密に経済分析が行われ、開戦後の経済動向が予測されていたことは、牧野邦明『経済学者たちの日米開戦―秋丸機関「幻の報告書」の謎を解く』や猪瀬直樹『昭和16年夏の敗戦』で詳細に述べられているとおりだ。戦時において一国の経済がどのような状況になるかは予測可能なのである。
この話題については昨年も本ブログで投稿している。たとえば<ロシア 消費>でブログ内検索をかけると、結構な数がかかってくる。
たとえば、こんなことも書いている。少し長いが一部を抜粋して再掲しておこう:
これは非常に大問題だ。特に歴史的に縁が深く、政治理念が似通っており、かつ長い国境を接している中国にはロシアの経済的混乱を防止する強い動機がある。ロシア財政が危機に陥れば、中国は必ずロシアを経済支援する。
マクロ的には総供給と総需要は必ず均衡しなければならない。総供給はGDPと輸入の合計、総需要は民需+公需+輸出である。つまり
Y+M=C+I+G+E
である。
いま軍事費という政府消費支出(G)が急増している ― 消費計上時点に関するテクニカルな部分は無視しておく。輸出は経済制裁で急減しているから双方がキャンセルすればマクロ的にはバランスを維持できる可能性はある。しかし、石油需要の急減で生じた余剰生産力を弾薬やミサイルの増産に転用できるわけではない。石油輸出需要の減少はそのまま左辺のGDP(Y)の減少になる可能性が高い。そもそもエネルギーの対西側輸出が減少する分を対中輸出でカバーしようと考えている。右辺の外需(E)は(ロシアにとって幸いに)変わらないとしよう。となれば、軍事費が増える分、消費などの民需を削減しなければ供給とバランスしない。消費需要はほぼ確実に落ちるのだ。が、それにも限度がある。従って、もしロシアの労働資源に余裕がないと仮定すれば、戦争経済を回すためには輸入を増加させるしかない(主に"Made in China"の消費財だろう) ― 自家消費で何とかしのげるとしても限界があるだろう。ロシアの国際収支は必然的に悪化して、ほぼ確実に赤字になるはずだ ― 普通、戦争をすれば財政は破綻し、国際収支も大赤字になるものだ。その赤字は海外からの資金調達で賄う必要がある。海外からみればロシアへの債権増加、つまり対ロシア投資である。しかしロシアは強い経済制裁を受けている。故に、具体的には、中国がロシアへの(金融)投資を増やさなければロシア経済が維持できない。一言でいえば、ロシアは中国からツケ(=負債)で消費財を輸入して国民生活を維持するのである。これが唯一の方法である。
昨年4月の投稿だ。つまり、この位は最初から分かっていたことでもある。
プーチン大統領はよほど短期間に決着させる自信があったのだろう。それが意に反して長引いている。結果は、大体、理屈の通りになっているようだ。
意に反して戦争が長引いてしまい経済的苦境に陥っているのは日本が太平洋戦争を仕掛けて失敗した例とうり二つである。
いま中国が(多分)人民元ベースのツケ(=信用|売掛金|融資)で対ロシア輸出を増やしている。それを軍事用に転換して戦争で使っている。
(ある時払いの?)ツケで商品を輸出するのは、限りなく贈与に近く、軍事支援にも見える。が、表向きは貿易取引である。この大半は貸し倒れ、もしくは回収不能になるに違いない。中国経済の先行きも暗い。
これまた必然的結果である。
そうなるだろうことがそうなっている……、だから、こうなればこうすると決めていた(はず)ことをバイデン政権は実行すればよい。
そのバイデン政権に日本もついていくかは(その時になって?)日本が決めることだが、その戦略的効果は日本とアメリカとでは対称的ではなく、多分、日本により大きなマイナス効果が及ぶだろうと思われる。結構深刻になるはずだ。そのマイナス効果を上回るプラスの戦略的効果を欧米から期待できるなら、日本はバイデン政権の選択に(とことん)追随していくと予想している。
【加筆】2023-8-27
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