アメリカのFRBが、2022年春以来、それまでの微温的姿勢をかなぐり捨てて「攻撃的金利引き上げ政策」に打って出てから、
いずれアメリカ経済は景気後退に陥るはず
という見通しが主流を占めてきた。この予想自体は実にオーソドックスだった。
いまインフレは次第に落ち着いてきている。
しかしFRBはデータを一つ一つ見極めながら決めるという姿勢を崩していない。
「それでは遅すぎる」という意見が足元で増えている。そんな人は、現在もなお
近くアメリカの景気は後退へ向かう
と信じ切っているようだ。「当然、そうなる」と言わんばかりだ。
実際、7月9日付け日本経済新聞でも
日本株と米国株がそろって最高値を更新し続けている。9月米利下げ開始の障害がなくなりつつあるほか、半導体を中心に世界の製造業が持ち直している。投資家は不況を回避しながらインフレ沈静化に成功する「ソフトランディング(軟着陸)」シナリオ実現を見込む。世界経済のほぼ唯一のけん引役である米国景気には陰りが見え始めており、株高の脆弱さを指摘する声もある。
URL: https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUB082E30Y4A700C2000000/
(一応紹介しておくという主旨かもしれないが)「米国景気には陰りが見え始めており」などと書かれている。
いわゆる《景気悲観派》という奴で、最近の世界で流行している派閥対立が、本来は客観的な議論の模範であるべき経済分析でも、広がり始めている。
そもそも将来予測は、一点賭けとは反対の確率的予測以外にはあり得ないわけで、最もありうると思う事象が少し違うという程度の違いしかないのが真相である。
それを対立状況にまでもっていき、論敵をつぶそうとする……実に幼稚だ。
主観的には知的進化を唱えつつ、実質としては知的劣化が目立つという現代世界の傾向を象徴しているようで、情けない。
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さて、アメリカの先行指標として信頼性の高いThe Conference BoardのLeading Indicatorをみると
The LEI did not signal a recession in May as its six-month growth rate trended less negative
あれは三川が打ったんだよ。三川の電報だったので、俺は北へ行ったんだよ
データでなく人に同調するところから判断の歪みが生まれる ― ついでに言うと、真偽より人に同調する所から派閥は生まれる。人を信じるのは好い事だが場合によりけりだ。
「北方に敵機動部隊あり」という「入電」を信じて、敵を叩こうと独断行動へ出たという栗田中将の動機は正しいが、情報分析としては、杜撰で、危険であった。
多くの《反証》をノイズであると無視して、自分の事前の信念、願望に合致する証拠を採用する行為を、統計学では《データ・クッキング》と言っている。
実証の衣をまとった思い込みは、いま世間に溢れかえっている。その姿勢が不毛の派閥対立を招いている。
宗教対立も哲学的対立も、更にまたイデオロギー対立も、意味は同じだが価値観の対立も、すべて根は同じである。
【加筆修正:2024-07-12】
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