2024年11月10日日曜日

ホンノ一言: アメリカと比べて絶望するより、ヨーロッパとまず比べては?

ネットに可視化されている様々な意見は、たとえ邪見、偏見が混じる玉石混交の「闇鍋」状態であるとしても、それはそれで《世論》という何モノかの一断面であると思う。

今日あたりは

米国はなぜ日本より豊かなのか?

こんなヘッドラインを見かけた ― 書かれている内容は大体想像できるので読みはしないが。

これには思わずクスクスと笑ってしまいました (^^。

いまどき日本の生活水準をアメリカと比較する人がまだ残っているとはネエ・・・

「不適切にもほどがある」とまでは言わないが、何だか「あなた自身を知れ」というか、ソクラテスを連想してしまいました。

世銀で提供している"GNI per capita ranking"(=一人当たり国民総所得の国際比較)をみると、

2023年時点でアメリカは第6位で80300ドル、日本は第32位で39030ドル、故に日本はアメリカの半分未満である。

GNIは"Gross National Income"を表す。但し、これは世銀のATLAS法による換算値だ。つまり、毎年の対ドル為替レートに3年後方移動平均を施した修正為替レートでドル換算するのだが、その際に世界インフレ率と当該国インフレ率との乖離率をウェイトとする加重移動平均にしている。基本的には為替レートで換算しているから、観光でアメリカを訪れた日本人には実感できる数値かもしれない。

購買力平価で換算された数値も公表されている。それによれば同じ2023年でアメリカは第10位で82190ドル、日本は第38位で52640ドルになっているから、日本はアメリカの概ね64%のレベルになる。

為替レートによる換算よりは、こちらの方が日常的な生活感覚により近い数値になっているかもしれない。なお、購買力平価ベースの一人当たり国民所得でみると、日本はG7グループの中の最下位、第34位の韓国よりも低い。この後は、ATLAS法による数値(=修正為替レートでドル換算した値)で話を進めよう。

要するに、日本とアメリカの生活水準には大きな違いがある。日本から見て「アメリカは豊かだ」と感じるのは、確かに数字としての根拠があるわけだ。


これから直ちに頑張って、日本がアメリカに追いつく可能性があるとしても、20年(いや30年?)はかかる程の大差である。次の世代に頑張ってもらうしかないが、今や「絶望的」と言ってもよい程の違いである。箱根駅伝でいえば、二日目の復路スタート時点で先行する大学と10分の差がついている状況に近いかもしれない。1区間で2分ずつ縮めればイイという理屈はあるが、そんなことが出来るのか、という程の大きな差がついている。

G7で日本より下位にある国は、日本のすぐ下にあるイタリアで38200ドルである。文化的ストックはともかく、フローの生活レベルだけを比べれば、日本とイタリアには実感できるほどの違いはないとも言える。

他の英、独、仏、加は全て日本より上位にある。中でも相対的に低いフランスをとってみると45070ドル。イギリスはフランスより僅かに高く47800ドルである。アメリカよりはずっと低いが、それでも

フランスは日本より15%以上、イギリスは日本を20%以上も上回っているのだ。

これから日本の一人当たり国民所得を20%以上引き上げて、それは一人当たり労働生産性を上げるということでもあるのだが、イギリス、フランス並みの高さにまで到達すること自体、相当頑張らないといけないのは、最近20年間の日本経済をみれば納得がいくだろう。単に名目賃金を上げるのとは意味が違う。実質的なアウトプットを上げることが生産性の向上だ。

現場を(IT投資などをするなりして)効率化するか、同じ賃金でもっと頑張るか、さもなければ効率的な産業を拡大し、非効率的な産業は縮小して産業構造そのものを変えるとかしなければ、日本全体の生産性は上がらないわけである。

一人当たり国民所得を20%上げて先行する国に追いつくのが大変であることは容易に分かるはずだ。

仮にフランスを抜き、イギリスのレベルにまで追いついたとしても、その時はイギリスも更に先行しているであろう。イギリスに追いつくこともまた困難なのである。フランスに追いつくのも大変だ。とはいえ、フランスやイギリスはアメリカよりははるかに手前を走っているのである。

日本とアメリカを比べるのは「身の程知らずが!」と言われそうだが、イギリス、フランスと比べるなら、現在時点でまだしも現実的な計画を立案できそうだ。

何も太平洋戦争開戦前のように

世界の中の日本を知れ

と言うつもりはない。島国日本で暮らしていると隣国の(本当の)生活水準には無知になりやすい。まして世界に関してはをや、である。

とはいえ、いくら日本国に自信があるとはいえ、

いまの状況で、日本とアメリカを比較して、日本人はアメリカに学ぶ覚悟ができているのか?

この問いかけをしたい。経済だけではなく、社会的進歩には犠牲が伴うのである。


移民やイノベーション、制度変更など色々な激変に対して免疫がある、というか頑健なスピリットをもっている資源大国・軍事大国・農業大国・知財大国アメリカと日本を比較することで、なにか日本にとって有益な示唆が得られるのだろうか?

むしろ資源、歴史など所与の条件がアメリカよりは近いヨーロッパと比べてはどうか?

まずはG7内の例えばイギリス、フランスに追いつくように頑張るか、と。英仏が悩んでいる問題と、その解決に向けて2国がそれぞれどんな風に取り組んできたか、と。フランスは大統領制だが、イギリスには王制と議院内閣制が併存している。どちらにしても、歴史的、資源賦存状況等々の面で日本との比較に親和性があるのではないだろうか。宗教や個人主義、文化的伝統はともかく、少なくとも日本が真似しようと思えばマネできる範囲にいる。そこがアメリカとは違う。


海外に後れをとるのが嫌なら、はるか先を走り、地力の違いがあるアメリカを目指すよりは、より近いところを走っていて国の大きさもアメリカよりは似通っているイギリス、フランス辺りを先ずは目標とする。この方が現実的だと思いますが、いかに? アメリカを手本にして無理をすると日本社会が空中分解して墓穴を掘りますゼ。

【加筆修正:2024-11-11】


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